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母方の親族は皆、前倒しがデフォルトだ。

母方の親族は皆、前倒しがデフォルトだ。遅れるなど絶対にあり得ない。例えば2時の約束なら1時半には集まっている。場合によっては45分前だったりもするため、そこを見越して時間設定をしないといけない。
だからってお前、命日まで前倒しして来なくても、と言われそうだと思いながらも、1週間も前の日曜の朝、墓参りに行った。よく晴れた気持ちの良い夏の朝。母が逝った日を思い出す。近くにある癖に滅多に行かないのだからと、抱えるようにして花を持ち、軍手や鋏なども持参して歩いて行った。7時前。往来には人も少ない。行きも帰りもマスクなしで表を歩いたのはどれだけ振りだろう。
裏道からお寺に着き、墓石を掃除する。持参したリビング用のウェットクリーナーで全体を拭く。うわあ真っ黒。当たり前か。拭き上げるとマーブル模様が柔らかく朝日に輝く。花入れに水を入れ、花を生ける。線香に火をつけ、お菓子とビールを取り出す。まるでモームだ。でも、マリーのビスケットもビールも、どちらも母は好きだった。
墓石に刻んだ言葉は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」からの一節。厳しくも慈愛に満ちた母にこれ程似合う言葉もなかろう。

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