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『Lilacの夢路 ドロイゼン家の誇り』感想

何度か観るうちにクセになってきて大好きになってしまった『Lilacの夢路』の感想と、私の心を最近盛大にざわめかしているフランツとディートリンデのカップルについて語る記事です。
(サムネはドイツに行ったことのない私が一番ドイツに近づいたストラスブールのクリスマスマーケットの写真です。クリスマスの場面でいつもこの光景を思い出す。)

やっぱり好きだったLilacの夢路 芝居全体の感想

タイトルにも書いたけど、私はやっぱりLilacの夢路という作品が好きだった!という話です。途中ちょっとお口が悪かったりもするので、不快にさせてしまったらごめんなさいと前置きしておく。

初見の感想は「ショーみたい!!」だった。たくさん歌とダンスがあってお衣装もどれも素敵で、なんだこの芝居を観た後とは思えない高揚感は…!という驚き。

しかしその一方で、(抽象的な課題文を具体化することなく、抽象的なまま理解することが求められる某大学の小論文試験みたい…)と思ってしまう自分もいて、手放しで頭を空っぽにウェーーイ!!と喜べないという違和感もあった。

私が個人的に一番気になってしまったのは「起承承承転転転(結)」という展開で、問題は色々起きるけどどれも話がすり替わっているだけでちゃんと解決してなくない!?ということ…

(めちゃくちゃネタバレだけども、エスニックマイノリティや貧富格差を問題としていたのに、「アントンくんは実は兄弟でした〜」となっても実は何も解決してなくない?って思ってしまった…製鉄所で働いている貧しい労働者たちは、突然キラキラした裕福そうなお洋服を着て経営者の一員になったアントンを見てどう思ったんだろう…)

とか思ってしまってモヤモヤを溜め込んでいたのだけれども!!先日何度目かの観劇の際にふと思い立ったことがあり…
鉄道を作る話なのではなく「兄弟たちが騎士としての誇りを実現し成長する話」なのだ!と思うと、それまで感じていた違和感が雲散霧消した。

そもそもライラックの花とは「ドロイゼン家の誇り」を表すというような台詞があった。(と思う、うろ覚え)
そして、騎士領所有のユンカーであるドロイゼン家当主は代々大切にしてきたのは、農民達を大切にすること〜的なことをS10で言っていたと思う。(立ち聞きしている朝美さんの横顔と、壁に映る影が美し過ぎて見惚れていたら難しい台詞は覚えられなかった。ルサンク早く見たい…)

ハインドリヒは「騎士のような人」、フランツは「理性的で礼節を重んじる私の騎士(ナイト)」、ゲオルグは「騎士道を重んじる軍人」であり、みんな職は違えど「騎士」という性質は共通している。ハインドリヒは鉄道を作り一般民衆を幸せにし平和な世界の実現を目指す。フランツは誰も傷つけることなく愛の力でディートリンデを改心させる。ゲオルグは異端とされた魔女の血を引く兄弟を温かく迎え入れる手筈を整える。

鉄道を作る物語よりも、ドロイゼン家の兄弟達が民の上に立つものとして愛と思いやりを持ち、騎士としての誇りを実現していく物語なんだと私は勝手に解釈した。「ライラック(=ドロイゼン家の誇り=騎士道)を(叶える)夢路」というタイトルなんだと思う。

これはお友達が教えてくれたんだけど、エリーゼは酒場で働くために致し方なく男装をしていたけれど、オーディションに落ちても決して「ヴァイオリニストになるために、男に生まれたらよかった」みたいなことは言わない。女という土俵の上で夢を探すことを徹底している。エスニックマイノリティに関しても、生まれを変える必要はないというメッセージが込められているように感じた。そのような人々を守るのが騎士の役目だ、と。

というわけで、私はこの物語に「起承転結」の「結」は初めから必要なかったのだわ…と思ったので、次からはあまり難しいことは考えずに感じるがままに楽しみたいと思っています。ドロイゼン家の経営方法とかさ、犯罪揉み消しちゃったこととかさ、色々気になることはあるけど、ドロイゼン家の人々はこれからも失敗しながら夢路に向かって進んでいくんだと思います!!

というわけで、私もフランツのように自分で拗らせて悩んで勝手に自己解決しました(完)

個人的にここが好き!という話

①五兄弟という設定がずるくないですか??

