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無機化学演習-大学院入試問題を中心に-6章解説


例題 6・1

この問題は結晶場理論を用いて考えます。結晶場理論とは金属錯体が形成される際に金属イオンの d 軌道に入った d 電子と配位子のローンペアの相互作用によって軌道のエネルギーが増減する、という考え方です。実際に問題を解いて詳しく見ていきましょう。

(1)
(ⅰ)六配位八面体錯体とは教科書 p123 の 図 6・4 (c) のようなものです。遷移金属 (Metal) に配位子(Ligand) が配位結合で配位しています。配位結合ですから M-L 結合はすべて配位子 L の電子に由来しています。よって錯体を以下のようにあらわすことができます。

p122 の解説にある、金属の d 軌道に孤立電子対を供与する配位子を負の点電荷と考える。とはこのことですね。

次に錯体を形成していない場合は 5 つの d 軌道が縮重している。というのは問題ないと思います。 5 つの d 軌道が等しいエネルギー状態にあるということです。

そして配位子が近づいてくるとどうなるかというと、配位子の電子と d 軌道に入っている電子が静電反発を起こし 5 つに縮重していた d 軌道が異なるエネルギー状態へと変化します。六配位八面体錯体の場合は以下のようになります。


上の図を見てわかるように配位子は座標軸方向から接近していますから、軌道の広がりが座標軸方向の dz², dx²-y² 軌道に入った電子との静電反発が起こり dz², dx²-y² 軌道のエネルギー準位が上昇します。この 2 つの d 軌道のことを eg 軌道と呼ぶので覚えておきましょう。さらに軌道のエネルギーの総量は 5 重縮重していた時と同じですから残りの 3 つの軌道 dxy, dxz, dyz 軌道のエネルギー準位は低下します。この軌道のことは t2g 軌道と呼ぶので覚えておいてください。

この時 eg 軌道と t2g 軌道のエネルギー差をΔoとすると上昇分は3/5Δo、下降分は 2/5Δo となります。Δo の o は八面体(octahedral) からきています。正四面体の結晶場を考えるときは四面体 (tetrahedral) の t を使いますから注意しましょう。

(ⅱ)正方にひずんだとは z 軸上の配位子(簡単に言うと上と下)を遠ざけていくことで表現されます。解説にある通り z 軸成分を含む軌道のエネルギーが低下し、その分だけ z 軸成分を含まない軌道のエネルギーが上昇します。後ほど出てきますが院試問題で頻出のヤーンテラー効果で重要になってくるのがこの正方にひずんだ六配位八面体型錯体ですから軌道のエネルギー準位図はしっかりとかけるようになってください。

(ⅲ)先ほどよりもさらに  z 軸上の配位子(簡単に言うと上と下)を遠ざけていくと、さらに z 軸成分を含む軌道のエネルギーが低下し、その分だけ z 軸成分を含まない軌道のエネルギーが上昇します。これは解説にある通りとなります。

(ⅳ)次に正四面体型錯体について考えます。こちらは遷移金属 M に配位子 L が 4 つ正四面体型になるように配位したものです。配位子 L と d 軌道の電子の反発はどのようになるでしょうか。今度は dz², dx²-y² 軌道よりも dxy, dxz, dyz 軌道のほうが配位子 L に接近しています。その計算は教科書 p125 にも書いてありますが dzx 軌道と配位子の距離は立方体の 1 辺の長さを 1 とすると 1 、dz² 軌道と配位子の距離は √2/2≒0.7 です。

よって六配位八面体錯体の場合とは逆に dxy, dxz, dyz 軌道が配位子の電子との静電反発によりエネルギー準位が上昇し、上昇分だけ dz², dx²-y² 軌道のエネルギーが低下します。上昇分のエネルギーは 2/5Δt、 下降分のエネルギーは 3/5Δt です。ここで Δt=4/9Δo であると覚えておきましょう。

(2)低スピン状態とはエネルギーの低い軌道から 2 個ずつ、スピンが互いに反対になるように入っていく配置です。一方の高スピンとは電子が同じ向きで 5 種類の軌道に 1 つずつ入り、その後 6 個目以降の電子がすでに電子の入ったエネルギーの低い軌道に入るという電子配置です。

