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デッドオアライト 23

黙り込んだ三島哲也の横で、今度は白木が何かに気が付いたような顔で言った。

「でも、奴らと取引できたんだったら、なんで俺達だけを助けたんですか?これから誰も殺さないように忠告することもできたはずじゃ・・・」

白木の言葉に久代は目を見開いた。
三島哲也もまた、はっとした顔をしている。
白木は、予期せず核心をついていた。

久代は顎に手を当てて、返す言葉を選んだ。
もちろん、白木が言ったことも考えなかったわけではない。
今後一切、悪事を働かないように忠告することで救える命は確かにあっただろう。
しかし、そうすることで他の命が脅かされるとしたらどうだ?と久代は考えたのだ。
あの組織が医者を使って殺していた権力者たちは、法では裁けない悪事の限りを働いていたことも、組織のサーバーをハッキングしたことによって久代は知っていた。
法で裁けないから殺している。
それを知ったとき久代はその善悪について考えた。
その結果として、答えはNOだった。
殺しは悪ということに変わりはない。
しかし、権力者達の中には、裏社会の力を使って一般人を殺している者もいた。
要するに、殺人を指示している人間を、あの組織は殺していることになる。
毒をもって毒を制すという言葉があるが、あの組織はまさにそれにあたるといえるだろう。
久代は、それについても賛同しかねる部分が多分にあったが、だとしてもあの組織の策略を妨害することは、悪い権力者達を野放しにすることになる。
それはつまり、一般人から死者が出ることになるわけだ。
それは間接的に久代が一般人を殺すことになるのではないか。

そこまで考えて久代は、あの組織から手を引くことに決めたのだ。
しかし、気にかかったのは、一般人である白木と三島哲也のことだ。
彼らは何も悪いことはしていない。
ただ、組織のことを調べていたに過ぎない。
それにも関わらず、彼らに対して制裁を加えるということは、あの組織が殺している権力者達とやっていることが同じなのではないか、と久代は考えた。

なにかを知ろうとして、何が悪いんだ。
人の知的好奇心は止められるものじゃない。
久代の行動は決して、正義感に基づくものではなかった。
自分の一番、大切にしているものを踏みにじられたことに対する、抗議のようなものだったのだ。

その事実について、久代はあまり考えないようにしていた。
正義のヒーローぶるつもりもなかったが、かといってそこまで傲慢な感情を認めてしまうのも許しがたかった。
今、白木に問われたことによって、久代は改めて自分の気持ちに気づかされたのだった。

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