見出し画像

77歳でSexするには結婚しよう -5

 私の生命活力値は上がったけど、彼はどうだろう。会社での動作に全く変化が見られない、すなわち全く赤の他人扱いだ。といっても5年間見知らぬ同士だったから二人の導線が交わることは無い。
 彼は南の部屋で私は北だ。北が差別されているかと言えばそんなことは無くてビルの場合北の方が過ごしやすい。南の部屋ではブラインドを下ろさねば太陽が五月蠅くてしょうがないけど、北では逆にブラインド要らない。
 明るい外が楽しめる。でも降ろしちゃう上司の男は興のない男なんだろう、もっと言えば外なんか眺めずに働けってね。この部屋の上司ってことは昇進はもう止まったということだから会社人間を降りればいいのにと思う。

 さて彼は給湯室に来る事も無ければ女子トイレにも来ないから顔を合わせることは殆んどない。唯一あるとすれば食堂だけれども、私は弁当派だからそこでも会えない。
 会えないって言ったけど会いたいからではなく、物理的に会えないという意味だけど、弁当は止めようかなと思い始めている。
 別にいい奥さんを演じて弁当を作っているわけじゃないから他人の評価は気にしていなかったけど、すこし惨めなんじゃないかと思うようになった。
 結婚できないのを見越してせっせと老後のために貯め込んでいるんだろう、なんてね。それは憐れみ通り越して軽蔑されることにもなりかねない。
 弁当のおかずは作らず昨日のものを使えばご飯代はそれこそご飯分だけだから財布には優しい。でもそれを週3日続ければ流石にそこまですることは無いと思う。

 弁当は止めて食堂を利用しようと考えたのは彼の所為かな。即ち私の生命活力値は上がった。
 ふん、弁当なんて! てなもんよ。1日500円だしね。
 1万円援助してくれない? と言えば大抵の男は3万円出すと思うけど、彼は2万円出したから、じゃ二月分ね、と言って受け取った。
 彼が2万円の行方を目で追ったような気がしたけど、気のせいにしておこう。
 なんと食堂代は彼に出させたんだよ。一月1万円なんて只みたいなものだし、家に迎えるにはそれなりに持て成さなければならないから、私の方が持ち出しになる。
 彼がその分も1万円に含まれていると考えるなら最低だ。
 でもこんな計算はそれこそ女みたいでよくない。それなら3万円請求すればいいのだから1万円にしたのは、私の方にもいい子ぶりっ子したい気があるのだろう。
 さて毎日食堂を使うのは極めて気分が良い。いっぱしの働きウーマンになった気がする。でも派遣は弁当食ってろって差別は感じるけど、隅っこに居るんだから、そこは許して欲しい。
 ブラインドを降ろしたがる働き人間も食堂には手を出さないから光溢れ明るい食堂は世界に誇れると思う。
 もっとも時間制みたいに入れ替わりが激しいのは褒められたものではないね。
 彼とは殆んど同じにならないから私の弁当転向が彼の所為だなんて誰も思わないけど、どうしたの? とは当然聞かれる。
 1週間も夕食の残り物が続いたから、ちょっと惨めで泣いてしまったのよ、と、明るく心情を話せば笑って受け入れてくれる。
 
 彼の上位グループは全く遠慮が無い、自由気ままで周りの人が眼中にあるのかなと思う、そのくせ、あっ御免ねとか、良いよ良いよとか愛想は良い。
 私に見られているとも知らず、表情は緩く顔面筋は弛緩を競っているようだ。
 私の所ではまだどこかこそこそした泥棒さんみたいなところがあるから、会社の方が居心地が良いようだ。
 ならば、家は緊張の場なのかなと思ってしまうほどに自由に枝を渡る小鳥の様に振舞っている。
 小鳥にとっても巣は戦場かも知れない。
 会社というところは上位グループに入ればこれほど居心地の良いところはないようだ、もちろんそう作り上げただろうから。
 巣になんか帰りたくないのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?