高スピン状態をとるか低スピン状態をとるかは以下のように決まります。すでに電子が入っている軌道に別の電子が入る場合には電子対反発エネルギーが生じます。当然電子が乗り越えなければいけないエネルギーは低いほうがいいに決まっていますから、電子対反発エネルギーが Δo より小さければ電子の入った軌道に電子は入って低スピン状態となります。逆に Δo が電子対反発エネルギーより小さければ高スピン状態となります。

正四面体錯体は常に高スピンというのは覚えておいてください。

(3)教科書 p122 の解説の通りです。この問題は全く同じ問題が院試の頻出問題なので覚えてください。不対電子を持つと常磁性を示しますが不対電子を持たなければ反磁性となります。配位子によって錯体の構造が変わります。構造が変わると 5 つの d 軌道のエネルギー準位が変わりますから電子配置が異なり電子数は同じでも構造によって不対電子を持ったり持たなかったりします。
p126 の(ⅱ)分光化学系列については暗記が必須です。次の例題 6・2 でこのようになる理由が分かります。

例題 6・2

今度は結晶場理論ではなく配位子場理論の問題です。結晶場理論では静電エネルギーのみを考慮していましたが配位子場理論では 5 つの d 軌道の分裂を金属の軌道と配位子の軌道から形成される分子軌道によって説明します。

教科書の答えを解説する前にゲラーデ(g, ドイツ語で対称)とアンゲラーデ(u, ドイツ語で非対称) についてです。分子または原子の中心の点に対称であればゲラーデ, g で対称でなければアンゲラーデ, u です。

g と u が分からない人はこの問題以降にも出てくるのでここで覚えてください。

教科書 p127 の解説ですが a, e, g などの部分は暗記なので覚えてください。配位子の σ 軌道の組み合わせの中に金属の t2g 軌道の対称性を持つものがない、そのため t2g は配位子と分子軌道を作らずエネルギー準位に変化はないという部分を図 6・9 を見て理解してください。分子軌道を作れるのは対称性の合うものどうしです。

図 6・8 についてですが eg*軌道は配位子の t2g 軌道と対称性の合わない軌道のため非結合性軌道となります。そして配位子が電子の入っていない空のπ*軌道を持つ場合(CO など、図の左)ですが空のπ*軌道は半結合性軌道であるためエネルギー準位が金属の t2g 軌道よりも高くなっています。その結果出来上がった分子軌道図の Δo  は大きくなっています。

一方の π 軌道が電子によって満たされた配位子の場合(図の右、OH⁻など)は配位子の結合性 t2g 軌道に電子が入っており安定な状態です。よって金属の t2g 軌道とのエネルギー準位差が小さく Δo は小さくなります。これが分かると分光化学系列がなぜその順番なのかが分かります。電子不足な π受容性(π逆供与)の配位子は分光化学系列上位に、電子豊富な π供与性の配位子は分光化学系列下位となります。

例題 6・3

(1)例題 6・2 で示したように CO は電子の入っていない空の π* 軌道をもつ配位子です。解説にある σ 供与結合をしつつ、金属の d 軌道から CO の空の π* 軌道への π 逆供与結合を形成します。不安定な反結合性軌道に電子が流れ込むと結合次数が小さくなりますから C-O 結合距離は長くなります。結合次数とは(結合性軌道に入った電子-反結合性軌道に入った電子)/2 で表されました。 σ 供与が起こると金属の電子密度が高くなるため π 逆供与が強くなるということは覚えておいて下さい。

(2)この問題を解くにあたってそもそも赤外分光法について理解していないと話になりません。原子間での結合距離は一定だと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが実は違います。実際には結合というのはある一定の振動数で振動したり伸びたり縮んだりするばねのようになっています。分子が電磁波を照射されたとき、光の振動数が結合振動の振動数に等しければエネルギーの吸収が起こるのです。エネルギーが吸収されるとその結果原子をつなぐばねが余分に伸びたり縮んだりします。そうすると普段目にする IR スペクトルが出来上がるのです。また物理を大学受験でやった人ならわかると思いますが小さな重りをつなぐばねは大きな重りのばねより早く振動します。さらに短くて強いばねは長くて弱い結合よりも大きなエネルギーと振動数で振動します。よって三重結合は二重結合よりも高い振動数で吸収を起こし、二重結合は単結合よりも高い振動数で吸収を起こします。それを踏まえるとこの問題が解けるようになります。

d 電子が多いということは π 逆供与がより強く起こります。配位子の電子が入っていない反結合性軌道に電子が流れ込み結合次数が低下します。その結果三重結合が弱くなり振動数が低波数側で観測されるのです。