(長男と五男は該当しないけど)次男から四男まで兄であり弟という二重の関係性が楽しめるわけですよ。「フランツ×ランドルフ」「ゲオルグ×ヨーゼフ」の組み合わせで戯れているのを観るのがとても好きなのですが、他の兄弟には見せない「お兄ちゃんの顔」や「弟の顔」を都度覗かせるのが愛おしくてたまらない…(S1-2でヨーゼフの指揮の真似をしているゲオルグさん可愛すぎる)

冒頭の「鉄ソング」や「スピードが大事ソング」で兄弟全員が同じ振付で踊るけれど、それぞれダンスの個性が際立っていて観ていてとても楽しい。
「ハインドリヒ」「フランツ」…といったそれぞれ役を演じながらも、隠しきれないそれぞれのタカラジェンヌとしての個性が透けて見えるのも何重にも美味しい。一番好きなのはみんなの肩の動かし方が全然違うことです。

兄弟の個性の話で言うならば、お酒のグラスの持ち方もそれぞれ役に合わせて変えているのが素敵だなと思う。ゲオルグの上から掴むようなグラスの持ち方があまりにかっこよすぎて、さすが和希そらさん…恐るべし…と思いました。華世さんのヨーゼフは両手で支えるようにグラス持っていてかわいすぎました…

②曲が良い

台詞の途中から歌になる曲が多くて、芝居から歌が浮いていないというのがとても良かった。
リプライズが多く、ちゃんとミュージカルしてる!!という感じも観終わった後に満足度が高い。(何のためのリプライズなのかはよくわからなかったりするので、有識者の方ご意見くださいまし)

S3-1「限りなく尊い夢」が一番私の心に響いている。見た目が本当に麗しいよね。幼女だった時にこんな夢の世界のお芝居観たかったと思った。
宝塚のデュエット曲って男役目線で娘役目線の曲ってあまりないような気がするけど、この曲前半はエリーゼが「私の夢」、ハインドリヒが「あなたの夢」と歌っているということに軽く衝撃を受けた。(私の偏見かもしれないけど、宝塚の曲って大体娘役が「あなた〜」って歌ってない?)話の流れとしては当たり前なのかもしれないけど、娘役を軽視しないというところが物語のテーマと一貫しているようで好感を持った。

③ダンスナンバーの豊富さ

組子全員がありとあらゆるところで踊っていて目が足りない。
大事なシーンで登場する白い乙女達が可憐で羽が生えているかのような素敵な振付で踊っていてかわいい。顔と運動神経の良すぎる製鉄所のタオルやトンカチ(?)を使ったダイナミックなダンスがかっこいい。などなど、多分私の目が偏っていて追いきれていない見どころがたくさんあると思う。人には人の乳酸菌じゃないけど、人には人の好きなLilacのダンスシーンがあると思うので「ここを観て!」というお話をお待ちしております。

④お衣装

舞台に立つ全員が違う色味やデザインのお衣装を着ているにも関わらず、なぜか一体感があるというのが加藤先生のデザインされるお衣装の魅力だと思っている。五兄弟の洋服もそれぞれ全然違う色や形デザインのお洋服を着ているのに、五人が並ぶととてもしっくりくる。
上手い例えが見つからないけど、アイドルグループのお衣装が一人一人違うけどテーマは揃っているみたいなのあるじゃないですか。そんなイメージです。

クリスマスの雰囲気もとても好きです。みんなが違う個性を持つお衣装を着ているのに、きっとここはドイツのどこかの寒い街なんだろうなという幻想を抱かせる。(お衣装の話とは関係ないのですが、クリスマスで和希そらさんと組んで踊っている華純沙那ちゃんがお人形のようにかわいいので、みなさま見てくださいよろしくお願いします。ところで、華純沙那ちゃんは和希そらさんの恋人役なのかなと思っていたら藤影ゆらさんとキスしていたのですが、どういうご関係で??かわいいから仕方ないよね、うんうん。)


フランツとディートリンデの話がしたいいい


朝美さんがご贔屓なのもありますが、この二人の関係について考えれば考えるほど沼なので思いの丈をぶつけます。さっきの「個人的にここが好き」の話の中でやればいいのに、わざわざ章立てする熱心ぶり。

身も蓋もない言い方をするけど、朝美さんが演じるフランツさんあまりにリアリティー溢れた綺麗な男性じゃないですか?その非現実的な美しさから冒頭のメフィストフェレスのような人間ではない役もとってもお似合いだし、これまでも少年らしいお役やフィクション性の強いお役を演じられることが多かった気がする。けれど、研15の今巡り巡ってきたフランツというお役は非現実的な美しさと現実的な感情を出し入れする芝居が共存していて、「男を演じる男役」というより「美しい男性」という側面が強くなっているように感じるのだ。朝美さんのお芝居って「演じている」はずなのに、いつも「その役の人」としてそこに存在していてすごいよね(大の字)

