見出し画像

怪獣ギレゴンス

すべての現実を人質に
狭い校庭に立て籠もる
怪獣ギレゴンスは
小学三年生の
僕の背中を破って生まれた

まばたきチックの
ささくれだらけの
口内炎の
自家中毒の
対人恐怖の
乗り物酔いの
風呂ぎらいの
いじめの対象の
曇り空の好きな
僕の背骨を抉じ開けて生まれた

毎日のように食べさせられて
消化不良をおこしてた
僕の代わりに
親の異常な夫婦げんかを
いつも黙ってたいらげてくれた

一匹の虫も踏みつぶさず
木々の枝葉にくすぐられながら
猫背の僕と一緒に歩いてくれた
少し高めの鳴き声出して
半開きの口のまま
とぼとぼと

家にも学校にも
居場所のなかった僕の
ごんがらがったさみしさを
大きな手で不器用に
一生懸命ほどいてくてた
来る日も来る日も

満足したのか
疲れちゃったのか
それとも知らぬ間に
僕が見限っていたのか
いつだったろう
きみが居ないことに気づいたのは

宿酔の
恋煩いの
自傷癖の
人間不信の
「普通」に焦がれる
僕を残して
エスカレートしてゆく
父の独裁を残して

「ドブネズミみたいにうつくしく」
なりたかった
背中の破れたままの
僕を残して

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?