ベクトル解析の公式の覚え方を提案します

 この記事では、大学の電磁気学などで出てくるベクトル解析の公式を覚えられない人向けに覚えるためのコツをとりとめもなく書いていきます。ここで扱う公式は全てGriffithsの"Introduction to Electrodynamics"の1.1および1.2のセクションで取り上げられているものです。公式の証明の詳細には立ち入らないので、ご注意ください。


スカラー3重積

$$
\bm{A} \cdot (\bm{B} \times \bm{C}) = \bm{B} \cdot (\bm{C} \times \bm{A}) = \bm{C} \cdot (\bm{A} \times \bm{B})
$$

 一般にスカラー3重積は3つのベクトル$${\bm{A}, \bm{B}, \bm{C}}$$ の貼る平行六面体の符号付き体積を与えます(スカラー3重積の絶対値の$${\frac{1}{6}}$$を取れば四面体の体積公式になります)。なので、3つのベクトルをサイクリックに入れ替えても値は変わりません。このことは、スカラー3重積の値の行列式表示からも分かります。

ベクトル3重積

$$
\bm{A} \times (\bm{B} \times \bm{C}) = \bm{B}(\bm{A} \cdot \bm{C}) - \bm{C}(\bm{A} \cdot \bm{B})
$$

 これは、通称BAC-CAB則と呼ばれます。ただし、上式左辺において、かっこは後ろについていることに注意しましょう(前につくなら、右辺の$${\bm{C}}$$の係数は0になるはずです)。これにより、外積に対するヤコビ恒等式が従います。

スカラー4重積

$$
(\bm{A} \times \bm{B}) \cdot (\bm{C} \times \bm{D}) = (\bm{A} \cdot \bm{C})(\bm{B} \cdot \bm{D}) - (\bm{A} \cdot \bm{D})(\bm{B} \cdot \bm{C}) 
$$

 これを覚える方法として、$${2 \times 2}$$の表を作って行列式のように覚える方法をKeshitanさんが紹介してくれています(リンク)。個人的にはこれが覚えやすいかなと思います。

スカラー倍へのナブラの作用

$$
\begin{align*}
\nabla (fg) &= f(\nabla g) + (\nabla f) g \\
\nabla \cdot (f \bm{A}) &= f(\nabla \cdot \bm{A}) + (\nabla f) \cdot \bm{A} \\
\nabla \times (f \bm{A})& = f (\nabla \times \bm{A}) + (\nabla f) \times \bm{A}
\end{align*}
$$

 これらは積の微分のイメージで覚えられるでしょう(というより、この公式が成り立つのは積の微分があるからです)。

内積へのナブラの作用

$$
\nabla (\bm{A} \cdot \bm{B}) = \bm{A} \times ( \nabla \times \bm{B} ) + \bm{B} \times (\nabla \times \bm{A} ) + (\bm{A} \cdot \nabla )\bm{B} + (\bm{B} \cdot \nabla )\bm{A} 
$$

 これを初めて見た時はびっくりしました。急に長い式が出てきます。関係なさそうに見えるrotが出てくることに注意しましょう。実際に証明を考えてみると分かるのですが、$${\bm{A} \times ( \nabla \times \bm{B} )}$$ から出てくる余分な項を$${(\bm{A} \cdot \nabla) \bm{B}}$$ が打ち消すという構造をしています。尻拭いとして$${(\bm{A} \cdot \nabla) \bm{B}}$$ があるのですね。意外な微分演算子が出てくること、尻拭いが行われていること、全て足し算であることを覚えておけばいいのではないでしょうか。

外積へのナブラの作用

$$
\begin{align*}
\nabla \cdot (\bm{A} \times \bm{B} ) &= \bm{B} \cdot (\nabla \times \bm{A} ) - \bm{A} \cdot (\nabla \times \bm{B}) \\
\nabla \times (\bm{A} \times \bm{B} ) &= (\bm{B} \cdot \nabla )\bm{A} - (\bm{A} \cdot \nabla )\bm{B} + \bm{A}(\nabla \cdot \bm{B}) - \bm{B} ( \nabla \cdot \bm{A})
\end{align*}
$$

 ひとまず、一つ目を考えます。左辺はスカラー3重積のようです。それに対し、右辺はBAC-CAB則のようでBAC-CABの形ではないものが出てきます。右辺はよく見れば、BAC-CAB則に-1倍したものとして覚えられそうです。すなわち、アンチBAC-CAB則です。このような直感的でない結果が出てくることを覚えておきましょう。また、右辺において+と-が出てくるのは、$${\bm{A} \times \bm{B}}$$の$${\bm{A}}$$と$${\bm{B}}$$の入れ替えに対する反対称性を反映していると思うことができます。だとするなら、先の$${\nabla (\bm{A} \cdot \bm{B})}$$の公式で全ての項が+であったのは、内積の対称性を反映していると思えます。
 次に二つ目の式です。これも4つも項があってめんどくさいですね。これはBAC-CAB則を適用することで導けます。ただし、$${\bm{A}}$$と$${\nabla}$$は交換しないので、入れ替えたものも加えておきます。そうすれば公式は完成します。この式も右辺に外積の反対称性が反映されています。
 ここで少し証明に立脚した話をしておきます。ここまでのベクトル解析の公式で右辺が左辺より項が増える原因は、基本的に

  • 2回外積を取ること

  • 積の微分が生じること

です(先の尻拭い公式では、例外的に尻拭いのために項が増えました)。2回外積をとって項が増えることはレビチビタ公式$${\varepsilon_{ijk}\varepsilon_{lmk} = \delta_{il}\delta_{jm} - \delta_{im}\delta_{jl}}$$に起因します。$${\nabla \times (\bm{A} \times \bm{B} )}$$の公式では、これら2つが両方とも起こったために項の数が左辺の4倍になったのです。

2回ナブラの公式1

$$
\begin{align*}
\nabla \times (\nabla T) &= 0 \\
\nabla \cdot (\nabla \times \bm{v}) &= 0
\end{align*}
$$

 勾配の回転は0、回転の発散は0です。幾何的なイメージから直感的には成り立ちそうな結果なので、イメージで覚えてしまった方がいいかもです。これらには$${\epsilon_{ijk}}$$の反対称性および偏微分の交換可能性が本質的です。

2回ナブラの公式2

$$
\nabla \times (\nabla \times v) = \nabla (\nabla \cdot v) - \nabla ^2 v
$$

 今回もある意味2回外積を取っているので、項は2倍に増えています。この式はある意味BAC-CABの形になっているので、BAC-CABが成り立つと覚えてしまいましょう。


参考文献

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