aiko ねがう夜

aiko『今の二人をお互いが見てる』より
02.ねがう夜



2023年3月にaikoの最新アルバムが出ました。なんともうキャリア25年だそうです。すげ〜〜!!

aikoのことずっと好きで、雨の日も風の日もaikoはいつも私のそばにいてくれましたが、この度の新譜、歌詞の機微がもう、もう、もう〜〜〜!!!という感じです。25年のキャリアをほぼほぼラブソング一本でやってきてなお、2023年の今、増して強い曲が作れるんですaikoは。なに!??大好き!!!!!

恋はまあ、概ね誰もが経験するものですが、その掛け替えのなさや、逆にいくらでも替えの利く安さも、aikoは歌うわけですね。この曲もたぶんそういう曲だと解釈してます。

日頃ツイートしまくってたんですが、連投もしのびないし残すのもいいかなとnoteに書いてくことにしました。


まずは2曲めに入っとる「ねがう夜」です。気分が乗って、かつ自分の解釈に納得できた順に書くのでアルバムの曲順は関係ありません。
https://music.apple.com/jp/album/%E3%81%AD%E3%81%8C%E3%81%86%E5%A4%9C/1676396993?i=1676396995


あっ私インタビューとかそういうの一切なしで曲だけ聞いて勝手に掘り下げてるだけなので、公式と合ってないかもです。私のaikoは私の心の中にだけあるので、ツイートも全部同人誌だと思ってください。


  長い間一緒にいたから
  そりゃあ夢にも君はいるよね
  だけどそろそろ
  いなくなってかまわないんだよ

  君と逢って別れて何年経った?
  毎日数えている訳じゃない
  から多分くらいで言える時間は
  経ってる気がするんだよ
  だからもう夢に出なくていいんだよ

はいまずここです。この一発めで、「あっ別れた元恋人の歌で、未練があるんだな」をバーンと出してます。SNS等々いろんなものをながら使いする現代社会、音楽業界もスピード勝負で、最初の掴みについてかなりこだわってる風潮と聞きます(詳しいことはググって)。それと関係してるかは知らないですけども、aikoもはじめに「この曲はこういう歌だよ」と概要を話してくれてますね。

それでまずなんですが、このaikoめっっっちゃくちゃ素直じゃないんですよね。

""君と逢って別れて何年経った?
 毎日数えてるわけじゃない""     ←ここです!!

「君」と別れてから何年経ったか、と私たちが一般的に元恋人を思い浮かべる以上に気にしまくりなんですよ!!毎日数えてるわけじゃないってわざわざ言ってるってことは、毎日じゃないけど数えまくってるってことです。""多分くらいで言える時間は〜""でさらに強調してるので、相当、相当気にしてますね。めんどくせえ女〜〜!!!!大好き〜〜!!!


  またねとか軽い挨拶は
  ゴミ箱に捨てようね
  記憶は風が吹いても
  どこにもいかないから

そんで、これは歌詞の順番が逆だと思うんですよね。正しくは""記憶は風が吹いてもどこにもいかないから、またねとか軽い挨拶はゴミ箱に捨てようね"" だと思うんです。倒置法的な感じでさらに強調してる。

今もそれなり、人間関係が途絶えてない元恋人とaiko。でも記憶や思い出は、風が吹いても(=時間が経ったり、新しい恋という風が吹いても)、どこにもいってくれない。忘れられないしなくならない。

そのくらい、こう、質感というか重量感のある思い出に対して、今交わすのは「またねー」って、何人かでの飲み会後みたいな、自分個人に言われた言葉でもない、軽〜い挨拶なわけです。へんに特別な思い出の上に重なってほしくもないので、捨てちゃいたいと思ってる。

  いつも上の空のようで
  きっとあたしもそうだったよね
  ああ 君はもうひとりじゃないから
  元気でいてね
  たまに夢でと願う夜

はいここもポイントです。
冒頭では、""もういなくなって構わないんだよ""、""もう夢に出なくていいんだよ""と意地っ張りaikoは言ってたのに、やっぱりたまには夢で会いたいんですね。

この夢というのも、aikoの捉え方がおもしろくて。aikoは元恋人の夢を見たくないって言ってるんじゃなくて、元恋人に夢に出てこなくていいって言ってる。主体は元恋人なんですよ。元恋人が(もしくは元恋人との思い出が)、主体的に自分に思い出させようとしてくるというか。

古文で、夢に誰かが出てきたら、その誰かが自分に会いたいから夢に出てくるんだとかなんとかの話ありますが、そんな感覚に近いと信じちゃってるところが未練を表してますね。


