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ロボットなんて大っ嫌い!

お嫌いですか、ロボットは?#14 かゆいっ! かぃーぜ!

――いらっしゃいませ。
 マスター元気? いやあ、今週も疲れたわ。

――おや? マスクを二枚重ねに、花粉症ですか?
 違う、違うよ。田舎育ちだからそんなしゃれた病気には縁がないよ。客先のビルの警備員から言われたんだよ。「布マスクじゃ入館禁止」って、不織布のマスクを渡されたんだ。別の客先でも言われてね。布マスクの方をポケットに仕舞うと、なくすかもしれないからそのまま重ねて付けてるんだよ。

――いつものでいいですか? ジャックソーダで。
 うん、頼むわ。レモンをぎゅっとしぼってね。え~っと、今夜のおすすめは「カリうまレンコンチップス」か。レンコンって花粉症対策に効くらしいね? かゆいっ! かいーぜ! と言えば……、ふふふっ。思い出すよ、広島の宇品海岸近くにあった無線LANのルーター工場の案件を。要するにあれはカイゼン事例だったなぁ……………。


 JR広島駅から広島城方面に車を進め、市役所を見ながら国道54号の起点を過ぎてそのまま進むと宇品港、現在の広島港のエリアに出る。大手自動車メーカーの拠点港でもある。系列の部品工場などが所狭しと並ぶ一角に、中堅電子部品メーカー系列の、とある無線LANのルーター工場がある。かつては電子部品を長く製造していたが、無線LAN「Wi-Fi」の普及で、ルーターユニットの生産に切り替わった。今も国内で作っているのは、あまり大きな声では言えないが、国防関連の機器に使われるユニットの受注をこなしているからさ。

 中国地方の中核都市の広島とは言え、今じゃ労働人口の減少や高齢化の影響は無視できなくなった。業務の効率化のために「人協働ロボット」を、現場作業員の補完として生産ラインに導入する検討を始めた。

 生産ラインは大きく分けて①基板の製造②基板の検査③基板を部品に組み込む――の3工程に分かれ、②と③の一部で協働ロボットを導入することにした。

 具体的には、ロボットが得意な「運ぶ」「定位置にセット」に加え、「グリスを塗る」といった単純な動作を任せた。特に「グリスを塗る」は。ヒトでは量や塗り方にバラつきが出て、時間を経るにつれて単純作業に飽きて不安定になる。まさにロボット向きの作業だった。

 でも実際にラインに導入すると、想定できなかった問題が起こった。2台のロボットの可動範囲が干渉して稼働スピードが落ち、コンベヤーに乗せた部品の位置のわずかなズレを認識できずつかみ損ねるなどの問題が起こった。ヒトならば多少のズレなど関係ないけど、動作が正確なロボットだからこそ、正確な位置になければつかめない。

 ここで頭のカタイ、いや頭のいい技術者たちは「ズレの最大公差」の計算方法だかを議論し始めるのだが、俺はそんなの無視。公差を計算するところが、余りにも多いからさ。「やってみて、失敗したら解決策を考える」方が、手っ取り早い。短期でシステムを完成できる。

 その代わり、ロボット特有のムダな動きには注視した。協働ロボットのアームを回転させれば必ず、回転を戻す必要がある。センサーのコード類があればねじれを直すためになおさら。できるだけ回転数を減らすような動きを設計し、ロボットに覚えさせる必要がある。

 ヒトの動作や作業を効率化するための「カイゼン」活動は、ロボットに対しても必要なんだ。同じ動きを続けると、同じ関節部分に負荷がかかって傷みも早い。ヒトと同じで、ロボットの健康の状態を確認する「定期健康診断」だって必要なんだ。

 俺たちSIerは、こうした経験や知見をいくつも持っている。ロボット導入のノウハウを整理し、体系化し、試行錯誤の成果として、ロボット導入の「トータルパッケージ」を商品化できるのが強みなんだ。ロボットを入れた生産ラインを納めたら終わり、製品が変わったら別の生産ラインを一から設計、ではない。将来の拡張性や製品の変化を見込んで、長く稼働できるラインを客に提案するんだよ。

――製造業で長年積み重ねられたカイゼン活動って、最新のロボットの導入でも同じなんですね。健康診断があるなんて、ロボットに親近感がわきましたよ。

■この連載はフィクションです。実在する人物や企業とは一切関係ありません。(2021年2月19日(金)にウェブマガジン『ロボットダイジェスト』に掲載されたものです)本家の掲載『お嫌いですか、ロボットは?』がなぜか読めなくなり、問い合わせが多かったので、一時的にこちらで掲載します。本家での掲載が復活したら、こちらでの掲載は破棄します。悪しからず。

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