10日目(快晴)30代夫婦ヨーロッパ珍道中


フランクフルトからローテンブルクへ


この日は電車で3時間半かけてローテンブルクへ移動。事前に予約席を取っていたため、私が般若のような顔になることもなく、快適な電車旅を楽しめるはずであった。
出発してから約3時間。最後の乗換駅であるシュタイナハ駅で事件は起こった。なにやらおかしい。同じ目的地に向かうであろう人々は電車を待たず、改札から出て行ってしまった。
電車が止まっているということを親切な日本人女性が教えてくれた。朝から止まっているらしく動き出す予定も無いようだ。女性は「改札を出て振替輸送のバスに乗るしかなさそうです」と教えてくれた。
しかし、「こんな時には情報が錯綜するものだ」という私の意見でとりあえず予定の時間まで電車を待つことに。結局電車は来なかった。あきらめて改札を出る。

20ユーロのキリスト降臨


さて、改札から出た我々が見たのは60人近くの人の群れ。列で待つでもなく、各々が木陰で休み、たまに来るタクシーに乗り合わせている。なんじゃこれは。どうすればよいか…。いつバスが来るのかも分からないため、とりあえずタクシーを呼ぶ方法をネットで調べてみる。アプリで呼べるようだが、肝心のアプリがダウンロードできない。電話をするにも英語が話せない。
途方に暮れていると、妻が「よし。歩こう」と強気の発言。普段は日に焼けることも、歩くことも嫌いな妻。目的地までは徒歩で約3時間。30度を超える猛暑の中を大きなキャリーケースを引きずりながら歩くことになる。もう一度、妻に確認すると「行こう!」と気合いの入った表情で決意を述べた。〈その意気や良し!〉私も決心して歩くことにした。

歩き始めて3分。妻から「ヒッチハイクをしよう」との提案が出た。妻の決心は3分しか持たなかった。ヒッチハイクはかなりの危険を伴う。昨日までの「アブナイヨ!」は何だったのか。私はあらゆる意味をこめて「なんで?」と返した。「だっていっぱい車が通ってるじゃん。1台くらい乗せてくれないかなぁ」とのこと。当然却下。すると、「あの車を掃除している人に頼もう」と食い下がってくる妻。これも却下して歩くことに。

やり取りがあって数分の後。「どこに行くんだい」と自転車に乗った現地のおっちゃんが声をかけてきた。ローテンブルクへ徒歩で向かうと伝えると「とんでもない!駅に戻ってタクシーを使いなさい」とアドバイスをくれた。私は、そうだよなぁと思いつつ来た道を引き返そうとした。すると、妻がgoogle翻訳で「タクシーを呼べずに困っています。呼んでもらえませんか」と伝えた。おっちゃんは親切にもタクシー会社に電話をしてくれた。「タクシーを呼んだよ。何台も来るはずだから待っていたらすぐに乗れるよ」とのこと。私は感謝を伝えつつ、ここまでしてもらったので財布にあったユーロ札を一枚渡す。おっちゃんも「オォ!サンキュー!」と遠慮なく受け取る。よく見たら20ユーロ札(3000円位)だった。

あっ!お札間違えた!と内心思ったが、後に引けないままおっちゃんに別れを告げて、もと来た道を戻る。その道すがら「そもそも状況は変わらないんじゃないか」という話になった。確かに、呼んではもらったが、どれが自分のタクシーなのかも分からない。結局60人の群れに交じって待つしかいないのである。そうなると妻から「なんで20ユーロも渡したの?そんなに渡すならちょっとは相談してほしかった!」と詰められる始末。こればかりは私も恐縮するしかない。20ユーロを失い、怒る妻に詰められながら暗い気持ちで駅へと戻る。

それは突然のことだった。「あれ、さっきのおっちゃんじゃない?」と妻。自転車のおっちゃんがこちらへ向かってくる。後ろにはタクシー。おっちゃんは「ユア、タクシー!」と言いながらタクシーを先導。わざわざ駅まで行ってタクシーを連れてきてくれたのである。奇跡が起こった。キリスト様のご降臨である。
「マジで!?良かった!良かったよぉ…」。異国の地で途方に暮れていた我々は感情が大爆発。飛び上がって喜んだ。妻は歓声を上げながらおっちゃんとハグ。私は「サンキュー!サンキュー!」と何度も言いながらブンブンと固い握手を交わした。親切なおっちゃんは荷物を載せるのまで手伝ってくれた。
渡りに船、ローテンブルクにおっちゃんである。快適なタクシーに揺られながら我々は無事に目的地に到着した。あの男性は、善意でタクシーを先導するまでしてくれたのか。あるいは20ユーロの力なのか。タクシーの中でふと考える。いずれにしても、我々はこの奇跡を『20ユーロのキリスト降臨』と呼ぶことにした。

ローテンブルク観光


ローテンブルクは赤い三角屋根が立ち並ぶメルヘンな街並み。泊まったホテルも絵本から切り出したようなかわいらしい建物だった。時刻は14時ごろ。ホテルに荷物を置いて軽く観光をすることに。ホテルでもらったマップをもとに、犯罪歴史ミュージアムに行くことにした。罪と罰の歴史、様々な展示物があったが、入場10分ほどで妻はあくびをし始めた。「頭がよさそうな場所は私たちには合わないみたいだね」と苦笑いの妻。私はそこそこ楽しんでいたのだが。

さっと一通り見た後、チョコレート屋さんへ。妻は体調不良で味はしないが、食べてみたいとのこと。案の定、妻は味が全く分からないようだった。代わりに私が食べて「甘い」と味を伝えた。
その後も街並みを楽しんでいると、珍しく妻からホテルに戻りたいと言い始めた(いつもは私の方が先に疲れて帰ろうといい始める)。日差しが強いことで機嫌が悪くなってきたようだ。晩御飯を買うためにスーパーへ。妻は少し遠回りをしても日陰を通りたがるので、〈めんどくさいなぁ〉と思いつつ移動する。やや険悪なムード。
 
ようやくスーパーに到着して今日の晩御飯を確保。時刻は日が傾き始めた18時頃。買い物を終えホテルへ戻る道すがら日本語が聞こえてきた。大きなリュックを背負った男性二人が「疲れた…」と疲弊しきった顔で話していた。もしかしてシュタイナハ駅から歩いてきたのだろうか。我々もキリストに会えなければ彼らのようになっていたかもしれない。いや、彼ら以上に大変なことになっていただろう。改めて20ユーロのキリストに感謝しつつホテルでゴロンと横になった。

アブナイヨ再び


時間は前後するが、ローテンブルク観光中にも妻は「アブナイヨ」とささやく。私も警戒はしているが、特に不審な人物はいない。赤いヘルメットの太った中年女性が、バイクでゆっくりと通り過ぎただけである。「なんだったの?」と妻に聞くと、ゆっくりと走ってきたバイクが危ないと思ったらしい。安心した妻は「紅の豚みたいだったねぇ(笑)」と至極失礼な発言をしながらヘラヘラと笑っていた。

旅の概要と全日程のリンク

https://note.com/tasty_holly359/n/nd9db7d1af086



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