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若菜晃子『旅の彼方』刊行記念トークイベント【著者に会いに行こう】


読んだ本の著者の話を直接聞きに行って、本と著者ににじり寄った記録をまとめています。

今回は、昨年末、旅についてのエッセイ「旅の彼方 」を刊行された、若菜晃子さんです。

2019年「旅の断片」、2021年「途上の旅」に続く3作目の今回の作品。前作2作も本屋さんで見かけて気になっていたのに、なぜか購入にいたらずでした。
ですが新刊の3作目のあとがきを立ち読みしたら、これは!と迷わず3冊まとめ買いです。

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誰もが一度きりの人生を生きているのであって、自分の人生は自分のものなのだから、自分が納得できるように生きて、少しでもよりよい自分になろうとするしかない。私はこれまでの人生をそうして生きてこられたことを幸運に思う。これからも、旅に出て、自分の足で歩き、目で見て感じ考え、自らを見つめ直しながら生きていきたい。(「旅の彼方」より)

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子育ても終わりが近づき、いわゆる社会復帰をして、来年には還暦、自分に還る歳を迎えます。体力の衰えを日々実感する中、今がいちばん若いから、やりたいことはためらわずにやっていこうと切実に思っていて、そのひとつが旅。私にとってちょうど今が若菜さんの旅エッセイに出会うべき時だったようです。実際に手に取り、読みすすめながら、”いま”出会えてよかったと感じています。

その勢いで、刊行記念のトークイベント、3回行ってきちゃいました!

★1月18日、荻窪の書店【title】
店主の辻山良雄さんとの対談
★3月8日、銀座の子どもの本の店【教文館ナルニア国】
ナルニア国の方が司会
★3月10日、早稲田のレンタルスペースで【青と夜の空】主催    
装丁をされた、デザイナー櫻井久さんとの対談

いずれも若菜さんと長くおつき合いのある方ばかり、そして私にとっても思い入れのあるみなさんがお相手で、寛いだ雰囲気の中でお話を伺うことができました。



若菜晃子さんは1968年神戸生まれ。
大学入学時に上京し、卒業後は山と渓谷社に長く勤められ、今はフリーで活動中です。書籍の編集や雑誌「mullen」の発行、ライターとして雑誌などへの寄稿も行なっておられます。

この旅のエッセイは、1冊にはまとめきれないと、当初から3部作として企画されました。
「旅の断片」では【街と人】、「途上の旅」では【自然】、「旅の彼方」では【旅の周辺】が大きなテーマ。旅に出る前に考えていたことから旅に出て感じたことまで、20代の頃からしっかり書きとめていたという若菜さん。そのノートを元にエッセイを書くことになって、自分が辿った道のりを書くのではなく、旅で出会う特別な瞬間、その断片的な美しさを書きたいと思われたそうです。

私の”旅の断片"

3冊とも、多くは見開き2ページか4ページの小さな物語で、ドラマチックな展開があるというより、さもない小さな日常のひとこまです。でも、さもないからたいしたことない、というわけではない。たとえば、辻山さんとの対談では、旅先で石を拾って帰る話で盛りあがり、さもないことの楽しさが伝わってきます。

私は旅先でよく貝殻を拾ってきます。引き出しの隅に入れて、時々手にとって思い出します。


若菜さんにとっての"旅とは"を私なりに勝手にまとめてみるとー

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慌ただしい日常から離れて旅に出る。
飛行機に乗って彼の地に向かう間に、いろんなものが削ぎ落とされていくから、そこで出会うひとや景色や自然の音にも、ふだんより敏感になっている。
自分の感覚が研ぎ澄まされたなかで体験を重ねて、自分の内面をじっくり顧みる時間も得られる。

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私はここ数年、ひとり旅に出て目的地に着くと、「あぁ、自由な時間が始まる」と感じていました。家事や仕事など、日常のタスクから離れられるということもありますが、そういった外的なものというより、旅の時間が進むにつれ、内的に深く広く自分が放たれ開かれていく感覚があるのです。
若いころは、外に放たれ開かれていく感覚だったのに、いつのまにかベクトルが反転していたんですね。

そしてこの感覚は、去年夏に初めての海外ひとり旅で訪れた台湾旅について書いた時に見つけたのと同じではないか、と気づきました。

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ふーっと、大きな深呼吸をして、体の中の空気を入れ替えた、そんなひとり旅になりました。
日常生活ではこんなスケジュールで動くことは叶わないけれど、心の持ちようとしてこの感じを覚えておこう。

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うまく言葉にできないでいたこの感覚が、若菜さんの旅の本のなかで語られていたのです。それは、『旅を通して自由になったら、自分を見つけやすくなる。そして日常に帰ってきたときに、また少し自分の本質に近づいているという手ごたえと充足感』だったんだと、自分なりに言語化できて、すっきり!


こうして直接お話を伺いに行くと、本をさらに楽しむヒントだけでなく、発見やごほうびがいろいろあります。

若菜さんの著作は初めて読んだと思っていましたが、実はすでに2冊持っていました。

「石井桃子のことば 」と「岩波少年文庫のあゆみ 」


いずれも、共著、編著でのクレジットだったのでお名前をスルーしてしまっていたようです(汗)。児童書専門店のナルニア国でのイベントということでようやく同一人物ではないか!と気づいた次第。(抜けてますねえ、私・・・)
ナルニア国のイベントでは、子ども時代に児童文学にふれたお話もたくさんしてくださって、実際にご自身の愛読書を持ってきてくださいました。時の流れを感じる年代物の本たち、なつかしすぎる!同じタイトルがうちのみかん箱にも入ってるし、その幼い日々はまさに私自身と重なる部分が多く、若菜さんとの距離がまたぐぐっと近くなりました。

また、櫻井さんとのイベントでは、装丁がどのように作られていくかのプロセスのお話が興味深かったです。櫻井さんは島田潤一郎さんの出版社、夏葉社の本の装丁をたくさん手がけている方で、どの本も佇まいが凛としていて素敵なんです。そして、ノートとして使えるからと、文章が載る前の仮本もお持ちくださいました。

どんな色の、どんな紙を使うかで、印象や手触りが変わってきますよね!


また、3回のイベントを通して若菜さんが語ってくださったのが、旅を「書く」ことです。
若菜さんがまだ若い頃に歌人の大岡信さんから聞いた話で、なかなか哲学的です。手元にあるメモを頼りに私なりに解釈すると、旅で受けとったものが像として残っていて、それを言葉にして書き留めると、写真とは違って自分の中に残ったものだけが言葉になってそこにある。そしてあとで読み返した時に、その書いたものが向こう側に立っていて自分を見ているなら、それはうまく書けている文章で、自分が何を思っているのか、自分の本質は何なのかを明らかにしてくれるよ、というお話でした。

これは、noteを書くようになって気づいたことに通じます。何かを書こうとすることで自分の感じたことや思いが整理されて輪郭がはっきりしていく感じ、があります。

旅をますます楽しみにさせてくれた3冊。
最後のイベントから2ヶ月も経ってしまったし、旅の日(日本旅のペンクラスが提唱した、松尾芭蕉が奥の細道に旅立った5月16日(陰暦元禄2年3月27日)を「旅の日」と定めたそうです)にも間に合わなかったけれど。
よかったら。
お手にとってみてくださいね📚

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