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グリ下キッズ

 ▼ 目次
 エピソード1:「グリ下の少女」
 エピソード2:「逆風の面接日」 
  大阪・ミナミの一角にいつのまにか若者が集まるようになった場所がある。それが通称「グリ下」。
 道頓堀川の戎橋えびすばしにあるグリコの看板の下はいつからかグリ下と呼ばれるようになった。

「グリ下の少女」
 佐藤美桜さとうみお。16歳。

 美桜は、グリ下の暗い路地を歩いていた。彼女はいつものように孤独を感じながら、足早に進んでいた。
 突然、美桜は明るい笑顔を浮かべた少年、賢人けんとに声をかけられる。
「こんにちは、俺は賢人!」
 美桜は驚いたが、少年の親しみやすい雰囲気に心が揺れるのを感じた。

 今井賢人いまいけんと。17歳。

 彼は児童相談所から逃げて来たという! 事実。彼のようなグリ下に居場所を見つける若者は多く、グリ下は彼らにとって心の拠り所になっている。

 美桜は、過去のトラウマから他人との関わりを避け、不登校と家出を繰り返している。彼女は家族や友人関係に悩み、誰にも心を開けずにいた。

 賢人は美桜に話しかけ続け、彼女の内面に触れようとする。

 美桜は距離を置こうとするが、彼の優しさと共感に触れ、徐々に心を開いていく。賢人も美桜に自分の過去を打ち明け、お互いに支え合う関係が芽生え始めた。
「俺、親父オトンに虐待受けて…でもこの前、死んだんよ」
「えっ! なんでなん?」
「親父、アル中で、朝から酒ばっか飲んでるもん。飲んで暴れて、好き勝手して! 死ぬときも勝手に死んでもうた」
「。。。そっか、でもなんか寂しいね」
 賢人は黙っていた。

「実はさ…私も小さい頃から、母親オカンに虐待受けてて、もう耐えれんなって、家出してきてん」
 美桜の手首にはリストカットで赤く染まった傷跡が無数にあった。賢人はそれを見て胸が苦しくなった。 

 彼女は、賢人との交流を通じて、自分自身や過去の傷を受け入れる勇気を持てるようになっていく。

 一方、美桜の周りにはグリ下で様々な境遇や思いを持った若者たちが集まっている。彼らの複雑な感情や状況を目にし、美桜は自らの内面と向き合いながら、彼らとの関わりを通して成長していく。彼女は、グリ下での生活に絶望する若者たちの中心にいる存在だった。

 そんな彼女も孤独と苦しみに包まれていた。家族や友人たちとの関係が次第に希薄になり、美桜は深い孤独感に苛まれていた。

 彼女は苦しみから逃れるために、薬物を頼るようになっていた。最初は気晴らしのつもりだったが次第に薬物の魔力に取り憑かれていった。
 ある夜、過剰摂取してしまい意識を失ってしまう。

 幻覚と現実が入り混ざる中、美桜は自らの深層に潜む闇と向き合うようになる。

 長い間、自分が弱い存在であること、それを認めることを恐れ、悔しさを抱えていたが、今はその真実を受け入れる覚悟を持った。自らの弱さを受け入れることで自分自身と向き合う勇気を持つようになった。
 美桜は、グリ下での生活に絶望する若者たちの姿を目にし、彼女自身もグリ下での生活に疲れを感じていた。

 美桜は、賢人や仲間たちと共に、新たな未来を切り開くためにグリ下を離れる決断をする。

 グリ下を離れて更生への第一歩を踏み出す。
「もう逃げへん。ちゃんとやる」
  美桜は、仲間たちに支えられながら、共に前進する。

賢人と出会って共に過ごした時間が美桜に変化をもたらした。

「グリ下を卒業!」
「めっちゃ嫌! バリ嫌! 無理無理無理!」
「グリ下の卒業や!」
「私ガチでちゃんとしたいもん」

  美桜と賢人は、グリ下の路地を歩きながら、過去の辛い出来事や孤独を語り合った。

 お互いの心を開き、支え合いながら、新たな友情が芽生えていく。

 美桜は自分の弱さを乗り越え、人とのつながりを大切にし、共に成長していくと決心した。
 その一歩を踏み出して、美桜は新たな希望と強さを手に入れた。


 それから、数年後…。


「逆風の面接日」

 美桜は、これまでの人生で最も重要な面接に臨むはずだった。でも、朝からすべてがうまくいかなかった。
 目覚まし時計が故障し、急いでコーヒーを飲もうとしたところスーツにこぼしてしまい、さらに交通渋滞に巻き込まれてしまう。彼女は電車の中で、自分の不運を呪った。

 面接会場に到着した美桜は、コーヒーのしみを隠すためにジャケットを脱いで、面接室に入った。面接官からの質問は厳しく、時には彼女の価値観や過去の経験に深く切り込むものだった。でも美桜は、自分の失敗から学んだ教訓や、困難を乗り越えた経験を語ることで、それらの質問に落ち着いて答えた。
 面接官は厳しい表情で彼女を迎え、質問を繰り返した。

「過去に直面した最も困難な状況とは何ですか? そして、それをどのように乗り越えましたか?」
 面接官が尋ねた。彼女は落ち着いて、
「チーム内での意見の不一致に直面した時、私はメンバー全員の意見を尊重し、共通の目標に向かって一致団結することの重要性を学びました」
と答えた。

 次に、「弊社に入社したい理由は何ですか?」という質問が続いた。
 美桜は自身の熱意と貴社の理念が一致していることを強調し、
「御社の革新的なプロジェクトに魅力を感じています。新しい技術を学び、それを社会に役立てることに情熱を持っており、御社でその夢を実現したいです」と答えた。

 最後に、「あなたの弱点は何ですか? それにどのように対処していますか?」と問われた時、美桜は一瞬躊躇したが、正直に自分の完璧主義を告白した。
「私の弱点は、完璧を求めすぎることです。でも、それで、難しくなることも増えてしまうので、優先順位をつけ、計画的にタスクを管理することで対処しています」と答えた。

 面接が終わり、美桜が会場を出るとき、面接官の一人が彼女に声をかけた。
「今日のあなたの姿勢は非常に印象的でした。逆境を乗り越える力は、私たちが求めている重要な資質です」

 そして数日後、彼女は会社から内定の連絡を受け取り、その場で涙があふれた。
 彼女は、逆風の中でも輝くことができる、自分を知っていた。
 最も重要なのは、状況に負けずに前進し続ける勇気だということを学んでいたからだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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