入院50日目


 50日目、ってすごいな。
 気が狂うよ、こんなところに50日も閉じ込められてちゃ。
 恵まれているんだかなんだか分からないが、痛いとか、辛いとか、それがよくなったとか、そんな変化がまったくないんだから始末に負えないのだ。

 勘違いしていたが、外来の再開は明日からだった。しかし、いつものように外来のコンビニまでコーヒーを買いに行ったところ、主治医の先生と擦れ違った。
「ああ、明けましておめでとうございます。ちょっと用事あってね」
 割と休日もよく呼び出されている印象がある。透析当番だからあとでね、と颯爽と消えていった。

 今朝の血液検査の結果は、そこまで変化はないがクレアチニン(腎機能)が多少落ち着き、蛋白が横ばい、潜血は依然としてカンスト。
 今後の治療方針としては、リツキシマブの効果を見るためにしばらくはまだ入院が必要だが、この治療に移ったということは次の一手をなかなか打ちづらく、これ以降は外来で、ということになるらしい。したがって、入院も長くて今月いっぱいまでだろうというのが大方の予想である。あとは先生も箱根駅伝を観ていたようで、その話題で盛り上がった。

 今日も日勤は同い年の看護師さん、これからも何度か登場すると思うのでいまさらながらKさんとしておこう。Kさんからはやたらと「99.9というドラマが面白いので観てください」と押されていて、今日は「明日映画観に行くんです」と嬉しそうに報告してくれた。
 そんなに言うならと昼ごろにTVerで観てみたが、普通に面白かった。が、それを伝える機会は訪れず、夕方の差し入れで会えるかなと思ったが違う看護師さんがきてチェッと思った。

 父と兄が浅草の今戸神社に初詣に行くということで、道中の写真がたくさん送られてきた。いくつかのおみくじが並んだ写真がきて、その中からどれがよいか僕が遠隔で選ぶという面白い試みもあった。
 一緒に行っている感じを出したかったのか、かなり細かく写真を刻んでくるので、しかも兄と父の両方から同じような写真がひっきりなしに送られてくるので、有難いけれど一日中ベッドにいただけなのにこちらまで随分と歩いた気分になって疲れた。

 おみくじの結果は、小吉。
「どんなに枯れた土からもやり方ひとつで芽が出て花が咲く
 今自分のできることを考えなさい
 花が咲くと信じたものだけが希望の芽を育てることができるのです」

 誰にでも当てはまりそうな当たり障りのないことが書いてあったが、この病床でできることをやれ、ということだろう。
 できることをやれってなんだろう。もうダラダラするのは散々やっているから、そういうことではないんだろうなとは思う。
 僕がこの50日間で得たものはなんだろう。
 なんもないような気もするが、当たり前に感じてしまっているだけで、できるようになったこともある。ひたすら攻略したRPGのレベル上げをしている気分。「キャスト・アウェイ」の島を出る前のトムハンクスみたいな感じか。
 できるようになったこととして、例えば、本を読むのが速くなった…気がする。昨晩は「盤上の夜」という短編集を一気に読み切った。いつもは読後に襲う疲れが今回はなかった。今日の差し入れでも調子に乗って追加で6冊ぐらいお願いしてしまった。

 さて、ちょっとしたご報告。
 今日で50日目とキリがよく、また大した治療のヤマ場もないことから、一旦入院日誌はここまでにしようと思う。これからも書き続けるがしばらく下書きに溜めて、退院時にダイジェストみたいな感じで公開できればと思う。
 外来で長期戦になりそうなのはある程度予想しており、引き際を探っていたところだったので、ここしかないなと。
 病気のこととか、突然名前を与えられたKさんのこととか、今後のことはそれとなく分かるように書いておきます。
 それでは、みなさまもお大事に。

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