岬巡り
夕焼けが海に溶ける。
わたしの父は時折、悲しい目をする。
母に向ける優しい眼差しだ。
私は港町に住んでいる。
白いマンションの三階の角部屋。
乾いたユーカリと針の固まった時計
母と父は詩人だ。
わたしは、その世界を知らない。
母の顔も匂いも声も。何も知らず今
父と暮らしている。
胡桃。
わたしの名前。
母が好きだった
桐の箱には、線香花火。
これは、わたしが産まれる前の前のずっと
前の話。
父と母が確かに生きていた時代の話。
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