入院11日目
窓際の爺さんの廃液交換の時間がなぜか深夜3時に設定されているので、騒がしいたびに起きてしまい正確にどのくらい寝たかはよくわからないが、かなりの充実感はある。
朝6時から優雅に読書。午前中の数時間で新書をほぼ一冊を読み終えられるぐらいには回復した。
相変わらずの低血糖で看護師さんを「60!?」とびっくりさせたけれど、残念ながらブドウ糖補給食をもらえる時間帯はとっくに越えていたようで、朝食がいつもより早く出てきただけだった。
すっかり抗がん剤の副作用も抜けたのか、朝に出てきたロールキャベツが泣けるほど美味かった。昨日までは正直味を感じる余裕もなかったので、数日ぶりに押し寄せた旨味に感動してついついがっついたら食後はちゃんと気持ち悪くなった。
これでも本来の抗がん剤治療の足元にも及ばない投薬量というから、がんの治療は相当に過酷なんだなとあらためて思った。勿体ないという理由では耐えられない吐気だってある。それだけ僕の治療はまだまだ甘ちゃんで、恵まれているのだ。
回診後、先生から来週の腎生検に関する説明があった。
まず、繰り返すようだが、腎臓の病気というのは厄介なもので、腎臓の細胞を直接取って調べない限りは病名が確定できないということ。また、疑われている病気が「ANCA関連血管炎」という指定難病のため、確定させることでいろいろと医療費助成制度も通りやすくなりますよ、というメリットからあらためて説明いただいた。
ただ、直接腎臓まで穴を空ける検査であり、腎臓は血管が集まっている臓器なので、多量の出血および感染症のリスクは僅かながらもあることにはあります、とのこと。そのための輸血同意書など、いろいろな書類に目を通して片っ端からサインをする。
【腎生検 - 日本腎臓学会】
https://cdn.jsn.or.jp/data/kb_guide_2020.pdf
超音波ガイドで行う腎生検のため、機器が多く、前日からまた別の個室に移動するらしい。
(画像元:腎生検 - 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科【公式】)
当日の流れは、13時ごろ開始で、実際の組織採収は20分もかからないとのこと。
本当に大変なのはここからで、まずは穴を空けた部分を人の手で15分ほど圧迫。そこから砂嚢で30分圧迫。ここまでずっとうつ伏せで安静にしておくのだが、ここで出血など問題なければ仰向けにしてもらう。3時間半その体勢で絶対安静。寝返りはもちろんのこと、一瞬でも背中が浮くようなことがあればすべておじゃんになってしまう。そのため、両膝を曲げることもNG。夕方になり、先生に再度確認してもらう。許可が下りれば腎生検をやっていない腎臓のほうの足(通常は左側から摘出するので、右足らしい)は曲げてよくなるが、引き続き背中とベッドを離してはいけない仰向けの状態のまま朝まで安静…らしい。
「ご存じのとおり人間の身体は半日以上仰向けの状態で微動だにせず耐えられる構造をしていないので、腰痛とか穴を空けた背中が痛むとかはあるだろうけど、そこはナースコールで呼んでくれれば痛み止めとか出しますので、まあそのへんは長谷川君の忍耐力を信じているよ」
そう言われてしまったら、お任せくださいとしか言いようがない。
ちなみに、先生に確認してもらう際にベッドの上で仰向けのまま採尿しなくてはならないのだが、来週の頭ぐらいから寝たまま尿瓶に溜める訓練を始めるとのこと。尿道カテーテルは回避できそうなので安心した。
「新しい何かが開眼しちゃうかもだけど、どう、(尿道カテーテル)やっておく?」と冗談を飛ばしてくれる先生で、いつも救われている。笑顔で断っておいた。
点滴ルートは左腕についたままだが、ラップをぐるぐる巻きにして保護するとのことで、10日ぶりに入浴許可が下りた。体重測定ついでにナースステーションまで行く。
至極どうでもいいが、次に風呂に入るまでにどのくらい髭が伸びるか、密かな実験をしていた。ただ、頬の髭はマスクをしていてもバレるし、なにより見た目が不潔なのでそろそろ剃りたかった。
風呂場は隣の病棟と奇/偶数日で交互に共用しており、30分ごとに分けられた枠を当日先着順で事前予約するシステムになっている。今日は偶数日で11(いい)/26(風呂)の日だったなと思いながら、14時30分からの枠を予約。
病床に戻り、差し入れでもらった将棋セットの駒をランナーから取り外す作業を一日かけて行う。手元にはクラフトナイフしかないので、それを使ってゲート処理を入念に行う。クオリティは低いながらも、満足いくまでやっていたら夕方までかかった。その間、昼寝をしたり、風呂を浴びたり、洗濯をしたりした。無理のない、合法的なニート生活である。
父から目薬や「蒸気でホットアイマスク」などが届いたので、図書館で借りていた本などを宅下げ。迅速な対応、いつも本当にありがとうございます。
あとは、先生ともなにやら話し込んだ模様。「いい先生だね」とLINEがあった。
夜勤の看護師さんが2回目で、前回はそんな余裕がなかっただけだけれど、よく見るとめちゃくちゃ可愛い。彼女だけでなく綺麗でエロいお姉さんはいたるところにいるのだが、まさしく彼女こそ白衣の天使。天国か、ここは。
検温をするとき、いつものように微熱があったのだが、「もう一回計りましょうか、熱がこもってるかもしれないからー」とワカチコポーズをしたときはキュンときた。一緒にワカチコワカチコした。微熱があると、先生に何か報告しなければならなかったりと処理が面倒なのだろう。それは薄々感じていたから、毎度体温計を渡すときが忍びなかった。
計るたびに下がっていくので、面白がって何度も計っていたら平熱になった。これでいいのかは分からないけれど、看護師さんが嬉しそうだからいいや。
今日は日本シリーズが移動日で、クレヨンしんちゃんはネネちゃんスペシャルだった。入院生活のコツも掴んで、それなりに楽しくやっています。
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