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「コンサルティング経験なんか経営の役に立たない!」のウソとホント

こんにちは!!!
Zenyum Japan CEOの伊藤です。

ぼくのキャリアは、「コンサルティング9年⇒スタートアップ2年⇒外資系企業の日本法人社長」という形です。こちらのプロフィールに詳しく記載しているので、興味がある方はぜひお読みください!

ぼくの社会人生活はコンサルティングファームからスタートしています。引き続きコンサルティング業界は人気のようですが、一方で「コンサルティング経験をいくら積んでも経営者にはなれない」「結局はアドバイザーに過ぎず、事業責任を負う経験は積めない」という声もあります。

元マッキンゼーでパートナーまで務められ、DeNAを起業した南場さんも、著書「不格好経営」の中で、コンサルティングと経営の関係についてポジションを取った発言をされています。

コンサルティングで身につけたスキルや癖は、事業リーダーとしては役に立たないどころか邪魔になることが多い。今でも苦しみながら「unlearning(学習消去)」を続ける毎日だ。

不格好経営(著:南場智子)

実はそもそもの命題自体がかなりざっくりしています。「コンサルティング」「経営」「役に立つ」、どれも人によって定義が違うので、意見がバラバラになって当然かと思います。

とはいえ、「実際はどうなの?」と気になっている若手社会人の方や学生さんも少なくないかと思いますので、あくまでぼくが経験してきたことをお話できればと思います。

個人的な結論を先に言うと、「めちゃくちゃ役に立っていることもあるし、逆に邪魔になってしまっていることもある」です。では、何が「めちゃくちゃ役に立つのか」、何が「邪魔になってしまっているのか」、それぞれお話していきます。

コンサルティング経験が事業経営に活きるポイント

1.「現状把握→課題定義→打ち手実行」の問題解決力

コンサルタントは、プロジェクトベースでお客様の何かしらの問題を解決するために雇われます。

延々と1社に関わらせていただくケースはさほど多くなく、短いと1ヶ月ほど、大体は3-4ヶ月程度で区切られた期間で何かしらのアウトプットを出す必要があります。

そのために常に意識すべきは、「現状把握→課題定義→打ち手実行」の問題解決プロセスです。このように言葉に落とすと誰でもやってそうですが、実はそんなことはありません。「とりあえずこれやってみよう」と、現状把握も課題定義もすることなく、とにかくやれそうなことをやり続ける、というDoの連続になってしまうケースが少なからずあります。

人間はどうしても短期的な成果を求めたがる傾向があるので、「いやいや、まずは現状を把握しよう」とはなかなかなりません。大体の場合、「とにかくまずやってみよう!」となってしまいます。本当に初期の立ち上げフェーズの場合は「とにかくアクションを起こしてみる」が優先されるケースもありますが、それ以外の場合は「まず現状を把握すること」が重要です。それなしに適当にアクションを起こしても、素晴らしい結果を手に入れることはほとんどできません。

コンサルタントとしてある程度の期間働いていると、「現状把握→課題定義→打ち手実行」の問題解決プロセスが身に沁みついてきます。これは事業経営のときに非常に大事な視点です。

みんなが「あれやらなきゃ」「これもすぐやろう」となっている際に、「まずはいったん現状どうなっているのかファクトで把握しよう」と指示を出すことで、最も重要なポイントにリソースを集中させることができます。

マーケティング、セールス、オペレーション等々さまざまな領域がありますが、ともすると「とりあえず認知度を上げるためにCMを打とう」「新たにTikTokで広告を回してみよう」など、打ち手ベースの議論に陥りがちです。全体感を持ったうえで各領域での数値を把握し、「この数値を上げることが、全体の業績アップへの近道だろう」と仮説を立てたうえで、それに対する打ち手を繰り出していく必要があります。

2.未知の領域へのキャッチアップ力

コンサルタントは、通常複数の業界や複数の事業領域に関わります。もちろん中には「この業界だけ」「この事業領域だけ」というケースもありますが、結構レアなケースだと思います。

ぼく自身、今までさまざまな業界のお客様へのコンサルティングサービス提供をしてきました。通信、電機、公共、製薬、医療機器、製造等々いろいろな業界の方々とお仕事をご一緒する機会に恵まれました。もちろんその道でずっとお仕事されている方に知識量や経験で上回ることはできないのですが、プロとしてお金を頂いてサービス提供する以上、短期間でディスカッションできるレベルまで勉強する必要があります。

「やったことないからわからない」はもちろん許されるはずもなく、恥をかくのを恐れずに詳しい方にお話を伺ったり、本を買い込みつつなるべくリアリティをもって読み込んだりしながら、毎回必死にキャッチアップしていました。