ただ、ここの""いつも上の空のようで、きっとあたしもそうだったよね。ああ君はもう一人じゃないから""の部分で、本当なのかaikoの勘違いなのかはさておき、みんなで飲み会にいるときも、なんか彼が上の空でぼんやりしてるようで、自分もそうだよっていう、付き合い長かったからこそ自分と同じ種類の感傷を、彼が抱えてるんじゃないかと勘づいてる描写があります。

何年経ったか殊更気にしてるaikoは、久しぶりに友達と会って近況話したりしてると、なおのこと過ぎ去った日々と、彼の今の恋人について考えてしまう。

  引き返すつもりはないのに
  心が薄くスライスする
  何もないって記憶の嘘
  涙でバレる
  半信半疑の期待はいつも
  外れてかき氷の雨
  癖すら愛しいと思えたのは
  君に取り憑いていたのだろう


ここもですねーーー!!!なかなかねーーー!!すごいんですよ。ここ一番aikoの執着の跡が見えます。そしてここでも、歌詞の順番があべこべになってて。本当はたぶん、

 何もないって記憶の嘘
 涙でバレる
 癖すら愛おしいと思えたのは
 君に取り憑いていたのだろう

 引き返すつもりはないのに
 心が薄くスライスする
 半信半疑の期待はいつも
 外れてかき氷の雨

だと思うんですね。この歌詞というか心の流れがめちゃくちゃなのも、aikoが戸惑って思い出に振り回されてる様子を表してるんじゃないかと思いました。かき氷については次の歌詞で触れます。

先にここで一番パワーのあるラインについてです。""癖すら愛おしいと思えたのは、君に取り憑いていたのだろう""のここですね。まーーーあピカイチの言い回しです。取り憑いていたって表現、怖さやえぐさもあり、熱が一方通行の悲しさもあり、「そんなに!?」って思っちゃう馬鹿馬鹿しさもあって、めちゃくちゃ良い言葉ですよね。すっごい好きだったんだなって分かる。

ここでの癖は、たぶん爪を噛むとか、貧乏ゆすりとか、くちゃくちゃ物食べるとか、そういう体にまつわる癖なわけです。aikoがこの歌詞の部分で執着を示してる(=取り憑いてた)のは、元恋人本体であり思い出ではないので。おおよそ可愛いと思えない、良くない癖でも愛おしいと思えるくらい、めちゃくちゃぞっこんだったと。そんで、取り憑いてたから愛おしく見えただけで、その元恋人の癖自体は、aikoにとってはめちゃくちゃ嫌いな動作だってことも読み取ることができます。この取り憑いてた話は過去のことで、今は「あ〜へんな癖も好きだったなあ」と思い返していました。

そこから、""引き返すつもりはないのに、心を薄くスライスする""は今のaikoの心情ですね。ここでaikoは、あくまで自分は「思い出がどうしても忘れられないだけで、今の元恋人とどうにかなりたいわけではない」とした上で、繊細な氷のように心を削り取っては期待をしてしまい、それが外れると、その削り取った心が溶けてしまうと歌っています。
この""半信半疑の期待""は、たとえば、みんなとの飲み会後たまたま駅まで二人歩くことにならないか、みたいな。復縁に直結はしないけれど、aikoが自分だけでなく、元恋人も持っている(と思ってる)感傷を共有できるささやかな時間を、「向こうから作ろうとしてくれるんじゃないか」と思ってるんですよ。この曲のaikoはめちゃくちゃ意地っ張りなので、自分からではなく、相手がそうしてくれないかな、と期待していました。

  食べ飲み干したって
  変わらないただれた心の中
  勘違いの苺味
  ああ 君は知ってた
  記憶は風が吹いても
  どこにもいかないまま

はい!!!はいここ!!!!!これもすごいですよ!!!聞いて!!!ここも若干歌詞の順番がずれてて、本当は、

 ああ君は知ってた
 勘違いの苺味
 食べ飲み干したって
 変わらないただれた心の中
 記憶は風が吹いても
 どこにもいかないまま

だと思うんですよね。「ああ君は知ってた」がどこにかかるかがポイントで。
私は、勘違いの苺味(=かき氷は着色料が違うだけで味はおんなじだって言われてたことから※今はちゃんと違う味らしいです。)にかかってると思うんです。