(3)解説の通り金属は 0 価として d 電子の数を求めましょう。その後錯体全体の電荷を考慮します。 d 電子数は数えてもいいですが  Mn Fe など鉄板のものは覚えておくとよいでしょう。

(ⅰ) Mn は d 軌道に電子が 7 個入っていますから 18 電子則より残りは 11 個です。 B は 13 族で手を 3 つ持っていますから C₆H₅ が 4 つついていると全体的には -1 です。分子全体では電荷が 0 ですから [Mn(CO)a]⁺¹です。 Mn の電子数が 7 で CO 1 つの電子数が 2 ですから a=6 になれば Mn 周りの電子数が 18 になります。Mn の 7 つの d 電子+6×CO配位子の供与する電子 2 つで19 となりますが[Mn(CO)a]⁺¹ より中心金属が電子を 1 つ打ち消す正の電荷をもつと考えて 19 - 1= 18 です。

(ⅱ)今度は P が 15 族で手を 5 つ持っていますが P に配位しているフェニル基は 4 つです。よって[(C₆H₅)₄P]⁺¹, [V(CO)b]⁻¹ となります。先ほどと同様に計算すると V の持つ 5 つの d電子 + 6×CO配位子の 2 つの電子=17 です。そして[V(CO)b]⁻¹ より V が 1 つ負電荷を帯びているので 17 + 1 =18 となり 18 電子則を満たします。よって b=6 です。

(ⅲ)ηですがイータと読みます。これはハプト数と呼ばれるもので配位子の前にギリシャ文字ηをおいて配位原子数を右肩に書きます。例えばη⁵-C₅H₅ ならば 5 つの等価な炭素原子が等価に中心金属に配位しているという意味です。わかりづらければ問題 6・22 の図を見てください。

ここで 5 員環の C と CO の結合を 5 × 2 で 10 としてはいけません。

実は図のように 2 つの配位結合( M周りの電子数 2 )、と 1 つの共有結合 (M周りの電子 1個)となっています、よってη⁵ の部分の電子数は 5 として数えましょう。

(ⅳ)η⁴の部分は電子数 4 として数えてください。あとは前問と同様です。

(Ⅴ)錯体の式からもわかりますが Mn は 1つだけでは 18 電子則を満たすことができません。というのも Mn は d 軌道に 7 つの電子が入っているので配位子が一酸化炭素などの 2 つの電子を Mn に供与するものであれば絶対に電子数が奇数にしかならないからです。よって Mn は 1 つだけでは 18 電子則を満たせません。2 つで 18 電子則を満たすわけですがどのような構造をとるかというと以下のようになります。

 d 電子数を数えれば 18 になっていることが分かります。 CO から 5 × 2 で10 個、Mn の d 電子 7 個、Mn-Mn の金属結合の 1 個、

注:CO は配位子ですから完全に 2 つの電子を M に寄与しています。しかし M-M 結合は配位結合ではないですから 1 個と数えます。

例題 6・4

 3 章でもやったようにスピネル構造とはAⅡBⅢ₂O₄ で表されます。この時正スピネル構造と逆スピネル構造におけるA と B の占める位置を覚えておかなければいけません。表 6・1 をしっかりと覚えておいてください。これを覚えておかなければこの問題は解けません。

そして金属が四面体間隙に入るときは酸素が配位した四面体錯体を形成することに対応し、八面体間隙に入ることは酸素が配位した八面体錯体を形成することに対応します。さらに例題 6・2 でやったように酸素は π 供与性の配位子ですから分光化学系列下位で弱い配位子場を形成します。(Δt,Δo が電子対反発エネルギーよりも小さい、つまり高スピン状態をとる。)ですから解説にもあるように正スピネルと逆スピネルのどちらがより大きな CFSE を得られるのか計算します。 CFSE の計算については一緒にやっていきましょう。

