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入院41日目
廊下側の爺さんは無限に眠り、イビキをかいていた。
そして、何故かはわからないが夜中に勝手にテレビが点き、そのテレビの角度も悪く、真っ暗な病室をクラブのように煌々と輝かせていた。
可哀そうなのは真横の受験生である。
真夜中もカーテンが七色に光り、それでいて溜め撃ちのような爆裂音のダブルパンチとくれば、眠れないのも当然であろう。
僕自身は耳栓をしてしまえばそこまで被害は被らないので、いつもどおり23時には眠ることができた。
4時ごろに起きてしばらく読書をして、6時ごろの検温直前にまたひと眠りした。寝起きの頭が重いのはいつものことなので、飴玉を舐めて血糖値をコントロールする。低血糖ギリギリの80ジャストを叩き出すぐらいには自分の身体と対話できるようになってきた。
日曜日だが、主治医の先生が顔を覗かせてきたのには驚いた。
明日のリツキシマブ頑張ろうね、という簡潔な内容と、あとは他愛もない雑談だった。わざわざそれだけのために来たわけではないだろうけれど、何か特別なものを感じざるを得ない。
午前中はいつものようにコンビニまでコーヒーを買いに行って、受験生は生物基礎、僕はその隣で資格の勉強に取り組んだ。10時から全国高校駅伝があり、昼からの男子の部では釘付けになって勉強どころではなかった。
日勤の男性看護師さんは、仕事自体は雑というか優しさがないのだが、僕の長期入院について、休職中であることや精神面でかなり気にかけてくれているのには好感を持っている。
むしろ、そういった話をしてくれるのはこの看護師さんだけだった。そのことを直接伝えると素直に嬉しそうにしていた。
目に見える痛みか、目に見えない痛みか、患者に対する心遣いにもいろいろあるものだなと考えさせられた。その看護師さんに関しては少し極端だなと思わなくもないが。
気づけば17時を過ぎており、土日は外来のコンビニが17時には閉まってしまうので、今日はホットミルクを買い損ねた。それでも、受験生は眠そうにしているし、二人ともシャワーの予約を夕飯後に取っているし、眠れる条件はそれなりに揃っていた。
19時からの大谷翔平のドキュメンタリーを観ながら、朝のコンビニで買ったカットパイナップルをこっそり食べる。
濃いラーメン、チャーハン、焼肉。この入院生活が終わって食べたいものを挙げればキリがない。
外来のコンビニでだって誘惑は数えきれないほどあるが、身体が切実に欲しているのはフルーツだった。無性にフルーツが食べたい。
身体を壊していると、実際に手を伸ばすものはそれなりに身の丈にあった範囲内に収まるらしい。先に挙げた食べたいものシリーズも、腎臓食で抑圧されているからこそであって、退院してからも塩分やタンパクに気を遣う生活は続けなくてはならないし、そもそもこの調子でいったら身体が自然と欲さなくなるだろう。
それは、闘病生活の長い受験生も言っていた。ほとんど外食はせず、ラーメンのスープも飲み干したことがないという。僕も、いままでは平気で飲み干していた側の人間だったのだが、いまではとても考えられなくなっているのが不思議である。
風呂上がりのパイナップル。背徳のパイナップル。至高の時間だった。
明日は、待ちに待ったリツキシマブ投与。不安は、もちろんある。
副作用に関してはそこまで心配していないが、なにがあるかはわからない。それよりも、効くかどうか。
でも、関わってくれたいろいろな人たちが、効くように祈ってくれている。当事者である僕が信じられなくてどうするか。絶対に、効くんだ。僕がこの病気の研究を進めてやるんだ…笑
明日も各自の持ち場で奮闘されたし。
おやすみなさい。
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