今まで関わりがなかった領域や、やったことがない作業に対してしり込みしてしまうのは当然です。ついつい「私はやったことないので」「詳しくないので」と後ろ向きになってしまうこともあるでしょう。しかし、経営も「やったことないこと」が山積みです。そんなときに毎回「やったことないんで」と逃げるわけにはいきません。わからないこと、やったことないことがたくさんあるのは前提として、「じゃあどうするか?」「誰に聞けばわかるか?」「まず何から勉強すればいいか?」と前向きに取り組み、スピーディにキャッチアップできるのは、コンサルタントとして働いた経験のおかげであると思います。

3.突き詰める力

コンサルタントになりたてのころから、「社会経験もたいして積んでいない若造が、なぜ海千山千のお客様から多額のお金を頂いてサービスを提供することができるのだろうか?」と不思議に思っていました。その答えの一つは、前述の「問題解決能力」にあるとは思いますが、加えてこの「突き詰める力」が大きいのではないかな、と思っています。

仕事をしていると、多かれ少なかれ「作業」的な要素が入ってきます。「ビジネスにおいて重要なのは、本当に結果を出すためのポイントに注力することだ!」とよく言われますが、そうはいっても…というのが正直なところです。お客様への対応、社内調整のための資料作成、オペレーションをお願いしているベンダーさんとのすり合わせ、メンバー教育などなど、少し気を抜くと一気に一日が終わってしまいます。

この事業において本当に重要なポイントは何か?それは今どのような状況に陥っているのか?それはなぜか?などなどをファクトベースで突き詰め、Whyの深堀を実施し、そこで出てきた仮説が正しいかどうかを様々なデータベースやアンケート、社内外の有識者とのディスカッションをベースにまとめあげて具体的なアクションに落とし込む…という作業を実施する余裕がある人はほとんどいないのではないでしょうか。

また、時間があったところで、事業におけるポイントの抽出やリサーチ、そこからの仮説構築や立証、具体的なアクションプランの策定や実行サポートなど、問題解決の流れについては専門的な知見やスキルが必要になります。

コンサルティングファームは、ある程度読み書きができる人材をそろえたうえで短期間で促成栽培をし、これらを突き詰められるようにトレーニングをします。その業界の知見や経験という意味では、その道一筋の人たちに勝つことができなくても、頭を振り絞ってプロジェクトの論点設計をし、その論点に従ってファクトを集めるために必死に駆けずり回り、それを短期間で意味のある分析およびアクションプランにまとめ上げる、そういう「突き詰める力」があるのがコンサルタントだと思っています。

この突き詰める力は事業経営にも存分に活かされると感じます。経営をしている中で「なんでこんなにうまくいかないんだ…」と頭を抱えることは少なからずあると思いますが、コンサルティングの中でもその状況にはよく遭遇していました。そんなときに、一度当初の論点設計に立ち戻ったり、落ち着いてその領域の有識者に連絡を取って1時間ディスカッションに付き合ってもらったり、社内のさまざまなデータを拾う&統合&比較して何かしらのヒントが得られないか考えたり…という行動を取ることができます。

もしコンサルティング経験がなかったら、突き詰めて考えたりプランニングをすることなく、「とりあえずアクション」を重ねてしまう、もしくは「まあどうにかなるか」という「時間が解決してくれるだろう主義」に陥ってしまう可能性もあったかなと思います。

もちろん、コンサルティング経験がなくても上記のような状況に陥らず、粛々と結果を出せる方もたくさんいるとも思います。しかし、ぼくはそもそも感性派で適当なタイプの人間なので、コンサルティングファームで「突き詰める力」を鍛えることができたのは本当に良かったなと感謝しています。

コンサルティング経験が妨げになるポイント

一方、コンサルティング経験が事業経営の妨げになるポイントもあります。あくまでぼく個人の経験からの学びではありますが、参考にしていただける部分があればうれしいです。

1.短期決戦グセ

コンサルティングプロジェクトは大体の場合短期決戦です。長くても半年程度で終わるため、その中で必死にアウトプットを出し、お客様に価値を認めていただく必要があります。一生懸命走り切り、プロジェクトが終わったら長めにお休みをいただいてリフレッシュ、そしてまた新たなプロジェクトで頑張る…という短期決戦サイクルが染みついています。

しかし、事業経営はそのような短期サイクルではありません。Zenyum Japanにおいて、最初のフェーズはまず「会社を作ること」でした。法人登記や銀行口座開設、初期の採用やプロダクトのローカライズ、パートナークリニック様の開拓など、まずビジネスを始めるための各種要素を作りあげなければいけません。それで終わりであればいいのですが、さらに次のフェーズとして「ビジネスサイクルを回すこと」、さらに「ビジネスプラン通りのPLを作ること」、「新規事業を立ち上げること」などなどが待っていますし、それらを同時並行的に進める必要もあります。あと半年で終わり!というものではなく、長期的な目線をもってヘルシーに進めていく必要があります。