Ni は d 電子を 8 個持ちます。よく出てくるので覚えましょう。表 6・1 よりニッケルは四面体間隙に入るので、酸素の配位した四面体錯体を作ると考えましょう。すると電子配置が書けると思います。わからない方は例題 6・1 をしっかりと復習してください。Δt の t はtetrahedral (四面体) の t でした。
CFSE の計算ですがΔt,Δo に関わらず (下の電子数×下のCFSE-上の電子数×上の CFSE) となります。図 6・13 の左ですが 4 × 3/5 Δt - 4 × 2/5 Δt =4/5Δt です。

そして正スピネルの場合二つの鉄(Ⅲ)イオンは八面体間隙に入って高スピン状態の酸素の配位した八面体錯体を形成すると考えます。Fe³⁺ は d 軌道に電子が 5 つ入りますから図 6・13 のようになります。ここで CFSE は 0 になりますが八面体錯体なので Δoを使います。o はoctahedral (八面体) の o でした。計算は一応やると 3 × 2/5 Δo - 2 × 3/5 Δo = 0 です。

よって正スピネルの場合の CFSE は 4/5 Δt だとわかりました。

同様に逆スピネル構造の CFSE を求めましょう。電子配置は図 6・14 にある通りです。 Δt,Δo をごっちゃにしないでください。また Δt= 4/9 Δo の関係は絶対に覚えておきましょう。

最終的に逆スピネル構造のほうが正スピネル構造よりも CFSE が大きいためこの化合物は逆スピネル構造をとると推測できます。

例題 6・5

(1)それぞれのイオンの d 電子数は数えるなり覚えるなりしてください。そして高スピン型正八面体錯体配位子場の電子配置を書いたら不対電子数を N として磁気モーメントの式 μ = √N(N+2) μB で求まります。

(2)解説参照。スピンの向きが変化しないのは許容遷移、変化する遷移は禁制遷移です。禁制と言われてはいますが絶対におこらないというわけではありません。実際の錯体の形が現実ではゆがんでいるために禁制遷移も起こります。起こりにくい遷移という表現が正しいです。

電子の遷移は外部からのエネルギーがないと起こりません。外部のエネルギー(光など、ここでは可視光)を吸収して電子遷移が起こります。よって禁制遷移では遷移があまり起こりませんから可視光吸収係数が小さくなるのです。

(3)ヤーンテラー効果についてです。定義については教科書 p134 で理解してください。Cu²⁺ のような d9 錯体で頻繁にヤーンテラー効果が起こることは覚えておきましょう。必ずしも起きるというわけではなく安定化エネルギーを得られる場合にのみヤーンテラー効果は起こります。

(4)水和エンタルピーとはイオンが水分子に囲まれるときに吸収または放出されるエネルギーのことです。この時に考えなければいけない要素は 2 つあります。

1 つ目が中心金属イオンのイオン半径です。イオン半径が減少していくにつれ水との結合が強くなるのは分かると思います。有効核電荷が大きくなり非共有電子対を持つ水を引き寄せやすくなるのです。

2 つ目が、水和エンタルピーの定義より水が配位した錯体を考えてその LFSE を考えなければいけません。0.4x-0.6y とは 2/5x-3/5y のことです。

この 2 つの要素を併せて考えると問題の図のようになるというのがこの問題でした。

例題 6・6

d-d 遷移は基本的には禁制遷移です。その理由が教科書 p136 に書いてあります。よってモル吸光係数は小さくなります。g と u については例題 6・2 で解説しているので参照してください。d-d 遷移と LMCT, MLCT 遷移 の定義は暗記しましょう。
八面体六配位錯体の d 軌道の間で起こる d-d 遷移は g から g への遷移であり、ラポルテ禁制となるため遷移が起こりにくくモル吸光係数が小さい。一方四面体錯体の d 軌道は対称中心を持たないので d-d 遷移がラポルテ禁制とならないためモル吸光係数が非常に大きくなる。の部分についてです。p125の 6 行目に四面体錯体は対称心がないため g,u の区別がないとあります。つまり四面体錯体は g, u がないため禁制遷移がなくモル吸光係数が大きいということですね。なぜ四面体錯体の場合は g, u がないかについてですが p122 を見ましょう。5 種類の d 軌道が書いてあります。それぞれの軌道の中心が3次元座標軸の原点に位置していますからもちろんすべての d 軌道が g ですね。次に八面体錯体の d 軌道が g になる理由です。下の図を見てください。

