ジョジョミュの中止にまつわる役者ファンのぼやき

 好きな舞台俳優の帝劇初主演作品が、感染症でも災害でも本人や共演者の怪我や病気でもなく、主催者の都合で中止になりました。そしてその中止期間が終わり、初日じゃなかったはずの初日の幕が開きました。誰よりも早く見るはずだった作品の、先に見た人の感想が押し寄せてきます。夏からずっと楽しみにしてきた演目がこんなことになるなんて、思ってもみませんでした。

 なぜこんなに虚しくて腹立たしいのか。そりゃ大変な価値があると思って大金を叩いて買ったはずのものを約束通り提供されることなく一方的に裏切られたから、それ以上でも以下でもないのですが、個人的怒りポイントがいくつかあるので一つ一つ言語化していこうと思います。すべて、わたしの感想です。ちゃんとした中止の原因だとか、主催への事実に基づく批判とかはありません。ご理解の上お読みください。

今までの漫画原作モノの東宝作品が陳腐に見えてきた

 ジョジョがミュージカルに。私にとっては好きな役者の晴れ舞台ですが、世間的には怪物的な人気を誇る漫画の初舞台化という点が大きな話題でした。

 「ジョジョが舞台になります。主演のファンクラブに入っているから早くチケットを確保できるよ。見てみたい人もしいたら声かけてね!一緒に行こう!」と、リアルの友だちにフォローされているInstagramで言ったりもしました。すると、今まで一度も舞台の話題でおしゃべりしたことがない人からも連絡が来ました。作品の大きさを感じました。

 こんな一般的なゆるい観劇ファンですら作品の話題性を感じていたので、主催も当然今回はどんな人たちからどんな反響があるかよくわかっているだろうと感じていました。というかそもそも、そういう客層に来て欲しくてジョジョを選んだのだろうと。

 それなのに、前代未聞の理由で中止です。大手の演劇興行主なのに、中止になった日たった1枚しかチケットを持っていない、今回初めてミュージカルというものを見てみようと思う人の存在にまったく気づいていないようでした。

 たしかに、ジョジョミュのチケットは取りにくくはありませんでした。即完ではなく、ある程度の期間、一般発売後に「ジョジョミュをやるらしい!」と気づいた人でもチケットを確保できる状況でした。役者の熱心なファンや、いちおうWキャストをどちらも見てみたい演劇ファンも、席にこだわらなければ苦労せず複数枚手に入れていたでしょう。

 ……だから何ですか?数日中止になってもいいとでも?

 これによって、ああ、東宝は本気で「漫画ファンにミュージカルも好きになってもらおう!」なんてこれっぽっちも思っちゃいないんだなと思いました。初めてミュージカルを見る人の存在がここまで想定されていない発表、ありますかね。

 私は、ジョジョミュ以前から「東宝はなんで漫画原作をよくやるようになったんだろ〜」とぼんやり考えていました。とくに、「のだめ」にすこし疑問を感じて以来。実は、「のだめ」をおもしろかったけれど2.5次元舞台をメインでやっている会社ではなく東宝がわざわざ作った作品としては物足りないと感じました。

 2.5次元舞台というのは、まだ無名の役者に人気キャラクターをあてがうことで役者の技術と知名度を育てる側面が大きいです。正直役者として未熟でも、キャラクターの熱心なファンが好意的(逆にめっちゃ厳しい目で見るパターンもあります)に応援することで、役者として名前が知られていくパターンが多いです。最近は2.5をメインフィールドにしている俳優が飽和し、どの役者にもそこそこ熱心なファンとライトなファンがいて、原作名に関わらず役者のファンが客席を埋めることが多いため、前述した状況が必ずしも起こっているわけではないですが。

 一方で、東宝が漫画原作をやるなら、漫画ファンにミュージカルとはなにかを体感させるような作品にしてほしいと個人的には思っていました。しかし、「のだめ」は、ミュージカル……なのか……?という感じでした。ひとつひとつの曲が独立していて、「あの時に流れたメロディがここでも……!」みたいな、装置として使われている曲がほぼありませんでした。物語を頭からなぞってときどき音楽をつけてみた、という感じでした。

