見出し画像

デッドオアライト 26

それから久代は、白木、三島哲也の助けもあり、徐々に記者として名を上げていった。
久代の独自ルートの情報網は久代ルートとも呼ばれ、その情報の出どころは業界で話題になるほどだった。
久代はハッカーだが、ハッキングで手にした情報は記事には書かない。
白木、三島哲也から入手した生きた情報は、時にユーモアに溢れ、時に時代の先を行く内容だった。

白木も芸人として順調に人気を伸ばしていた。
M-1の準決勝で惜しくも敗退するも、敗者復活戦を勝ち抜き話題となった。
決勝では滝が緊張の余りネタを飛ばしてしまい、M-1史上最低得点を叩き出したが、ネタの後の審査員とのやり取りも含めてネット上で盛り上がりを見せた。今ではバラエティー番組にも引っ張りだこ、その年のM-1優勝者よりも忙しいのではと囁かれるほどだ。

三島哲也はYouTubeを続けながら、コメンテイターとしてもテレビ局に呼ばれるようになっていた。近年出版した著書、『ウソとマコトの見抜き方』は10万部を超えるベストセラーになった。世の中に溢れる嘘と真実を一言で切っていくスタイルはお茶の間にも定着していった。

このように久代、白木、三島哲也の三人はそれぞれのフィールドで独自性を見出していった。それでも彼らは、あの日した誓いを忘れておらず、忙しい合間を縫って顔を合わせ、情報を交換した。それぞれの立場を活かしながら、あの組織が狙っている権力者に近づき、悪事を働かないように目を光らせた。権力者達の悪事の確かな裏付けが取れた時点で久代が記事にして権力者を失脚させる。そうすることで牙を失った権力者達をこれ以上組織が狙うことはなかった。

彼ら三人が裏で動いていることが組織に気づかれた時には、一触即発といった緊迫した睨み合いになったが、最終的には組織も手を汚さずに済むということで久代達の取り組みに合意した。組織に雇われていた物騒な男は仕事が無くなるとのことで渋い顔をしていたため、三島哲也が要人のボディガードの仕事を紹介してやった。

「我々のやり方が間違っているとは思わない。だが、君たちの正義がどんなものか見てみるのも悪くない」

組織の人間の言葉に久代は答えた。

「俺達は正義なんて語らない。ただ・・・あんたらの作る正義の上に生きるつもりは毛頭ない」

久代の言葉に組織の男は「ふん」と鼻を鳴らして言った。

「お前らの詰めが甘ければその時は我々組織が制裁を下す。その時は覚悟しておけ」

それから組織の連中が久代達の前に姿を現すことはなかった。
それは彼らの働きぶりの評価ともいえるだろう。彼らは、権力者達の情報を次々とあぶり出し、世間に公表し、権力者達を失脚させていった。その鮮やかな活躍ぶりについてはまた次の機会に語ることにしよう。

デッドオアライト 完結

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?