八面体錯体の中心 (M) に dz² 軌道の中心を重ねた図です。八面体錯体それ自体が対称心(中心 M) を持ちますから dz² 軌道に限らず 5 つのすべての d 軌道が g となりますね。

次に四面体錯体の場合です。四面体錯体は以下のようになります。

四面体錯体の場合は対称心(原点対称の原点)がありません。120 度回転させれば元の形と同じになりますが対称心とはそういうことではありません。よって四面体錯体は対称心を持ちませんから図にあるように dz² 軌道の中心を四面体の対称心に重ねることができません。 dz² 軌道以外の他の 4 つの軌道も同様です。対称心がないのでは g, u がありません。だから四面体錯体の遷移は禁制とならずモル吸光係数が小さくなるのです。

例題 6・7

解説参照。Mn²⁺ は d5 の高スピン状態、 Mn³⁺ は d4 の高スピン状態をとります。高スピン状態となるのは分光化学系列下位の H₂O が配位しているためです。 d5 の場合はスピンの向きが変わるのでスピン禁制、d4 の場合はスピンの向きが変わらなくてもエネルギーを吸収して遷移できるので d-d 遷移は許容遷移となります。

注:発色する理由ですが d-d 遷移の遷移エネルギーは可視光の波長領域をカバーしているために起こります。

例題 6・8

解説参照。定義なので覚えてください。

例題 6・9

六配位八面体の Δ, Λ, fac, mer, cis, trans 体は書けるようになっておきましょう。錯体の式が出てきて構造を書かせる問題がたまに出てきます。

6・1

解説の通り正四面体もしくは平面四配位です。 p124 図 6・5 と p125 図 6・7 で正四面体と平面四配位の d 軌道の分裂の仕方を復習しておいてください。

6・2

(1)中心金属にアンモニアが 6 つ配位していますから錯体の形は八面体となります。八面体の 5 つの d 軌道の分裂の様子は下 3 つ、上 2 つに分かれるのでした。下は t2g 軌道、上は eg 軌道です。

(2) [Cr(NH₃)₆]³⁺ ですから中心金属は Cr³⁺ です。 d 電子は 3 つなのでフントの規則に従って電子を入れていきましょう。

(3)解説参照。これは暗記しましょう。なぜこのような答えになるのかわからない人は例題 6・1 を見てください。

(4) 3 × 2/5Δo です。

6・3

[NiCl₄]²⁻, [Fe(CN)₆]³⁻ のそれぞれの電子配置を書いて不対電子の数を求めましょう。前者は四面体型で d 電子数は 8 個、後者は八面体型で d 電子数は 5 個です。さらにこちらは高スピンか低スピンかを考える必要がありますが配位子の CN⁻ が分光化学系列上位ですから低スピン状態をとりますね。不対電子の数が求まったら不対電子数を N として磁気モーメントの式 μ = √N(N+2) μB で求まります。

6・4

中心はいずれも Co²⁺ ですから配位子の知識が問われます。分光化学系列より解説の通りになります。なぜ分光化学系列が NH₃>H₂O>Cl⁻ の純なのかが分からない人は例題 6・2 の解説を参照することをお勧めします。

6・5

金属錯体の色に関する問題が出てきたら真っ先に d-d 遷移を疑いましょう。そして各金属イオンの d 電子数を求めます。Sc³⁺ はそもそも d 電子を持たないためにエネルギー(可視光など)を吸収して上の軌道に遷移することがありません、よってエネルギー(光)の吸収がないので無色に見えます。

6・6

解説参照。逆の命名問題もできるようになりましょう。

6・7

配位子のトランス効果とは脱離基 L のトランス位に存在する配位子が L の置換を促進する効果のことです。詳しい原理については下のリンクに譲ります。ここでは問題を解きながら具体例で理解してください。またトランス効果の問題はよく出てきますから順番も覚えてください。