 なんなら、のだめなのに音楽の扱いが雑でした。たとえば、ミルヒーがベト7を指揮しているのを見て衝撃を受けた千秋が歌う歌。観客の耳に聞こえているのはベト7から展開したベト7ではない曲(千秋の心の声が歌で表現されたもの)なのですが、千秋が聴いて見ているのはベト7のはずなので、舞台上のビジュアルもちゃんとベト7の合奏の風景にして欲しかったです。舞台上には、ベト7に登場しない楽器であるトロンボーンがいました。舞台袖にもオケがいるので、ベト7のシーンだけトロンボーンは裏にいてもらってベト7にある楽器を持った奏者を舞台上に座らせておくとかはできなかったのかな…と思ってしまいました。

 のだめカンタービレという作品自体はクラシックファンや楽器人口を増やしたリマーカブルな作品だったはずなのに。別にどうしてものだめがやりたかった、のだめじゃないとできないことがあったわけじゃなくて、ただ手っ取り早く作品のパワーで客が呼べそうだったからなのかな……とふんわり感じていました。なんとなくネームバリューで選んだ題材を、なんとなく台本にして、なんとなくところどころ歌にした。そんな感じでした。

 あんまり漫画原作を扱うことに対して「絶対この作品でこういうことがやりたい!」みたいなものがあんまり制作側にないのかも……と思ったのです。

 で。今回、その思いが強くなりました。漫画原作は、海外版権や完全オリジナルよりコスパがいいというだけだったのでは、と。

 今回の中止では、もし主催が一貫して初めてミュージカルを見る人の存在をを意識していたら最低限説明があるだろうという部分に説明がありませんでした。とくに「そうだよね!それ説明いるよね!」と思ったのは、振替公演が難しいことと配信の日程が出ていないことについてです。舞台をよく見る人にとって、振替公演なんてほぼ不可能なことは常識です。役者や会場がどれほど先までスケジュールぎっしりか、なんとなくわかります。そして、「配信を無料で提供することを検討しています」と言われたら「ああ、もともと千秋楽にカメラが入る予定だったのかな。その時に対象者は無料にしてくれるってことかな」くらいまでは思いつく人も多いでしょう。ですが、そんなのは、舞台を頻繁に見る特殊な人たちの思考です。

 大好きな作品が舞台になるからチケットを初めてとってみた層からしたら、知ったこっちゃありません。一生懸命初日を取った人は当然たった一度の「初回」をみたいと思うし、できればもう一度見るチャンスを作って欲しいと思うのが当然です。これはチャンスを作れと言っているのではなく、なぜできないのかを丁寧に説明する必要があると言っています。

 このあたりに考えが至ってない主催の発表を見ると、のだめもジョジョもキングダムも、東宝にとってはある程度新規層も呼べる可能性のあるコスパのいいネタだったのかもしれないと思ってしまいます。客席が観劇ファンだろうが原作ファンだろうが、宣伝やオリジナルの脚本作りの手間を省いてそこそこチケットが売れればそれで良いと思われていそうです。

 キングダム、一度物凄く狭そうに椅子におさまろうとしている原作ファンと思しき男性2人組が前に座ってきて正直あんまり視界が良くなかったことがあるんですけど、なんかほっこりしたんですよね。たくさん拍手してて。ああ、初めて来たんだろうなって思って。ああいう人たちのことを大事にしない東宝には正直呆れます。いくら原作が好きでも、行ったことない劇場に足を運ぶのに5桁払ってくれる人なんて当たり前じゃないですよ。

私の推しの給料も怪我も、あんたは補償しないよね?

 中止そのものも大変腹立たしいのですが、数日ずつちょこちょこ中止して結果的に中止発表を2回されたことで、「どうしても初日を見たい」という気持ちが消え失せました。

 私は今作の主演の俳優のゆるふわ新参ファンです。4年ほど彼を応援しています。

 彼は、某人気2.5シリーズ出演メンバーの中でもずば抜けて歌やダンスが上手いイメージはなく、そこそこ古参ではあるし下手ではないものの、ほかに目立った活躍をしている彼より若い役者がたくさんいるような立場でした。そんな彼が、2年ほど前からあれよあれよと東宝に気に入られていきました。

