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絵本探求講座 第3期、第1回講座を終えて

2023年4月22日(土)絵本探求講座 第3期(ミッキー絵本ゼミ)第1回講座の振り返りをします。

受講動機と目標

【受講動機】
第3期は、第1期「絵本概論」・第2期「ジャンル別絵本」とは別の、「国別絵本(絵本賞の受賞作と特徴)」という切り口で絵本が学べるということで、継続で申し込んだ。
いろいろな視点を持って、絵本の魅力を再発見し、その魅力を自分の言葉で伝えられるように言語化トレーニングを積んで、学んだことを仕事や自分が関わっている活動に活かしていきたい!という思いで受講を決めた。
【目標】
・自分に響いたことを引き寄せ言語化する。第1期の時から始めた読書日記を継続する。
・中学校特別支援学級の支援員、校内図書室の司書業務のサポートをしている。生徒達の心に寄り添う中で、絵本を紹介し、活用する。
・支援団体の活動の一環である児童養護施設(幼児から高校生)へ絵本の選書と郵送のお手伝いをしている。いい絵本の選書ができるよう学びを深めて、災害を経験している子ども達の心のオアシス的な文庫に育てる。
・今回、初FA(ファシリテータ)。チーム4メンバーと勉強会やチーム間のコミュニケーションを重ねながら、楽しく学んでいけるようサポートする。層雲峡の発表に向けて、力を合わせて目標達成できるチームを作る。
・図書館司書の資格の勉強をする。

1.チームビルディング(チーム4)

自己紹介と今日の私の1冊

・私が選んだ絵本は…

『はしれ!チビ電』
もろはし せいこう/作 童心社 1997年5月

【 選書理由】
 夏休みに7人の子供達がゴミ捨て場から拾ってきた荷台を使って、ダンボールの電車をみんなで知恵や力を合わせて作るお話。子ども達の工夫が随所に見られ、イキイキと描かれている。出来上がった時の達成感、日が暮れるまで、電車に乗って、町中を走り回る姿に結束力を感じる。サトシくんが転校することを知って、寂しくなってしまうが、友情が確認出来て、7人で夏休みの最高の思い出が出来る。
チーム4も7人。絵本の学びと共に、私はこのご縁の中でチームビルディングについても学び、8月の層雲峡の発表に向けて、チーム4の皆さんと最高の夏の思い出を作りたいと思い選んだ。

・のりちゃん
『たんぽぽ』甲斐信枝/作・絵 金の星社 1984年2月
・おぶちゃん
『いっぽんの鉛筆のむこうに』たくさんのふしぎ1号
 谷川俊太郎文 堀内誠一/絵 坂井信彦他/写真 福音館書店 1989年
・ぱたぽんさん
『雨ニモマケズ』宮沢賢治/作 柚木沙弥郎/絵 三木商行 2016年
・じゅんじゅん
『たべるたべるたべること』
くすのきしげのり/作 小渕もも/絵 おむすび舎 2020年2月
・おこちゃん
『かんけり』
石川えりこ/作 アリス館 2018年9月30日
・まきちゃん
『ぺんぎん ぺんぎん ドボン ドボン』ちいさなかがくのとも
佐藤克文/文 平子真理/絵 福音館書店 2010年12月号

課題:自分が響いた1冊は?どうしてよかったか?

『たべるたべるたべること』…食べることはいのちと直結だ。あとがきの「~生きていくこと、食べること、そこに笑顔がありますように」と作者の言葉に共感した。じゅんじゅんが言った「私の中で食と同じく笑顔もキーワード」という言葉も同感だった。夫が大病を患って14年間、胃ろうだった。調子のよい時はゼリーやとろみの物を少量食べられたが、食べる前には、必ず舌の体操や首周りの体操をしてわずかずつ細心の注意をはらって、食事のサポートをした経験があるので、とても響いた。食べられることのありがたさを感じられる絵本だと思った。

2.チーム4good luckの目標

チーム4は、ゼミの前に、「4」から連想する言葉を出し合いました。
①    チームが苦しんでいる時に勇気を与える「最強打者」チーム4
②    若草物語の姉妹たちのようにいろいろ悩み、試練と出会いながら、ときに失敗しながらも奮闘する「若草物語」チーム4
③    誰かのために!みんなのために!「for」チーム4
④    北は北海道から南は九州まで「みんなが出会う場所(四つ角」チーム4
⑤    四字熟語「協力同心」チーム4
(力と心を一つにし、みんなで共通の目標に取り組むこと)
そして、チーム名は四つ葉のクローバーの花言葉から「good luckチーム」

課題:チームの目標(紹介された絵本を使って表現)

『かんけり』
石川えりこ/作 アリス館 2018年9月30日

新しい世界を開きたい!自分の中でいろいろ積み重ねてきてアウトプットの場を求めたい!…みんな自分の缶を求めてこのゼミに辿り着いたのではないか。課題はそれぞれ違うけれど、みんなの共通点は缶。仲間と関わることで、勇気をもらって缶を蹴ることが出来たらいい。
そして、紹介の絵本を振り返ると、身近な物が多い。「食べること」は毎日の当たり前のこと、その奥にある笑顔を大切にしたい。「たんぽぽ」は身近にある植物、「鉛筆」も身近な物…。当たり前の一つ一つの向こう側にすごく大切なものがある。そんなことを意識しながら、缶を蹴れたらいい。そして最後にチームとして大きな缶が蹴れるといい。