一般的に σ 供与体あるいは π 受容性配位子だとトランス効果が大きくなります。σ供与性が強いと金属とその配位子が強く結合しそのトランス位にある配位子と金属の結合が弱まるのです。そして π受容性配位子についてですがこの置換反応は上に張ったリンクでいういわゆる外圏機構で反応が進みます。すると反応中間体は平面四配位ではなく三方両錐型になっています。この時中心金属は電子過剰になっていますから余分に電子を受け取れる  π受容性配位子は反応中間体を安定化するわけです。よって σ 供与体あるいは π 受容性配位子だとトランス効果が大きくなります。

(ア)

まず登場する配位子は NH₃ と Cl⁻ です。そしてトランス効果は後者のほうが大きいと問題文に与えられています。はじめに①から④のどの塩素が置換されるかはどこでも大丈夫ですが次はそうではありません。トランス効果の定義より塩素のトランス位(図の対角線上)にある置換基が置換されます。となると②以外のどれかですがトランス効果の定義よりアンモニアに比べて塩素のほうが反応速度が速くなります。よって①か④の位置で置換反応が起こります。

(イ)

この問題も初めの塩素がどのアンモニアを置換するかは重要ではありません。トランス効果は 2 つの配位子があって初めてその強さを比較できますから重要なのはこの次です。塩素のほうがアンモニアよりトランス効果が強いのですから次に塩素に置換されるアンモニアは 1 段階目で置換した塩素のトランス位にあるものですね。

(ウ)

(ア)と同様に Cl のほうがアンモニアよりも反応速度が速いですから 2 段階目の NO₂ が置換する過程では②か③が置換されることになります。

(エ)

一段階目の NO₂ はどこについても大丈夫です。 2 段階目ですがトランス効果の強さ的に NO₂ のトランス位にある Cl が置換されます。


6・8

(1)省略

(2)化合物に不対電子(孤立スピン)があれば磁性を示します。逆になければ磁性を示しません。 d 電子数が偶数であれば必ず不対電子がないとは言えませんが不対電子がない可能性はあります。よって答えは解説の通りです。

(3)解説参照。例題 6・5(2), 例題 6・6 参照。

(4)解説参照。

6・9

中心金属が低酸化数状態ということは +5 などではなく +1 や +2 ということです。後者のほうが電子が多いですから中心金属は低酸化数状態のほうが電子密度が大きく π 逆供与が強くなります。

一方のオキソ錯体の場合は σ だけでなく π 供与体でもありますから電子密度の高い高酸化数状態の中心金属と強く結合します。

6・10

(1), (2) スピネル型の構造については例題 6・4 を参照。

(3)スピネル型は AB₂O₄ で表されます。B は共通してアルミニウムですから A の四面体錯体の場合と八面体錯体の場合の安定化エネルギーを例題 6・4 と同様に求めましょう。この問題は地道に計算しなければ解けない問題ですから手を動かしてください。鉄の場合だけ書いておきます Co²⁺ は d 電子が 7 個で Ni²⁺ は d 電子が 8 個です。

答えは安定化エネルギーの大きい Ni が最も逆スピネル構造になりやすいということになります。

6・11

(1) Fe³⁺ ということは d 電子数が 5 です。低スピン状態なら不対電子数は 1 で高スピン状態なら 5 です。それぞれの有効磁気モーメントは公式に当てはめて求めてください。150 K 以下で有効磁気モーメントが 1.73 μB、180 K で有効磁気モーメントは 5.92 μB 、150~180 K の範囲で有効磁気モーメントが上昇しているグラフを書けば正解です。

