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ほんものの味醂

料理をするときに欠かせない調味料の1つが味醂。大手メーカーから地場の特産品まで、多種多様な商品があります。
伺ったのは愛知県碧南市。海に面したこの土地は醸造が盛んで、昔はここで作った清酒を廻船で江戸に運んだりしていたそうです。現在でも数軒がみりんを製造しています。

その中の1軒、小規模ながら本当に美味しい味醂を製造しているのが小笠原味醂醸造。三河本みりん「みねたから」「一子相伝」などの製造元です。製造量が少ないので知名度は高くありませんが、プロの料理人や味・香りにこだわる料理好きな方に根強く愛されています。

ところでみなさん、味醂の製法ってご存知ですか?
日本酒と似ているのですが、一般的には
1 蒸したもち米に米麹と醸造アルコールなどを加える
2 常温で熟成させる
3 絞って火入れして完成
という流れになります。
日本酒と違うのはアルコールを最初に加えることで、糖分がアルコールに分解されないという点。つまり、日本酒よりも多く米由来の糖分が残っているので、本みりんは甘いのです。
(みりん風調味料などアルコールが残っていないものは、本みりんと全く別物です。ただし酒販免許が不要なのでどこでも販売・購入ができるという利点があります)

他の会社・工場を見たことがないので比較することはできませんが、小笠原さんは原料選びから製法の1つ1つの工程をとても丁寧に行って味醂を作っていました。原料となるもち米は全量国産米。適度な硬さを求めるため産地もこだわっています。米麹も自社で製造。(画像は工場内にある麹室)

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小笠原さんの手にかかると、熟成させている最中にタンクの中で「おり」がほとんど出てこないそうです。つまり不純物が極めて少ないもろみ(味醂を絞る前の状態)ということです。
その結果、絞った味醂に雑菌がほとんどおらず、火入れしなくても出荷できるのだそう。
他のほぼ全てのメーカーで味醂は火入れしているそうですが、ここでは火入れをしていないので、とにかくまろやかで香り高い。
火入れをすると雑菌はいなくなるし商品としては安定するのかもしれないが、どうしてもアルコールが飛びやすくなるし、香りも弱まってしまう。火入れしないで出荷できる製品であればその方がより美味しいので、そうしているとのこと。

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(味醂を絞る機械。周辺も含めて清潔に保たれていた)

味醂単体では一般人の味覚・嗅覚だとそこまで差は感じられないかもしれないが、例えば火入れしたものと、火入れしていない小笠原さんの味醂それぞれを水で10倍くらいに薄めてみると、その差が一般人でもはっきりとわかるそう。プロの料理人や、味・香りのわずかな差を重視する方に愛されているのはそういうことが理由です。
ちなみに、小笠原味醂の愛用者は料理に使うだけでなく、ロックで飲んだりするそうです。

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そして味醂を絞る時に出てくるものが「かす」
長期間熟成させて、機械の力で強く絞り出せばかすは多く出ませんが、その分余計なものまで液体に溶け込んでしまうので、小笠原味醂では50日程度で絞っています。その結果、元々の体積の約4割が残ります。つまり日本酒における酒粕にあたる「味醂粕」がまた素晴らしい食材になります。

酒粕はスーパーなどでも手に入りますが、味醂粕はとても貴重な一品。
これを使えば味醂の風味が感じられる美味しい漬物、クッキー、アイスクリームなど様々な料理が作れます。大谷氏いわく、酒粕と味醂粕は決定的に旨味の方向性が違うのでアレンジの仕方、味わいも変わってくるそう。

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小笠原さんは決して「こだわってる」意識はなく、昔から当たり前の材料で当たり前のもことをやっているだけだが、周りが変わっただけだといいます。大量生産はできないし、ペットボトルに詰めたりもしない。楽しない分、経営的に苦労することも多いと思います。

しかし大谷氏をはじめとする料理人に聞くと、異口同音に「この味醂はまとまりがいい」といいます。今回、取材でお伺いして私が感じたのは、小笠原さんは正しい製法をただしくやっている職人であり、料理や味醂のその先のイメージを、ゴールを見据えて考えている人です。
ここの味醂は決して安い味醂ではありませんが、高いものはいいものだ、という価値観ではなく、料理の幅を広げてくれる、料理の世界観を作るために役立つ道具、というふうに感じました。

次回はこの味醂を使った調味料・料理を皆様に紹介したいと思います。

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