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支える

1997年12月2日(火)
わたしが現れたら、なんで来たの?って顔の女の人たち。ことばはなく、黙殺。うれしくはないけれど、予想していたので。今日は怯んで帰ることはできない。もう彼女たちのふるまいは問題ではなかった。

中には女の人ばかりたくさんいた。
石の女の子に会った。彼女も、わたしの方から来ると戸惑ってしまうようだった。

階段の途中で、のぼるのに苦労している小太りな人を見つけた。この人のところにわたしは来たのだ。
「わたしの手に掴まってください」
声をかけると、彼女は驚きつつも素直に手を出した。緊張しているのだろう、冷たい汗をかいていた。わたしの手も汗をかいた。わたしの右手は彼女の左手をしっかり支えた。
つやつやした木の階段を一段一段のぼった。

階段は下りるほうが大変だった。くだりは駅の大きな階段のようだった。そして支えるべき人が増えていた。青色の古い乳母車の赤ちゃん。
今度はもっとしっかり支えなければ。彼女の手を左手で受けて、右手で腕を支えた。
目を見開いたおじいさんとおばあさんがいたので、赤ちゃんは二人に頼んだ。

「よくわたしのところへ来てくれたわね」と彼女が言ったので、「あなただって、追い払わなかったじゃない」と答えた。
彼女はわたしをバカにして嫌っていたので、追い払われるかもしれないと思っていた。追い払われたら、とても辛い。辛い思いをするのかと恐ろしかった。だから、わたしの力を素直に使ってくれて、ありがとう、という気持ちだった。

彼女は自分の体重を支えられないので、一段毎に重みが来た。その度にわたしのからだが不自然にゆがんだ。これがこの先つづくと、からだが変形してしまうと思った。それはいけない。

階段をおりきった。ほっとした。
あっ、思い赤ちゃんと赤ちゃんの車を老人たちに任せていた。
二人はほとんど階段をおりきるところだった。駈けよってベビーカーの赤ちゃんを受け取った。重い。
おばあさん、ありがとう。(おじいさんはいなかったのかな?)

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