おんな
物憂げな薔薇のやうな
ひとりのおんなが居りました
いえ、物憂げな、というのは
そも理由がありましてね
薔薇のやうな
正確には
薔薇のやうに生きてやると
思い、そのやうに生きて来ましたそのおんな
この刺があるから
わたしは
誰かを損ない
その誰かの痛みゆえに
この刺を引っこ抜きたいと
切望したのでございます
何たる矛盾、計算違い
刺をなくしたそのおんな
所謂、らしさを喪失したのですね
誰をも損ねぬ代償に
かの矜持を不遜な強さを
圧倒的な自我を失い
弱々しく蹲り
泣き崩れるおんなと成り果てたのです
物憂いおんなは
薔薇のやうではなく
ただの醜悪なる老女でありました
もとより薔薇のやうでは一度たりと無かったのでしょう