日記#129
夕方の海沿いを歩いています。
私はあなたのことが怖いです。目の奥をじっと見られて全てを見透かしたみたいなあなたがとても。その目は冷たくて黒くて乾いています。
だけど私はあなたのことが好きです。何故でしょう。それは私にもわかりません。全部諦めたみたいなあなたに私の歪んだ母性が歓喜してるような気がします。今なら母親の気持ちが少しわかるような気がします。こういう人を好きになったから家庭が壊れたのかもしれません。私は父がどんな人か知らないけれど
今何を見てますか?何を考えていますか?どう言った感情でしょうか。怒ってますか?哀しいのですか?それとも少しだけ楽しいですか?私が隣にいるのは迷惑ですか?どこか体調が悪いのでしょうか?
どうして彼は私と一緒にいるのでしょう。彼は私がいない時、私について考える時間はあるのでしょうか。私はこういった事を彼がいない時に絶えず考えてしまいます。いない時だけならまだしも隣にいる時ですら考えてしまうのです。
私の友人は私のこの状態を不健全と言います。ですが私はこれくらい不安の方がむしろピンピンするのです。
彼が立ち止まったので、私も立ち止まりました。
「きれい」
「夕日?」
「うん」
「きれいだね」
「海に映ってる」
「ほんとだね」
「海もきれいだな」
「ね、キラキラしてるね」
「寂しいな」
「え?」
「沈んじゃうの寂しいな」
そう言ってまた前を向いて歩き始めました。
いつもこんな感じです。パッとこっちに意識を向けたと思ったら次の瞬間にはもうここにはいない、あっちの世界にアクセスしてるみたいな顔に戻ります。会話ができることで分泌される何かがあります。それは普通の人が手を繋いだり抱きしめ合ったりした時に分泌される成分に近いものが出てる気がします。
今日私は彼を殺します。ついさっき頼まれたからです。
「海に落として欲しい」
と言われたので今は彼を突き落とすために崖の先端に向かってます。
彼がごくたまにする要求に応えることは私にとってとても重要なことでした。必要とされていることへの快感と私にしかできないことをしているという優越感。またそれによって彼との関係を繋ぎ止められているという安心感。
ハハハ。こんなとこまで来てしまったよ。パパ、ママ私は今から愛する人を殺します。
とうとう崖のギリギリのところまで来ました。辺りはすっかり暮れなずんで海と空の境界はとても曖昧になっていました。
「じゃあ」
「あ、うん」
「いい?」
「いいよ」
「さようなら」
「じゃあ、またいつか」
彼は海に沈んだ。
沈んでいった夕日を追いかけるように。
もしかすると彼は寂しい気持ちにならないようにと沈んでしまった後の夕日を見たかったのかもしれない
「さようなら」
あなたがずっと行きたがってたあっちの世界だよ。
私は来た道を歩き出しました。隣に彼がいないのは少し寂しかったけど仕方のない事です。
最後に一度振り返ると彼が浮いていた。何か動いている。え??なんだ??ん??私は目を凝らしました。
ちょっと待って泳いでる。
すごい泳いでる。綺麗なバタフライ。
え、ちょとまってあっちの世界って
え??あ、そういうこと??こっちの世界のあっちの世界ってこと?
そこに行くのは死ぬことよりも大変だと小さい頃にママが言ってた。
彼の向かう先には私達の街の誰も行ったことのない世界があります。
その名は「トーキョー」。
沢山四角くくて長い家みたいなのが見えます。細長くて先の尖った家みたいなのもあります。ここから見えるのだから相当大きいのでしょう。私達のような人間が住んでいるのでしょうか。想像を絶する文明が栄えているようなきがします。
それともエイリアン??
であればもしかすると彼にピッタリの場所かもしれません。
彼はトーキョーに向かいました。
何をするのか分かりませんが応援しています。
今日で活動1周年❤️
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