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秘密戦隊カッパジャー 第18話


キャンプ

登場人物
近藤祐樹(コンドウ・ユウキ)
今井由香(イマイ・ユカ)
西村隆史(ニシムラ・タカシ)
長沢美紀(ナガサワ・ミキ)

大学の友人グループが夏休みに山奥のキャンプ場に出かける。夜になると奇妙な出来事が起こり始め、見えない存在による恐怖に次第に追い詰められていく。彼らはその存在の正体を突き止めようとするが…。

第1章

  夏の終わり、彼らは大学の仲間と一緒に山奥のキャンプ場にやってきた。涼しい風が木々の間を抜け、焚き火の炎が暗闇を淡く照らしていた。彼らは焚き火を囲み、楽しげに談笑していた。

「この静けさ、都会じゃ感じられないよな」

 祐樹が言った。

「確かに。でも、あまり静かすぎるとちょっと不気味かもね」

 由香が焚き火に木の枝を投げ入れながら笑った。

 その時、ふと背後に冷たい視線を感じた。振り向いても、そこには何もなかった。ただ、森が暗闇に沈んでいるだけだった。

「なんか、変な感じがするんだよね」

 美紀はつぶやいた。

「おいおい、怖がらせるなよ」

 隆史が笑いながら言った。

 夜が深まるにつれて、奇妙な音が聞こえ始めた。風のせいかと思ったが、音は次第に大きくなり、キャンプ場の周囲を取り囲むように響き渡っていた。

「なんだ、この音?」

 祐樹が立ち上がり、音のする方向を見つめた。

 彼らは耳を澄ませた。何かが地面を引きずるような音が近づいてくる。

「誰かいるのか?」

 隆史が声を張り上げた。しかし、返答はなかった。ただ、不気味な音は次第に収まり、やがて消え去った。

「気味悪いね」

 由香が震える声で言った。

 テントの中に入っても、不安は消えなかった。彼らは寝袋の中で目を閉じ、早く朝が来ることを祈った。しかし、それは始まりに過ぎなかった…。

 

第2章

 テントに入ると、祐樹は深い眠りに落ちた。車の後ろの席に設けたテントは狭いが居心地は良かった。残りの二人も別のテントで静かに眠っているようだった。しかし、夜半過ぎ、突然のドアを叩く音で由香は目を覚ました。祐樹が目をこする間もなく、外から美紀の震える声が聞こえてきた。

「隆史が! 隆史が!」

 美紀は泣きながら車の外に立っていた。彼女の顔は恐怖で歪んでいた。

「美紀、どうしたんだ?」

 祐樹は急いで車から出ると、美紀は彼の腕を掴んだ。

「誰かがテントに入ってきたの…」

 美紀は震える声で言った。

「いきなり刃物で隆史を…」

「えっ!それで、顔は見たのか?」

 祐樹は冷静さを保とうと努めた。

「マスクをかぶってた…」

 美紀は涙を流しながら答えた。

「待って、隆史はどこだ?」

 祐樹は周囲を見渡し、別のテントに向かって走り出した。

 テントの中には、血まみれになった隆史が倒れていた。目を開けたまま、変わり果てた姿だった。

「なにがあったんだ?美紀ちゃん、落ち着いてちゃんと話してくれ」

 祐樹は震える声で言った。

「誰かが…誰かがテントに入ってきて、刃物で隆史を…」

 美紀は嗚咽を漏らしながら続けた。その時、彼女は指さして叫んだ。

「あそこ、あそこにいるわ!」

 祐樹が慌てて振り返るが、何も見当たらなかった。

「どこだ?」

「車に隠れたわ…」

 美紀は震える声で言った。

「警察を呼ぼう、美紀ちゃん、携帯は?」

 祐樹は美紀に向かって言った。

「テントの中…」

 美香は急いでテントに戻り、携帯を取り出した。こんな山奥では圏外かもしれないと半ば諦めていたが、奇跡的に繋がった。

「助けてください!」

 祐樹は震える声で電話に向かって叫んだ。

「どうしました?」

 冷静なオペレーターの声が返ってきた。

「今、キャンプにきていて友達が刺されました!」

「落ち着いて下さい。そこの住所は分かりますか?」

「住所と言われても…」

 祐樹が答える間に、犯人が再び襲いかかってきた。三人は一緒に森の方に逃げた。

「車に戻るのは危険だ。警察に電話したから、すぐ来てくれるはずだ。このままやり過ごそう」

 祐樹は冷静に言ったが、心臓は激しく鼓動していた。

 