3.絵本はここから始まった

印刷技術の発明と発展

・1445年頃…ドイツのグーテンベルク(1398-1468)による活版印刷の発明。大量印刷可能に。
・18世紀後半…イギリス人画家、トマス・ビューイック(1753-1828)が木口木版を改良し復活させた。
・19世紀中旬…イギリスの彫版師・刷師、エドマンド・エヴァンズ(1826~1905)多色刷り木口木版の技術を開発した。才能あるイラストレーターの中から絵本作家としてふさわしい人材を発掘。
【エヴァンスに見出された画家】
 ウォルター・クレイン(1845-1915)
 ランドルフ・コールデコット(1846-1886)
 ケイト・グリーナウェイ(1846-1901)

ヴィクトリア時代に絵を印刷するには、画家が絵を描き、彫版師が彫り、機械で印刷した。したがって、読者が絵を見る時、そこに画家の腕前を見ているのではなく、彫版師の技量を見ているといえる。この時代、どれほどの彫版師がいたか、その実数は定かではない。
・絵本の作り手であるモーリス・センダック(1928-2012)は、ジョナサン・コットとの対話の中で、「今日の方が印刷機械も良いし、印刷についての知識も多いし、可能なことも増えた。にもかかわらず仕上がりは良くない。と言って嘆き、自分の絵もエヴァンスに印刷してもらえたら」とクレインやコールデコットを羨んでいる。

ウォーター・クレインの本の仕事

私は、2017年「ウォーター・クレインの本の仕事」展に行った。ウォーター・クレインの仕事を通して、絵本を見ていきたい。

「ウォーター・クレインの本の仕事」展 DM
『美女と野獣』装飾的細部描写と鮮やかな色彩感覚が共鳴

ヴィクトリア時代(1837-1901)は、芸術と職人の技が結合してエネルギーが爆発したような時代でした。そして、絵本という形で花が開いた時代でもありました。ウォーター・クレインは、絵本の絵を描き、絵本をデザインする人として、世に出、絵本制作の過程でアーティストとして認められてきました。クレインは絵本画家として最初の人であり、現代の絵本の源にある人であると言えます。

正置友子先生の案内より抜粋

細密肖像画家のトーマス・クレインの次男としてリヴァプールで生まれる
・13歳の時に著名な彫版師ウィリアム・ジェームズ・リントンに弟子入りし、3年間工房で働く。
1865年-1876年(12年間)絵本制作エヴァンスは、彫版師であり、印刷師であり、アートディレクターであり、編集者であった。クレインは絵師であり、ブックデザイナーであった。お互いが「完成された同士」の関係だった。
1865年オールカラーのトイ・ブック(8-12頁ほどの簡易なつくりの絵本/サイズ25.0x17.0㎝、6ペンス、福音館書店ペーパーバック版「こどものとも」と同じ感じ)を出版。それまで絵本のカラー印刷は表紙に限られ、中の挿絵ページは手彩色だったので、とても画期的な出来事だった。二人は絵本のヒット作品を世に送り、有名になった。

「子どもたちのトイ・ブックス」
本の作製分野の中で、子どもの本を作製するときほど、いっそうの熟練の技と良いセンスに培われた細やかな配慮とが必要とされる分野はないであろう。にもかかわらず、このことは概してなおざりにされてきた。子どもたちにはまるでガラクタモノで充分だというふうに考えられている。なんというひどい間違いだ!もし可能であるならば、本当に美しいもの、純粋なもの良いものだけが、子ども時代の感じやすい目と耳に提供されるべきである。

出版業界の新聞『ブックセラー』1865年12月12日号

正置友子先生は、この文章からわかることがあるとおっしゃっている。
 ①[子どもの本]というカテゴリーが出版業界の間で成立しつつあった事。
 ②子どものために絵本を購入する層があらわれたこと。
 ③「トイ・ブック」という名称が「絵本」と同義語で使われていたこと。
 ④良い絵本作りが可能になったこと。
 ⑤子ども達には質の良い絵本を与えるべきであると考える大人がいた事。
・1865年…クレインの最初の絵本は、2冊のアルファベッドの絵本でした。
・1866-1869年…インクの色数の増加と絵本デザインの工夫がされた
・1870-1872年…浮世絵から影響を受ける…日本のうちわや浮世絵風の絵も登場し、当時のジャポニズム・ブームが描かれている。明確で力強い輪郭線、鮮やかな色使い、装飾的な感性、黒をひとつの色として使う。
・1873-1876年…絵本史上初のシリーズ表紙「ウォーター・クレインのトイ・ブックス」新シリーズ。表紙の右上に”Walter Crane's Toy Books"とあり、大きな鳥が”New Series"と書いた看板をぶら下げている。要するに、「ウォーター・クレインのトイ・ブックス:新シリーズ」という位置づけで出版された。
・1874-1876年…豪華な表現が叶う1シリング絵本と転機1シリングとは、6ペンスの倍の値段。サイズは、27x22㎝。6頁の絵が片面刷り。文字とテキストは別刷で6枚の絵(片面の場合は6頁、両面の場合は12頁)シリングもののポイントは絵にあった。色7色とキーブロックの黒。印刷が美しく入念の仕上がり。(『美女と野獣』にみられるような豪華な絵)
ここに絵本としての問題が起こった。絵が絵本の中の絵として機能するのではなく、見せる絵になり、絵だけが文章から離れて独立していく。そして、絵と文章が分離したことにより、クレインは制作の喜びを失っていく。支払いの面でも問題が生じ、トイ・ブックの制作を中止する。

