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絵本探求講座 第4期、第4回講座を終えて

2023年12月10日(日)絵本探求講座 第4期(ミッキー絵本ゼミ)第4回講座の振り返りをします。


課題の絵本

「絵本の絵を読み解く」ことを目的に選書する。

『こりゃ まてまて』

作: 中脇 初枝
絵: 酒井 駒子
出版社: 福音館書店  
発行日: 2008年5月

*選書理由

酒井駒子さんの絵が好きということ。私には主人公と同じくらいの孫がおり、駒子さんの絵がリアルで共感するところがある。孫にも読み聞かせをしている。この絵本の対象は、0・1・2歳。そのため、赤ちゃん絵本の絵の読み解きをしたいと思い、この絵本を選んだ。

*あらすじ

よちよち歩きの子どもが散歩中、蝶々やトカゲ、鳩や猫に出会うが、追いかけようとすると、みんな逃げられてしまう。身近な生き物との出会いを描いた絵本。

*1歳4か月頃の発達の特徴(孫の成長を見ながら)

手を繋がなくても一人で歩くのが上手になってくる。でもまだ危なっかしく目が離せない。靴を履かせて外に出ると喜ぶ。日に日に歩ける距離が長くなる。自分の行きたい場所へ歩いて行けることを楽しんでいる。「どうぞ」「バイバイ」など、意味をわかって発する言葉が少しずつ出てくる。自分の名前を呼ばれると返事する。歌に合わせて踊ったりする。
大人が「ちょうだい」といえば持っている物を差し出したり、「どうぞ」と言って身の回りにあるものを手渡してくれる。物を介したコミュニケーションができるようになる。
手のひら全体で物をつかんでいたのが、親指と人差し指を使って、細かい物をつまめるようになる。小さな石を拾ったり、家の中では、床に落ちていたゴミをつまんでいたりする姿を見かけるようになる。何でも触りたがる。

*酒井 駒子さんの描き方の変遷

『リコちゃんのおうち』
作・絵:さかいこまこ  出版社:偕成社 発行:1998年
デビュー作。シンプルで柔らかなタッチ。
『よるくま』 
作・絵:酒井駒子 出版社:偕成社 発行:1999年
2作目は「夜のおはなしが書きたかった」と酒井さんはインタビューで述べている。その後につづく、少し陰のある画面づくりが、ここから始まっていく。ただ、輪郭自体は柔らかく、ボールペンで描かれたシンプルなライン。
『ぼくおかあさんのこと…』
作・絵:酒井駒子 出版社:文溪堂 発行:2000年
この本の制作中、線が粗めだったので、下地を黒にして塗ってから描くと、汚れも気にならず描きやすかった為、これ以降の作品は、黒い下地を予め塗るという工程になり、現在まで続く酒井さんの絵の技法に。荒く塗られた背景の下から除く黒が、なんとも言えない雰囲気を出している。
『ロンパーちゃんとふうせん』
作・絵:酒井駒子 出版社:白泉社 発行:2003年
この作品の中は、全体的に白っぽい画面。それは、あえて黄色い風船が目立つようしているからという。でも、それも黒く下地を塗った上で白を塗っているというひと手間を掛けている。
『はんなちゃんがめをさましたら』
作・絵:酒井駒子 出版社:偕成社 発行:2012年
黒の下塗り技法を使い始めて、10年ほどたったこの作品は、背景色を塗り残しで下地の黒が垣間見える手法を意識して使っているのがわかる。それが効果的な雰囲気を作り出している。この作品は、グレーの段ボール紙に描かれている。

月刊MOE 白泉社 2018年10月号 P24~43

*絵本の絵を読み解く

  • 表紙…子どもが持ちやすいように、大きさは約20㎝四方の正方形。ハードカバー。安全面から角を丸くしてある。題名、お話の中のフォント一文字一文字が整列していない。(タイポグラフィ)主人公のよちよち歩く様子が、文字に現わしているようだ。主人公の子どもは、男の子とも女の子ともとれる。幼児体型のあどけない表情を、我が子(孫)に置き換えて、共感を呼ぶ読者は多いと思う。くせ毛で、髪の質感まで感じ取れる。主人公の近くには、ハルジオンが咲いている。ハルジオンは4~5月開花。蕾は下を向いている。葉は茎を巻くように付いている。よく似ているが、6~10月に咲くヒメジオンではないことがわかる。蜂が花の蜜を吸っている。他のページでは、シロツメクサやたんぽぽ、綿毛も見ることが出来る。半袖を着ているところを見ると、5月の初夏を思わせる陽気な一日なのかなと想像する。主人公が向かって左(本を開く進行方向ではない方)を向いているのは、意味があるのか、疑問に思う。

  • P.1~2…ハードカバーで、見返しがないので、いきなりお話に入っていく。「こりゃまてまて」と言って、飛んでいる蝶々を追っかける。画面が白く、余白がたっぷりあることで、蝶々の黄色が目立つ。塗り残しで下地の黒が垣間見える手法は、味がある。

