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呪縛を解こう

1997年6月3日(水)
コンクリートの壁にあいた四角な、ガラスがない窓の向こうにCがいた。
やあ、帰って来たんだね、お隣さん。
ここは地上何階かな?

Cはわたしの部屋にいた。
「タイに行ってたんだよね」
「ずーっと湖にいました。わたし、12月に2回自殺しかけたの」
え?
「そのとき、ともだちのまじない師になおしてもらった」
Cの胸の辺りが透けて、直してもらった痕跡が見えた。まるでアスファルトつぎはぎの道路工事。

fがCにあげた「白雪姫」を読むと、白雪姫は呪いを解く魔法に取り組んでいた。魔女の大鍋、長い櫂みたいなもので混ぜている絵。
呪いを解く試みが成功しようとしていた。しかし、どういうわけかそれを喜ばない鳥が涙を流した。
「何を! 呪縛が解けるというのに!」
声に伴って、喜ばない鳥が籠から出された。
籐のすてきな籠で、3段に仕切った中の段に、目には映らない鳥はいたのだった。空になった籠の下の段には銀色の涙が滴っていた。

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