第3章

 三人は森の中を逃げ続け、やがて古びた小屋を見つけた。息を切らしながら小屋に身を隠すと、祐樹は意を決した。

「俺が見に行ってくるから」

「駄目よ、一人になったら殺されるわよ!」

 由香は必死に祐樹を止めようとしたが、彼は聞き入れなかった。

「大丈夫、すぐに戻る」

 祐樹は由香の忠告を無視し、小屋を出て行った。


 数分後、祐樹の叫び声が夜の静寂を破った。

「うわぁぁ!」

「祐樹!」

 由香と美紀は顔を見合わせ、恐る恐る外に出た。そこで見つけたのは、変わり果てた祐樹の姿だった。

「祐樹…」

 由香が涙を流しながら祐樹に近づこうとした瞬間、背後から何者かが襲いかかり、由香は刺されてしまった。

「由香ちゃん!」

 美紀は叫び声を上げ、恐怖に駆られてその場から逃げ出した。彼女は必死に森の中を走り、やがて廃墟となった工場にたどり着いた。

 廃墟の中に転がっていた鉄バールを見つけると、美紀はそれを手に取り、息を潜めた。犯人の足音が近づいてくるのを聞き、彼女の心臓は激しく鼓動した。

 足音が近づき、犯人が視界に入った瞬間、美紀は力いっぱい鉄バールを突き出した。

「これでも食らえ!」

 鉄バールは犯人の太ももに深く突き刺さった。

「ぐあぁぁ!」

 犯人が苦痛の声を上げるのを聞きながら、美紀は再び森の中に逃げ込んだ。彼女は幹線道路に出ることを祈りながら、月明かりを頼りに走り続けた。

 やがて、彼女の目の前に車のライトが見えた。

「助けて、助けて!」

 美紀は大声で叫んだが、車はそのまま通り過ぎてしまった。通り過ぎていった車は赤色灯を回したパトカーだった。そのことは美紀にも分かっていた。しかし、警察は気づかなかった。

 手負いの犯人から必死に逃げる中、美紀はなんとか最初の事故現場まで戻り、そこでパトカーに助けを求めた。警察は迅速に対応し、美紀を保護した。
 事件の結果、隆史、由香、祐樹の三人は傷を負ったが命に別状はなかった。悲しみに暮れる美紀は、警察署で事情聴取を受けることになった。

第4章

 数日後、事件の影響で精神的にも疲弊しきった美紀は、街のカフェで静かな時間を過ごしていた。悲しみと後悔に押しつぶされそうな気持ちを抱えながら、一人コーヒーを飲んでいた。

 そんな時、一人の男性が近寄ってきた。彼は美紀に優しく声をかけた。

「大丈夫ですか?何かお手伝いできることがあれば…」

 美紀はその声に顔を上げ、目の前の男性を見つめた。どこかで見たことがあるような…? そんな気がしたが、すぐには思い出せなかった。しかし、ふとした瞬間、彼の太ももに目が留まった。そこには、美紀が必死に抵抗した際に突き刺した傷跡が残っていた。

「あなた…!」
 美紀は震える声で言った。

 男性の表情が一瞬硬直し、冷たい笑みを浮かべた。

「やっと気づいたか…」

 美紀の心臓が激しく鼓動し始めた。目の前の男が、あの夜の犯人であることを確信した瞬間だった。

「おい、騒ぐなよ!」

 見ると男の手には、光るものが握られていた。

「なにをしているんだ!」

 何者かが犯人の手首を掴んだ。犯人の顔が苦痛に歪み、振り返る。勇敢な男性が犯人を強く押さえつけた。しかし、犯人はその手を振りほどいて、逃走を図った。

「待て!」

 勇敢な男性は一瞬で藍カッパに変身し、素早く追いかけ始めた。しかし、犯人の男は近くに停めてあった車に飛び乗り、エンジンをかけた。
 車は大きな音を立てて動き出し、街中を突っ走り始めた。
 その瞬間、赤カッパがチョッパーバイクに乗って現れた。サイドカーには桃カッパが乗っている。

「藍カッパが追っているぞ!すぐに追いかけるんだ!」
 赤カッパが叫んだ。

「了解!」
 桃カッパが応じる。

 上空では、緑カッパがカッパタケコプターで飛び回り状況を確認していた。
「視認しました! 犯人は銀色のセダンに乗っています。信号を無視して突っ走っています!」

 緑カッパが無線で報告する。

「了解、上空からサポートする!」
 青カッパと黄カッパがカッパヘリコプターで追跡を始めた。


 犯人の車は信号無視、危険な蛇行運転を繰り返しながら、必死に逃げ続ける。街中から山道へと入り、車はさらに速度を上げた。しかし、藍カッパと他のカッパジャーたちはひるむことなく追いかける。

 山道の奥深く、突然、道の真ん中に紫カッパが立ちはだかった。車は激しく揺れながら止まり、エンジン音が消えた。
 犯人は車から降りると、逃げるのを諦めたようにその場に座り込んだ。

 赤カッパが近づき、犯人の顔を確認する。
「お前は…以前懲らしめた、いじめカッパだな!」

 犯人は何も言わず、ただ俯いていた。

 藍カッパが紫カッパに礼を言うが、紫カッパは不愛想な態度で去って行った。のちに他のメンバーは、紫カッパと藍カッパは兄弟だということを知ることになる。

 いじめカッパは警察に逮捕されたが、その後、事件は密かに揉み消された。

つづく
 
 

 

 

 

 

 

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