入院44日目
不吉な数字が並んでしまったが、45日目とすると嘘になってしまう。
すでにご存じかもしれないが、大きな病院の受付に番号が振られているとき、基本的に"4番"は存在しない。そこまで大きな病院があるかは知らないが、おそらく"9番"もないだろう。いわゆる忌み数と呼ばれるものである。
災害救助時に支障をきたすなどの理由からか"4階"は基本的に存在するが、"4号室"などは避けられることが多い。
縁起と聞くと直感で日本的だなあと感じてしまうが、世界を見れば13だったり666だったりとまあまあそれなりにあって、言霊信仰というべきか、不吉なものを遠ざけたいのは人類共通だなとあらためて思わされる。
さて、そんなこともお構いなしに入院生活もとうとう44日目になった。数字に罪はなく、こんだけ居座っている僕が悪いのである。
消灯後、YouTubeでの無料公開が0時までに迫っていた「AKIRA」を観た。観るのは二回目なのだが、前回は寝落ちしてしまってラストシーンを見逃していた。今回も途中寝てしまったが、ラストシーンはちゃんと起きて観ることができた。自分で外したパズルのピースがぴったりハマって感動しているような阿呆さ加減であるが、やはりちゃんと観てもラストシーンは難解。人智を超えたもの、いろいろ当てはまる。そして含みのあるラストを抜きにしても有り余るネオ東京の魅力。今度は寝落ちしないでフルで観たい。
久しぶりにエッチな夢をみた。
ただ、寝る直前にSNSなどで見ていた、純粋に応援していたアイドルグループとごちゃまぜになってしまっていて複雑な気分になった。性欲が復活してきたのは嬉しいことだが、自己嫌悪でそれどころではなかった。
6時起床。
隣の受験生は僕が昨夜シャワーから上がった20時ごろには寝ていて、日付が変わる前後の変な時間に起きたため、そこから眠れなかったという。
そんな彼は、今日の夕方には退院する。
なんだかんだ外来に用があり、午前退院とまではいかなかった。なので、懲りずに一緒にコーヒーを買いに行った。そして今日もギリギリまで話すこと話すこと。
長谷川さんと出会えてよかったですと、あまりにしきりに繰り返すので、今生の別れみたいである。
夕方、右隣のベッドが空き、一気に病室が静かになった。
正確には廊下側の爺さんがまだいるが、今夜のイビキさえ耐えれば、明日の昼には退院の運び。晴れて、しばらくこの病室が僕のものになる。
こうも急に静かになるとぽっかりと穴が空いた感じもするが、なにも終わったわけではないので寂しさはない。その穴を埋めるように講談や映画を観まくった。
窓から見える景色は、朝焼けに照らされる住宅から、完全に日が落ちて街灯が燈るまで、今日も有り触れていて、僕もその景色を飽きることなく眺めていた。
蓄尿や血液検査の最新結果は、尿沈渣の値が元に戻ってしまっていた。先生の期待も空しく、一時的な浮き沈みだったということになる。これで一喜一憂もしていられない。
この景色みたいに変わらないのだろうか。
だが、常にわずかな変化を繰り返し、いまはたまたまこの景色に落ち着いている、ということも忘れてはいけない。
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