(2)解説参照。一応ですが eg 軌道(半結合性軌道)に電子が入ると結合次数が低下するので中心金属-配位子間の結合距離が長くなります。

6・12

解説参照。対称心については例題 6・6 を参照してください。

6・13

(1) 省略

(2) 解説参照。

(3) 四重結合の詳しい解説が載っています。覚えてください。

(4)どの遷移がどの吸収体に位置しているのか覚えていなければ問題が解けません。例題6・6 を参照してください。

6・14

一部の反応を解説します。
アクア化反応:配位子が H₂O に置き換わることです。

アネーション反応:配位している H₂O が陰イオン配位子により置換される反応

多面体構造変換反応:構造の変化

結合異性化反応:結合場所の変化

(1)解説参照。

(2)解説参照。

(3)結合場所が変化していますから結合異性化反応です。

6・15

(1)硬い、柔らかいの問題です。わからなければ 4 章を参照してください。

(2)
(ⅰ)省略

(ⅱ)白金が 2 価ですから Cl が置換されるごとに電荷の関係で Na が脱離していきます。

(ⅲ)図を書けばどの置換基のトランス位が置換されているのか。つまりどの置換基のトランス効果が強いのかが分かります。(ⅱ)の反応から塩素のほうがアンモニアよりトランス効果が強いことが分かり、この問題でアンモニアのほうがピリジンよりトランス効果が強いことが分かります。知らなくても解けますが σ 供与体と π 受容性配位子はトランス効果が強いです。理由は問題 6・7 の解説に記してあります。

(ⅳ)トランス効果の意味と順番が分かっているならばパズルのようなものです。問題を解けていない人はおそらくトランス効果の定義があいまいな人だと思うので 6・7 で確認してください。

(3)解離的交替は有機化学での Sn1機構です。配位子が外れてから別の錯体がその外れた位置に来ることで配位子置換が起こります。一方の会合的のほうは Sn2 と同じです。置換する配位子が中心金属に結合すると置換される配位子が脱離します。

(4) 解説参照。平面四配位の d 軌道分裂の様子と Pt²⁺ の d 電子数が和kレば解けます。

6・16

解説参照。

6・17

何回もやっている問題です。院試ではこの知識を前提としている問題が頻出ですから絶対に覚えてください。

6・18

(1)  2 価の鉄イオンですから d 電子数は6 です。フントの規則に従って数えてもいいですがそろそろ覚えましょう。

(2) 低スピンか高スピンかです。 1 周目だと難しいかもしれませんが慣れれば瞬殺のはずです。

(3)第一イオン化エネルギーと同じような考え方です。より不安定なエネルギー準位の高い軌道にある電子ほど取り去るのに必要なエネルギーは小さくなります。

6・19

院試の頻出問題ですから暗記しましょう。

6・20

(1)解説参照。

(2)解説参照。

(3)解説参照。

(4)エネルギーと波長の関係は E=hν=hc/λ です。波長が短いほど光のエネルギーは大きくなります。Δが大きいということはエネルギー差が大きいですからエネルギーの大きく波長の短い光を吸収します。ある色が吸収されると何色に見えるのかは以下のリンクを見てください。

6・21

頻出問題ですから丸暗記するくらいにしてください。東工大物質理工学院の 2023 年も全く同じ問題が出ています。

(1) 解説にある酸化的付加と還元的脱離という言葉は院試でよく聞かれますから覚えておきましょう。C の過程が酸化的付加です。そして 6 から 2 の部分が還元的脱離です。

(2)解説参照。

(3)解説参照。

(4)解説参照。

6・22

(1)解説参照。

(2)
B
NMR からの推測は難しいかもしれませんが分子イオンピークが 256, 258 というキーワードが完全に臭素があるという意味です。反応 Ⅰに 2 当量とありますからこの構造が導けると思います。

C
こちらも 2 Na とですから B と同様に 2 当量の C が生成すると推測できます。

D
反応Ⅲより塩ではなくなること、そして条件 D の NMR より分子内にメチル基が導入されたことが分かります。

E
NMR より分かります。 NMR は有機の教科書 13 章でやるのでそちらを見てください。

(3) (1) と同じです。

(4)解説参照。

(5)解説参照。

(6) π 逆供与が強くなると CO の結合は弱くなります。この理由は空の半結合性軌道に電子が流れ込むことで結合次数が低下するからです。例題 6・3 (2) でもやりましたが小さな重りをつなぐばねは大きな重りのばねより早く振動します。さらに短くて強いばねは長くて弱い結合よりも大きなエネルギーと振動数で振動します。よって結合が弱くなった結果COのピークは低周波数側で観測されます。











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