ウマ娘3期のテーマと、描き方の変化

ウマ娘12話を見た勢いのままこれを書いています。
マジで興奮したしサイゲ凄いなってなりました。
ここまでやれるのか、と。


大前提の転換:ウマ娘は光のスポ根だった

これまで、ウマ娘はスポ根の綺麗な部分を存分に楽しめるような描き方をしてきました。

栄光を掴むことが物語の主軸である

1期はスペシャルウィークがアメリカへ旅立ったサイレンススズカ、凱旋門賞でモンジューに負けたエルコンドルパサーから託されて、ジャパンカップで勝利しました。

2期はトウカイテイオーが何度も骨折しながらも、トウカイテイオーに憧れていた者(ツインターボ・キタサンブラック)、ライバル(メジロマックイーン)、背中を預けた仲間(チームスピカ)から応援されて有馬記念で復活を果たしました。

出て来る登場人物は人間的に凄く器が大きい

ウマ娘は、実在の競走馬をモデルにしていているため、元の馬のイメージダウンにつながるような描き方は出来ません。
そのため、基本的に出てくるウマ娘はみんな性格がすごく綺麗です。

分かりやすい例を挙げます。
アニメ2期のライスシャワーは、劇中で世間にヒール扱いされ、心無い言葉を受けていました。
しかし、ライスシャワーに負けて一番悔しいはずのミホノブルボンはライスシャワーを責めることは決してせず、奮起を促しました。
メジロマックイーンはライスシャワーに拍手を送りました。
3期でも、シュヴァルグランに負けたキタサンブラックが笑って握手を求めていました。

テーマの転換

アニメ3期では、上記の二つが少し変わります。

特に『新しい描き方』をされているのは、主人公のキタサンブラック、そしてゴールドシップとシュヴァルグランです。

キタサンブラックとゴールドシップ

序盤~中盤のキタサンブラックは、栄光へ向かって邁進していました。
しかし、ピークを過ぎた事に気が付いたキタサンブラックは、引退を決意します。
ゴールドシップも、キタサンブラックに道を指し示して引退しました。

これまでのウマ娘は、キャラクターの強さが右肩上がりになるように物語が展開していました。
負けたキャラクターは次のレースまでに努力で強くなり、もう一度ぶつかり合います。
常に全力と全力のぶつかり合いで、努力は裏切らない(結果には結びつかなくても、キャラクターは強くなっていく)。
多くのスポ根作品もそうです。

しかし、ピークアウトがテーマになった三期では、努力は必ずしも自分を強くはしてくれません。
もう努力しても全盛期より強くなれないと言う苦悩を描く事は、かなり辛く、苦しい事実です。

沈黙の日曜日のその後をアメリカへの遠征として描いた1期、ミホノブルボンが菊花賞後でも多く登場していた二期、ドゥラメンテが宝塚記念の後もトレーニングを続け、キタサンブラックに道を示していた三期中盤。
ウマ娘というコンテンツはこれまで、キャラクターの競走馬としての輝かしい勝利と、キャラクター性にスポットライトを照らし、ピークが終わった後は残ったキャラクターの背中を押す、という役割をしてきました。

キタサンブラックは引退まで勝ち続けたため、ピークアウトしたという事実を描写しなくてはならない必然性はありませんでした。
ゴールドシップに至っては、主人公がキタサンブラックである以上、そもそも最後の宝塚記念まで描く必要はありませんでした。

それでも描いた理由は明白です。
『ピークアウト』というアスリートの努力が抗いになる苦しみを描きたかったからに他なりません。

これは従来の『キャラクターの競走馬としての輝かしい勝利と、キャラクター性にスポットライトを照らす』という描き方とは一線を画しています。

シュバルグラン

先ほど、ウマ娘は基本的に出て来るキャラクターの性格がとても良い、綺麗だ、と書きました。

「正直、ムカついた。キタサンがやめるって聞いて、なんでだよって思った。僕はまだ、アイツにちゃんと勝ててない。それなのに、先にいなくなるなんて。」

こう述べたシュヴァルグランに、ヴィルシーナはこう答えました。

「その相手を想うと、妬ましくて、苛立って。でも、心が囚われて、目が離せなくて、憧れと嫉妬とか、ごちゃ混ぜになった、まるで恋焦がれるような気持ち。」

そしてジャパンカップ中では、こうも述べています。

「キタサンブラック、僕は君が嫌いだ。僕とは真逆の性格で、皆から好かれていて。いつだって笑顔と元気が溢れてて。こんな僕の懐にも、ぐいぐいと入り込んできて。」

「キタサンブラック、僕は君が嫌いだ。いつだって僕の前にあった背中は、僕に、自分の未熟さと、惨めさを突き付けてきて。目障りで、忌々しくて、でも、眩しくて。いつの間にか、目が離せなくなってて。」

「キタサンブラック、僕は君が嫌いだ。君がいたから、僕はここまで。君の背中があったから、ずっと諦めずに、今日まで。キタサンブラック、僕は、本当に、ずっと、君が、大好きだ!!!!!!」

キタサンブラックに勝ててないからと言って勝ち逃げを咎めるのも、キタサンブラックの明るい性格に文句を言っているのも、言葉を選ばずに言えば、自分勝手な言い分です。

シュバルグランは、人格的に成熟しているとは言えません。
かなりキツい言葉も使っています。
嫉妬とは、相手に対するどうしようもなく歪んだ自己投影と言うこともできます。
シュバルグランはキタサンブラックを見るたびに、持つものに憧れると同時に、自分を惨めだと自覚させられるのです。

これまでキャラクターを綺麗に描く事を基本としてきたウマ娘において、自分は惨めである、と言わせたのです。
かなり衝撃的でした。

しかしそれ故に綺麗なだけではないスポ根の『暗い感情』を表現できたのではないでしょうか。

最後に

仲間から託されたり、努力で強くなるだけがスポ根ではありません。
作品の中で何を語って、何を語らないのか、という命題は常に付き纏います。
私は、ウマ娘は『綺麗なスポ根』を描いていくコンテンツだと思っていました。
しかし、必ずしもそうではないということが今回で分かりました。

アニメ二期の段階で、三期の主人公はキタサンブラックとサトノダイヤモンドであることはほのめかされていました。
つまり、製作サイドは元とする史実を二期の製作段階で既に選んでいたのです。
私はアニメ二期までは『綺麗なスポ根』のコンテンツだと思っていましたが、初めからこのシナリオを想定していた可能性が存在するのです。

もしこの推測が当たっていたなら、ウマ娘制作陣にはマジで脱帽です。

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