フランツとディートリンデ、なかなかに濃い関係… しかしそれを決して品を失わずに表現しているところがタカラジェンヌとしての経験を積んだお二人ならではだなと思う。「美しい男性」という面が強くなると生々しくなってしまいそうだけど、朝美絢さんと野々花ひまりちゃんの演じるカップルは生々しさは一切なくて気品すら感じる。何度かキスシーンがあるけど、「キスしてますよ」感を強く出しているのに、どの角度から観てもいつも完璧に美しくてなんだこの素晴らしい矛盾は…と頭を抱えているよ。
朝美さんはもちろんいつでもかっこいいんだけど、今回のフランツというお役のかっこよさを更に引き出しているのはお隣に野々花ひまりちゃんが居てくださるからだと思います。謎の立場ですが、本当にありがとうございますとお礼を言いたい…


私が観劇する度に毎回来るぞ来るぞとワクワクしているのが、S12でフランツがディートリンデに向かって歌う場面だ。(Twitter上でいつも「ひまりちゃん愛してるよソング」って勝手に名付けて呼んでいる。)

この曲の歌詞があまりにフランツだなぁと思う。フランツはディートリンデに「こうするべきだった」とか「謝りなさい」とか説教はしない。なぜなら騎士だから。
ただひたすらに伝えたいことは「君のことをこんなにも愛してる人がいるよ」というメッセージで、フランツさん優しいなぁ。「君は僕の愛の手を取ればいい」とかでも良さそうなのに、「なぜ君は気付きはしない 愛の手を差し伸べるぼくに」なんだよ。「眠れぬ夜には〜」以降もすごいこと歌っちゃってるので、余裕がある方はぜひ歌詞にも注目して聴くとムヒムヒできること間違いなしです。

なぜそこまでの熱い想いをディートリンデに抱いているのかの背景も曖昧だし、殴られる演技の後突然名探偵フランツが始まって数日後…みたいな流れになるのも全体的に謎ではあるんだけど、場面の繋がりは「?」みたいな中で、あそこまでの感情の昂りを表現できる朝美さんとひまりちゃんは素晴らしい役者だなと思う。裏声になる「眠れぬ夜には〜」以降の恋焦がれる歌声とフランツさんのますます深くなる眉間の皺に呼応するかのように、ディートリンデちゃんの瞳から涙が溢れて、ひどい女だけどもう同情せざるを得ないじゃないですか。

「お別れだ」のところで、恋人繋ぎをした手を一度自分の方に引き寄せて、プライド?自尊心?の高すぎるディートリンデちゃんがいつでも自分に頼ることができるように仕向けてあげているのもすごくフランツらしい。「(僕の愛の手をとることができないならば、)お別れだ。」という意味だと解釈しているけれど、そこまで説明はできない拗らせフランツくんいじらしいね。

声を大にして言いたいのですが、フランツの拗らせは優しさ故なのです!!!!

この場面のお二人の芝居も大好きなのですが、朝美さんの歩き方オタク(?)の私としては下手にはけていく朝美さんの切ない孤独な後ろ姿がグッとくる。兄のハインドリヒと喧嘩をしても、兄弟だから絶対に繋がりは失われないと信じているからなのか素直にプンプンしながら足音立ててはけていくのに、ディートリンデに自分でお別れを言い渡した後はそんなに哀しそうな歩き方をするなんて…

この場面がすんなり終わってしまったら、ディートリンデが改心するという物語のラストに近づくことはできないから、本当に大事な場面をお二人が大切に作り上げていて愛おしいなと思う。
そして、再会後にただ台詞もなく見つめ合うお二人の雄弁な表情と揺れる瞳ですよ。脚本に二人の背景はあまり描かれることはないので、やりようによってはどっちつかずな人物像になってしまう気もする。ここまで現実的に血の通った人物を作り上げることのできるお二人のお芝居をもっともっと観たいなと思うのでした。

ショーの感想もいつか書きたい…

ショーの感想も書きたいなと思っているけど、観終わった後は、夢白さんが歌う「la vie en jewelるんるんるん♪」以外の気持ちを失ってしまう… こんなに綺麗でかわいい妖精達がたくさん出てくる舞台を観ることができるなんて、私の人生までも「宝石みたいに輝く人生るんるんるん♪」だなと自己肯定感爆上がりできますよ、今回のショー。いつか書けたら書こうっと。

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