  • P.3~4…「ひらひらひら」と蝶々は舞い上がって、子どもは採ろうと両手を広げるが、手の届かないところへ飛んでいってしまう。子どもの目線は下向きから上向きへ。

  • P.5~6…今度は、トカゲが出てきて、「こりゃまてまて」と言って、しゃがんで掴もうとする。しゃがみ方、掴もうとする指のしぐさ、半開きの口元など、リアルに表現されてかわいい。何でも触りたがる、恐怖心なく好奇心旺盛な様子が感じ取れる。

  • p.7~8…しかし、「しゅる しゅる しゅる」と股の下を通って逃げてしまった。トカゲはすばしっこいから、どこ行ったのかと、地面を見たままかたまっている様子。

  • P.9~P.18…次に3匹の鳩、その次は2匹の猫を追いかけるが、「ばさ ばさ ばさ」「みゃあ みゃあ みぁあ」と逃げられてしまう。そのたびに子どもの目線が、下向きだったり、上向きだったりする。追いかけては、逃げられるの繰り返しだ。子どもの一瞬のしぐさや表情がうまく切り取られている。ハラハラしながらも、ページをめくる楽しさがある。進行方向は右へ、右へ。(ページターナー)出会った生き物の動きや声は、オノマトペで表現されており、文字の配置が一定ではなく、絵とのバランスが取れている。

  • p.17~18…「こりゃまてまて」と追いかけられて、伸びてきたのはお父さんの大きな手。

  • p.19~20…お父さんに肩車をしてもらって、一気に目線が高くなり、父子ともに笑顔になる。公園の全体像が見えて世界が広がる。2匹の猫や鳩が戯れているのが、遠くに確認できる。お父さんの言葉「さあ  いこう」文字の配置は整っている。(整っているのはこの言葉だけ)お父さんの肩車の安定感に通ずる。一緒に散歩している気分になり、読後感がとてもいい。

  • 裏表紙…お父さんに肩車してもらっている後ろ姿。遠くに視線をやっている様子が感じられる。お父さんに体を預けて、安心している様子も感じ取れる。

*ミッキー先生の講評から

絵本における重要な要素は、自己同一化。子どもたちは絵本の世界に入って、物語の主人公として自分自身を感じることができる。これにより、ただ一つのパターンでしかない自分の生活以外にも、さまざまな経験をすることができる。この体験は、子どもたちの世界を広げていく。

*赤ちゃん絵本について

この時期には繰り返し同じ絵本を読みたがる。幼い子どもにとって、好きな絵本は葛藤、事件、冒険があってハラハラドキドキするドラマになっているからで、文章を覚えるほど聴き、描かれた絵を細部まで記憶して、心の中でその物語を消化しようとするのである。
こうした身体的な営みで、理解をしていくのが赤ちゃんたちで、その繰り返しに耐えられる絵本であることが求められる。そして、何度でもその要請に応えて読み続ける愛情が、大人には求められるのである。  (石井光恵)

『ベーシック絵本入門』生田美秋/石井光恵/藤本朝巳  ミネルヴァ書房  p53

幼い子どもたちが絵本を読むということは、読み手の大人と同じときに同じものを見て、共感したり、新しい発見を共有したりと、情感を交感させながらコミュニケーションを紡いでいくということである。発達心理学でいう赤ちゃんたちの共同注意という現象がまさにこの始まりで、赤ちゃんたちはこの共同注意によって同じモノに視線をむけて注意を注ぐことで、大人(母親)の感情や意図をくみ取り、そのモノの面白さ・楽しさを学んでいく。赤ちゃん絵本は、その共同注意を促す最良のモノといえるだろう。

『絵を読み解く絵本入門』藤田朝巳/生田美秋 ミネルヴァ書房 p49

まとめ

よちよち歩き出した子どもの視点を大事にされていると思った。この年齢の子どもにとったら、お散歩は発見と冒険の連続。酒井駒子さんの臨場感があって、的確な描写力、絵の力を感じる。文字は少ない、絵は余白が多く子どもの見える範囲のところしか描かれていない。絵も文も余計なものはそぎ落としているという感じがする。お話も繰り返しでシンプル。その流れの中で最後はお父さんの安心に包まれ、ホッとできる。
ミッキー先生の先生がおっしゃった”絵本は第3のへその緒”という言葉を大切にしたい。孫に読み聞かせすると、蝶々や猫を指さして、喃語を発する。喃語が意味を持つ言葉に変わっていくのかな…。絵本を通して孫とのコミュニケーションを育んでいきたい。
調べていくうちに、中脇初枝さんが、児童虐待をテーマにした『きみはいい子』の作者だったことがわかった。絵本だけでなく、幅広いお仕事をされていることを知った。

【参考文献】
『ベーシック絵本入門』生田美秋・石井光恵・藤本朝巳  ミネルヴァ書房  2013年
『絵を読み解く絵本入門』藤田朝巳/生田美秋 ミネルヴァ書房
『月刊MOE』 白泉社 2018年10月号 


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