""半信半疑の期待はいつも外れてかき氷の雨""→""ああ君は知ってた""→""勘違いの苺味""に繋がっていて。

本物じゃない苺味(=半信半疑の期待自体が、aikoが勝手にしてるだけの勘違い)
→外れてかき氷の雨(=一人で上がって下がってしてしまうaiko)
→それに元恋人は気付いてるってことかなと。

もしくは、""ああ君は知ってた""が元々の歌詞通り、""記憶は風が吹いてもどこにもいかないまま""にかかる場合、元恋人は、本当にaikoと同じ感傷を持っていて、けれどaikoよりかなりしっかり消化してることを示すことになります。aikoはまだまだ引きずってて、「より戻したいとかじゃないけど、なんか昔のこととか二人で話せたらな」みたいなこと思ってますが、それはaikoだけで、元恋人はもうしっかりアルバムにしまって過去のものとしてる。

あーでも後者の方がしっくりくるかも。前半の歌詞の順番はたぶん絶対(たぶん絶対?)に意図的にめちゃくちゃにしてると思うんですよ。だとしたら、後半のここの心情は、順番通りに並んでて、戸惑いを整理することができたのを表現してそう。


ここで音程が変わり、突き抜けるようなハイトーンでaikoが""記憶は風が吹いてもどこにもいかないまま""と歌います。ここめっちゃ声綺麗。後ろのオケが一瞬消えるあたりも含め、最大の見せ場であるこの部分、ここまでの歌詞に対して意外にもかなり晴れ晴れしく響きます。


  切った髪が刺さり痛い
  嫌な時に浮かんでこないで
  こわれた胸のネジは
  誰にも聞けないけど
  君がつけてったものでしょ

よくaikoは、気持ちを切り替えるために髪を切ったことを歌うんですが、ここでも例に漏れず髪の毛を切りました。でもちくちく刺さって痛いし、""嫌な時に浮かんでこないで""から、切り替えられてないこと、また髪型自体もあんまり気に入ってなさそうな感じがします。aikoがそうしたくて切ったのではなく、たとえば「その髪似合うね」って言われた記憶を断ち切りたくてしたことで、けれどここでいう記憶は、すでに歌っているように時間が経ったり、新しい恋の風が吹いてもどこにもいってくれないんですね。不本意に切った好みじゃない髪型で、なおさら元恋人を思い出してしまいます。


はいそして来ます。ラストです。

""壊れた胸のネジは誰にも聞けないけど
 君がつけてったものでしょ""
ここ!!!!!aikoって感じする歌詞だ!!!!


なぜか急にネジが出てくる。なぜだと思いますか!!なんででしょうね。まあ本当のところ公式がどうかは知らないんですが、私はもうパッと思い浮かんだのはIKEAのネジです。は?って思うかもですが、ここでaikoは""誰にも聞けないけど""と歌っています。誰かが目にする場所にある、壊れたネジなわけです。

でも胸の中にあるので、誰も彼もが見れるわけじゃないことから、aikoのごくごく個人的な場所にこのネジがある。ここでの""誰にも聞けないけど""の誰かは、私は新しい恋人かなと思います。


急にネジの話が出てきたのは、aikoが引っ越しか買い替えか模様替えか知らんけども、何かで家具を動かしたときに、そのネジが壊れていて、適当にネジつけてぶっ壊していったのは、おそらく長く付き合った元恋人だろうなと思い至る。でも知らない間に壊れてるネジの本当の理由が、元恋人なのか、今の彼なのか分からない。「ねえここのネジ壊したでしょ!」って今彼に言っても、「えっ俺じゃないよ?」となると気まじいし、元恋人に関しても、かつての仲を思い起こさせる軽口を叩けるような関係でもない。だから誰にも聞けないんですね。

私ははっきりと、ただでさえしょぼいIKEAの棚に、ネジが歪んで刺さってる部分を見つけた自分の気持ちになりましたが、ここで重要なのは、aikoは、自分の心の小さな、でも確かに必要で大切な部品が、一体いつ、誰が原因で壊れたかわからないという点です。

aikoの心が傷ついているのは、元恋人との別れた際の傷なのかそれとも、新しい彼と思い入れのない(=付き合って日が浅く、それにそんなにぞっこんでもない)恋愛をしてることによって、返って昔の恋の重量感と、今の自分の恋のギャップでついた傷なのかわからない、でも、元恋人に対して""君がつけてったものでしょ""と他責してるというか。最後の最後で意地っ張りなaikoがバーカってしてるというか。いいねぇ〜〜!!!!


以上です。本当のとこどうかは知らんけど私の思うねがう夜の話でした。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?