 クリエで若手実力派を集めた作品に出たと思ったら、日生で何度も再演され高い歌唱力が必要とされる有名ミュージカル作品に抜擢され、さらに東宝が力を注いでいると思しき漫画原作モノの初舞台化、しかも帝劇に呼ばれました。初めて彼のパフォーマンスを見るであろう人が、彼の名前の入ったキャストボードをパシャパシャと撮影していました。人気2.5シリーズでは、どちらかというとカンパニーでも年下の方で、かわいがられるキャラのように見えていたのに、いつのまにか座組の後輩の面倒をみて慕われているかのような発言が増えていきました。

 彼が東宝作品に出始めた頃に私は社会に出ました。頑張ればきっと誰かが見ていてくれる。そんなふうに着実にステップアップする彼を見ていると思えました。心強くて、応援するのが楽しくてしかたありませんでした。

 そんな彼が、ついに帝国劇場でど真ん中に立つ。それも、昨年はじめて帝国劇場の舞台を踏んだちょうど1年後に主演でカムバック。彼自身の経歴のストーリー性と、作品と劇場の大きさに大興奮しました。

 去年共演した、慕ってた先輩には報告したかな。あの人は喜んでくれたかな。それにしても、こんなビッグネームの作品。彼の名前すら聞いたことがなかった人が彼の歌を聴くんだ。本人も誇らしいだろうな。そんな幸せな気持ちになりました。

 そんな作品が、制作都合で中止。3日中止され、休演日を挟んでさらに2日中止。

「そんな数日でチキチキ調整すればどうにかなる準備不足ってなに……?数日根詰めて"それ"を実現することが安全じゃなくない……?」と思いました。東宝のお知らせツイートについた安全第一だししかたないよね……みたいな引用に「いやいやいや!!数日でどう安全になるんだよ!!数日経とうが経つまいがそもそも危ないってことでしょうよ!!」と突っ込みたくなってしまいました。

 公演日が減ったことに対する役者への補償はどうなるんだろう。根詰めた数日で溜まった疲労や、もともと決まっていた公演スケジュールをもとに想定していた体のコンディションやメンテナンスの狂いによって、万が一上演期間中に誰かが怪我したら、東宝は何をするんだろう。東宝から役者への保険や手当が提供されてるとは正直考えられないし。

 SNSでは、千と千尋やのだめが上演された時の「ギリギリエピソード」が拡散されていました。わたしも実際に役者のインタビューや挨拶で耳にしたものもありました。それらをみて、そう言えば彼はやたらと漫画原作モノにたくさん出ていたな……と改めて思いました。

 彼に対する東宝の評価は(そりゃ全く芝居もチケット販売もてんでダメだったらこれだけ何度も使われるわけないので実力や人気がちゃんと評価される点もあるのは承知の上ですが)、制作過程が不安定な漫画原作モノの現場で多少無茶が聞いてしまう、無茶をお願いしてもokしてくれてしまう年齢や体力なのでは……?とふと思いました。少し世代が上の「ミュージカル俳優といえば」な感じで名前が挙げられそうな人たちほどのギャラは払わなくてよくて、コロナ禍による真っ赤な業績をカバーするための無茶につきあわせることもできる存在。そんなふうに思われているのかも……なんて。

 都合よく無茶してくれるから選ばれてるかもしれないなんて思わせないで欲しかったです。本当に。でもこれそんなに穿った見方なのかな……。のだめやキングダムで共演したあの子のファンとかもわかってくれる気がするのですがそんなことないですか……?

 でも、彼や彼のファンにとって彼が演じた漫画やゲームのキャラクターは、誰も彼の名前を知らなかった世の中に彼の名前を教えてくれた存在です。峰くんが、学生時代一緒に音楽をやっていた後輩に、彼の存在を教えてくれてました。「秋桜湯さんの推し脚長すぎです😂😂」と連絡をくれました。ゴーディオが、2.5は見ないミュージカルファンの知り合いに彼の名前を教えてくれました。「帝劇おめでとう!」と連絡をくれました。まだ彼の名前や歌声を知らなかった人たちに彼の存在を教えてくれる役名に彼が本気で向き合う時、主催にとって彼が都合の良い存在だったらと思うと虫唾が走ります。ビッグネーム作品でスペクタクルを見せれば良いわけじゃない。好きな俳優の労働環境に疑いの目を向けてしまいたくなるような状況にしないで作品を作ってほしいです。

 

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