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5.たとえ、首根っこを押さえつけてでも、事実をもとにトップと現実の認識を共有する

こんにちは!伊藤です。

久々になりましたが、戦略参謀の仕事をベースに、事業戦略の作り方や実践方法について考えていきます。

今までの記事はこちらのマガジンにまとまっているので、ぜひお読みください!

今回は、経営トップとの認識共有についての話です。ぼくは、日本法人の社長ではありますが、創業者をはじめとした本国の経営メンバーには明確に状況を説明し、スムーズに事業を運営する必要があります。

ぼくだけではなく、外資系企業の日本法人社長は、社長でもあり管理職でもあるという、バランス感覚が求められる立場です。日本国内での事業を伸ばすことが至上命題ではありますが、グローバルの方針の理解や、日本の状況を定量的かつ文脈をおさえた形で本国に報告しないと、いろいろな軋轢が発生してしまいます。ある意味、事業部長と類似しているポジションかなと思います。

そのようなポジションにいる場合、どのようなコミュニケーションを事業トップと取っていけばいいのか。早速見ていきましょう!

プライドが高い&数字の意味合いを読み取れない経営トップ

 数年前、ある業界の複数企業の役員候補や若手幹部候補が集まった研修の場で、ファシリテーションを行ったことがあります。この業界は、1強+2フォロワーが国内市場の過半数のシェアを押さえており、その他の企業にとっては、その環境下でいかに戦い、独自のポジションをとっていくかが大きな課題となっていました。
 回数の限られた研修の中、まずどこの会社も、それまでやっていなかった自社の事業実態の「見える化」から着手しました。各企業とも、どの商品カテゴリーが伸び、どの商品カテゴリーが大きく落ちているのか、その理由は何か、どこに活路があるのかを、「理」にかなった形で詰めていきました。
 最終日には、各社のトップに向けて、研修を受けた企業の幹部や幹部候補からのプレゼンテーションの場を設けました。限られた時間の中で出した結果でもあり、検証や深堀りをもっと行うべき余地が残ってはいました。
 しかし、経営陣も全く気が付いていなかった点がいくつも浮き彫りになり、どこの企業にも取り組みの余地が、まだ残っていることが明らかになり、各社とも先々への希望を感じさせる発表となっていました。
 自社のメンバーの発表内容について、多くの企業トップから「なるほど、そうだったのか……」という講評がありましたが、低迷状態が長く続いている、ある会社の2代目社長からは、次のようなコメントがありました。

「もっと画期的な、大胆なプランが発表されると思っていた。期待外れだ」
「今、発表があった分析の結果は、僕の認識と違う。データを見直すように」

 実は、このようなことは研修の場に限ったことではなく、低迷している企業においては、たびたび見られる現象です。

トップが思い込みをベースに事業を進めていて、その思い込みと反しているデータを理解しない、というのはよく見られる現象ですね。人は誰しも「自分がやってきたこと」に固執し、否定されたくないと思っているものです。特に、事業トップを長年務めた結果、他人から厳しい意見を貰う経験がなくなり、「オレが正しいんだ」という思い込みが強まると、特にこうなってしまいがちです。

こういうトップの下で参謀的動きをするのはなかなかキツいものです。あの手この手で理解してもらおうとしても、ファクトベースで「ここに問題がありますよね」と明示化しても、何も変わらない…そんなことが続くと、心が折れそうになります。

ぼく自身、そのようなトップにならないように気を付けてはいますが、時間が経つにつれてどんどん傲慢になったり、ファクトベースで議論することができなくなってくるのかな…。怖いですね。

参謀には、トップを動かす工夫と情熱が必要

 参謀役をしていると、トップの言動に唖然とすることなど一度や二度ではありません。
 笑っていられるうちはいいのですが、早晩、あまりに呆れ、憤りのあまり自分の手が冷たくなることさえあると覚悟しておいたほうが良いでしょう。
 しかし「少々難あり」状態のトップでも、企業を良くすることについては誰よりも真剣に考えているものです。
 参謀には、現場の事実を適切に理解してもらうと同時に、トップの気持ちを動かすための工夫と、会社全体の幸せの実現につながる熱意(パッション)が必須です。
 「やってられない」と匙を投げる前に、やれることは数多くあります。
 万が一、それでトップが動いてくれなくても、そこまでの過程での前向きな努力と行動は、間違いなく自身の腕を磨き、胆力を鍛えます。
 ビジネスマンの本来のあり方は、磨いた自分の腕で、企業を通して世の中に貢献することです。
 やれることをやり切れば、結果が見え、否が応でも自分自身の腕は磨かれます。
 さらに言えば、トップに対して、呆れ、怒りがこみ上げるくらいまでに、同じ目線で事業、会社のことを考えることができているならば、間違いなく経営者としての疑似体験をしていることになります。

これはとても共感します。参謀的立場で事業の成長サイクルを考えたり、一番クリティカルな課題のあぶり出しをすることは経営の筋力を鍛えることに直結します。考えるだけではなく、どのようにすればトップが動いてくれるのか、論理的な側面のみならず情緒的な面、もしくは政治的な動きもしながら会社のために全力でトライする、その経験は非常に重要です。

このような動きをできる方は早晩事業トップとして自ら腕を振るうことになると思いますが、その際も実は似たような試行錯誤は続きます。自分が事業トップだとしても、すべてのステークホルダーがサクサク動いてくれるわけではありません。重要なパートナー、投資家、外資系企業の場合は本社CEOなど、さまざまな人たちと論理/情緒両面でコミュニケーションし、自らが持て行きたい方向に持っていく力が必要です。その力を磨くにあたり、参謀的ポジションでトップを動かすというのはとてもいい修行の場になります。

ビジネスの要諦は「どのように人の心を動かすか」に尽きるとぼくは考えています。その対象は、お客さんだったり、上司だったり、チームのメンバーだったり、パートナーさんだったりいろいろですが、「人」であることに変わりはありません。多数の論点を抱えているトップを相手に、あの手この手で動かそうと頑張るのは決して無駄にならないので、現在そのような立場にいる方はぜひ頑張ってみてほしいなと思います。


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