「ウォーター・クレインの本の仕事」展チケット(左)
『長靴をはいたねこ』の中の絵葉書(右)
『長靴をはいたねこ』(左)
シャルル・ペロー/原作 ウォーター・クレイン/絵 秋野翔一郎/文 童話館出版 2006年
表紙の絵の絵葉書(右)
『長靴をはいたねこ』(日本語版にはテキスト部分は印刷されていない)
この作品にも日本のうちわが描かれている(ジャポネスク)
『シンデレラ』絵葉書
黒を効果的に使った装飾的スタイルを確立

・1877年以降…多彩な仕事で活躍。子ども向け・大人向けの挿絵の分野で数々の傑作を生み出す。その一方で、壁紙、テキスタイル、室内装飾などのデザイナーとして、またアーツ・アンド・クラフツ運動の推進者、社会主義活動家、装飾芸術の理論家、教育者、画家として多方面で活躍した。

ランドルフ・コールデコット(コールデコット賞)

エドマンド・エヴァンズとともに制作した16冊の子ども向け絵本はコールデコットの代表作。絵とことばが互いを補って物語の世界を広げる作風は現代絵本の源流のひとつと位置づけられた。軽やかでのびのびした線とユーモラスで温かい表現が魅力的で、日常の出来事や人間や動物たちが生き生きと描かれている。
没後、1937年全米図書館協会が、ランドルフ・コールデコットを記念して、優れた絵本にイラストをつけた画家へ贈られるコールデコット賞(コールデコット・メダル)を創設。翌年から授賞。アメリカで出版された絵本が対象。なぜかというと、ヨーロッパが戦争になり、絵本を作られなくなった。その時アメリカでは絵本が黄金時代を迎えていたから。

ランドルフ・コールデコットの代表作である16冊の木版色刷り絵本を、最新のオフセット印刷技術を用いて、原書そのままの美しさで完全複刻(16冊のうち3冊)躍動感あふれる軽やかな筆致。生き生きとしたユーモア。120年余を経た今も読む人の心をとらえて離さない

ケイト・グリーナウェイ(ケイト・グリーナウェイ賞)

イギリスでは子供が『小さな大人』として扱われがちだったが、グリーナウェイはその中にあって子供を『子供』として描いた数少ない画家の一人だった。ヴィクトリア時代の理想的な子どもの姿を描き、当時の子供服のデザインに影響を与えた。1955年に彼女を記念して設立されたケイト・グリーナウェイ賞(ケイト・グリーナウェイ・メダル)は、英国図書館協会により、毎年、イギリスで出版されている絵本の中で特に優れたイラストレーターに授与されている。(2023年より賞の名称が「カーネギー賞、画家賞」に変更)

J,&A,テイラーの『リトル・アン』よりケイト・グリーナウェイ画 絵葉書
淡い色調で描かれた庭園、野原で遊ぶ子どもたち。

【参考文献】

『絵本入門』(左)
『ウォーター・クレインの本の仕事』(真ん中)
『センダックの絵本論』(右)

まとめ

「ウォーター・クレインの本の仕事」展を振り返ることが出来、当時購入した絵葉書や本を見返して、当時会場で”絵本の始まり”を観て、職人の手仕事に非常に感動したことが蘇った。芸術と職人が結びつき、まさに「絵本は総合芸術」であることを感じる。ゼミの講義を終えて、当時より学びが深くなった今、現代の絵本の基礎を築いた重要な画家たち、彫版師たちに改めて尊敬の念が湧いてきた。また、DMに「クレインのほぼすべての絵本と主要な挿絵本を網羅する約140点の作品、コールデコットとグリーナウェイの作品約40点が展示」とあり、美術館にそれだけの作品が集まったこともすごいこと。所蔵者の協力があったんだなと。また、綴じてあるものもバラして展示してあったことを記憶している。正置友子先生のこの展覧会に掛けられた情熱はクレインに共通するのではと今になって感じる。私はとても貴重なものを観たことに、この振り返りを書きながら一人感動している。クレインは、家族との絆も強く、クレインが子どもの為に創作した絵本はクレイン家の家族愛を物語っている。
子ども達の為に情熱をもっていいものを届けたいというひたむきな想いは、コールデコット賞やケイト・グリーナウェイ賞の受賞の作者も同じだと思う。絵本は毎年沢山出版されているが、受賞される絵本、ずっと読み継がれていく絵本は、そこが大事にされていると思う。

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