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突然の別れ。命の儚さと私の教員人生。


コーヒーの香り。パソコン。放課後、いつも通りの職員室。同僚と談笑しながら、明日の授業はなにしようかと思いを巡らせていた。

「Aさんが亡くなりました」

突然耳に入ってきたのは、呼び慣れた名前と、訃報だった。

私は2年目の小学校教員。大学を出てすぐに教員になり、2年目の冬を終えようとしていた。多忙な仕事にも慣れ始め、子供の可愛さを目の当たりにし、仕事が楽しく思えるようになった頃だ。
今年は小学6年生を担任し、卒業まであと1ヶ月を切っていた。

Aさんは教員生活1年目で初めて担任したクラスの児童だった。明るく笑顔が眩しい女の子だ。2年目の今年は、その子と一緒に学年を持ち上がり、Aさんは隣のクラスで過ごしていた。

私の目の前のデスクには、今年のAさんの担任の先生が座っている。

管理職の先生が、Aさんの担任に伝えた言葉。
「Aさんが亡くなりました」

あまりにも理解し難いその言葉は、私の耳に許可もなく入り込んできた。周囲の音が聞こえなくなる。頭の中をその言葉がぐるぐると回るのを感じた。言葉の意味を理解した時、脳の中が真っ白になり、自分の鼓動が速くなっていくのが分かった。自分の手がガタガタと震えるのをただただ眺めるのは初めての感覚だった。

「先生に髪結んでもらったんだ〜」
「Aさん、さようなら〜」

Aさんと話した記憶が蘇ってくる。でもそれは、つい前日の記憶だった。

Aさんはその日、用事で休んでいた。用事の出先で倒れたAさんはそのまま息を引き取ったそうだ。

12歳、卒業直前、将来の夢、お母さんとの仲の良い様子、笑顔、去年から私に見せてくれた笑顔。どの事を思っても、声が出るほど胸が苦しかった。

お通夜、お葬式と参列させていただき、Aさんとの突然の別れも、悔いがないようしっかり送り出させてもらった。言葉にできない辛さ、儚さ、悲しみは頭で考えるよりも先に、涙に変わりいつまでも止まることは無かった。
何度も呼び、書いた名前が、斎場の看板に記されているのが不思議でたまらない。良く話し2人揃って肩を並べていた友達が、反対側に立ち手を合わせている光景を直視することができなかった。

1年目で初めて担任した子供は、どの教員にとっても一生忘れることはない存在である。社会人1年目、誰しもが経験する初めての社会の壁。苦しいことがたくさんある。
それを支えてくれるのがやりがい。私たち教員にとっては、1年間成長する子供達の様子、笑顔がそのやりがいなのだ。
そんな一生忘れない存在を、次の年に失ってしまうことは、辛いという言葉では物足りないほど苦しい。でも、彼女が教えてくれたことはなんだろうと考え続けている。それを記したい。

教員1年目から、教育とはなにか、迷い考え、試行錯誤してきた。教育には答えがない。今やっている指導は子供にとって有意義なのか、それは数年後、数十年後にしか分からない。

つい最近まで、大学で教育を勉強してきた私たちは最先端の教育を教えてもらったと思っている。しかし、それを実践することは簡単なことではない。全ての年齢層が所属している教職の世界は、10人10色の教育観があり、それが混在している。

新しいとされる令和の教育観も、若気の至りと言われ、昔ながらの教育が行われる現実を傍観するしかない。でも、自分の教育観が正解なのか、他人の教育観が間違いなのか、そんなことは分からない。どう指導すればよいのか、分からずにただ困っていた。

子供の将来を考えて指導する。2年目で実践できた私の教育観はそれだった。将来、生活していくために教えるべきこと。それを考えて指導した。

給食指導。好き嫌いは許すべき?残さず全部食べさせるべき?自分で食べる量を調整すべき?
議論すればいつまでも討議は続くだろう。答えは知らない。私は、食事の配分、時間、自分たちで調節してもらった方が良いと思っている。その中で、食事への感謝。残すことへの罪悪感。そういう事を考えてもらえれば嬉しい。でもそれは本当にいいのか分からない。昼休みまでずっと食事をさせるような指導は、もうすべきではないと考えている。でもそれが本当に間違っているのか分からない。

ただ、一つだけ。愛する児童を亡くして分かった事。

私と子供との関わり、そのものがその子の人生になることもある。

将来を考えて…生きていくために…

Aさんにとって、私との学校生活はAさんの人生そのものになった。私はAさんの将来の人生のために今を犠牲にしていなかっただろうか。

指導とは、将来の人生のためのものでもある。でも、その指導もその子の人生そのものである。

じゃあ、子供たちは学校生活も本気で笑い、本気で楽しみ、本気で喧嘩して、本気で仲直りして、過ごさなければいけない。

教員の皆様、そしてこれからのわたし。あなたと関わる子供たちは笑っていますか?我慢していませんか?怖がっていませんか?

子供の人生、潰していませんか?

その事だけは忘れずに、教員生活を送っていこうと、思っている。

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