もちろん全力で取り組む必要はあるのですが、コンサルティングプロジェクトのように短期決戦モードで行ってしまうと、自分だけでなくチームメンバーも疲弊します。無理やり短期決戦で結果を出せたとしても、長期的にビジネスを回していくことはできません。一生懸命やる必要はありますが、根詰めすぎて心身にストレスをかけすぎるとすぐ破綻します。この短期決戦グセは修正したいところです。

2.数字突き詰めグセ

「ファクトベース」という言葉は、コンサルティングに興味をお持ちの方であればご存じかと思います。曖昧な主観や意見ではなく、数字や事実などのファクトを集め、それらをベースに議論を進めていくスタイルのことです。

この姿勢自体は非常に大事ですし、見えていなかった本質的な課題を炙り出すことに非常に有用です。ただ、それをあまりに重視するあまり、会社全体によくない影響を及ぼすこともあります。

会社でのコミュニケーションのほとんどが、売上につながる各種KPIの把握、上下動の理由、それらの改善方法に関するディスカッションばかりになってしまうと、会社全体の空気がギスギスしてきます。数字はもちろん大事なのですが、メンバーは数字のために働いているわけではありません。数字のことばかりになると、どうしても会社の雰囲気が重くなってくるのです。

数字はもちろん重要ですが、それ以上に重要なのは「ぼくたちはなぜこの仕事をしているのか?その先にどのような未来を見ているのか?」というミッション/ビジョンです。コンサルタント時代はこの重要性についてほとんど理解していなかったのですが、経営者になってみてから「あーーーこれ本当に重要だな」と肌で感じるようになりました。

ミッション/ビジョンをしっかりと明文化したことで会社に現れた変化については以下に記載していますので、良ければお読みいただけると嬉しいです。
会社のミッション/ビジョンを言語化して起こった変化について。

3.アドバイスグセ

コンサルタントの仕事は「アドバイス」です。お客様の状況を多種多様な切り口から見える化し、課題を浮き彫りにし、「こうしたらいいですよ」と提言するお仕事です。

これをもって「虚業だ!!」という人も散見されますが、ぼくはそうは思いません。普段の仕事で忙殺されているお客様の代わりに、専門的なスキルを持った人たちが必死に情報収集、見える化、課題定義、アクション提言をしてくれるわけですから、非常に意味も意義もあるお仕事だと思っています。

しかしながら、自分自身が経営者となって事業を推進していかなければならない状況になったとき、この「アドバイザー」というスタンスは大きな妨げになります。「これこれこういうデータから、こんなことが言える。だからこうすべきだ!」と言ったとしても、それによって事業が前に進むことはありません。もちろん周りのメンバーは「そうですね!」「すごいですね!」と言ってくれるかもしれませんが、それでも事業は前に進みません。

状況を整理し、正しそうな提言を生み出すのは重要です。しかし、それ自体は事業推進には寄与しません。とにかく目に見える成果を出し、事業を前に進める力、それが経営者には求められています。そのためには、「正しそうなことを言うアドバイザー」としてのスタンスを捨て切り、まずは自ら動いて結果を出す必要があります。

人は正しそうなことを上から目線で言われても動きません。言われた側は「それが本当に正しいんだったら、まずテメーでやってみろや」となります。もちろんすべての領域を自らハンズオンで実施することは難しいと思いますが、重要な領域ではまず自分自身が実施してみて、「実際に成果が出るんだよ」ということをメンバーに見せてあげることが重要になります。

それで実際に成果が出れば、「たしかにこの方法でやればうまくいきそうだな」という空気が醸成され、チームの士気が上がり、実際にビジネスを前に進めることができます。アドバイザーではなくドライバーとしてスタンスを取り、目に見える結果を出し続けること、それが経営者に求められることであり、アドバイザーとしてのスタンスは早急に捨て去ることが大事だなと感じます。

どっちの意見もわかるけど、個人的にはコンサルティング経験を積めたのはとてもよかった

南場さんは、「不格好経営」でも仰っていた通り、もともとロジカルで問題解決能力が非常に高いタイプの人だったんだろうなと思います。そのようなタイプの方は、コンサルティング経験を積まず、事業経営を進めても問題はなかろうと思います。

ただ、ぼくはもともとロジカルなタイプではなく、どちらかというとエモーショナルな(悪く言えば「なんとなく動いてしまう」)タイプであったため、コンサルティング経験を積めたのは本当にラッキーでした。また、仕事に対する意識も激アマだったため、20代のうちにさまざまな先輩方からプロとしての姿勢や突き詰める力の重要性を肌で感じることができたのもよかったです。

「経営に興味はあるが、ロジカルな問題解決能力やプロフェッショナリズムが足りていない」という、ぼくと似たようなタイプの方は、コンサルティングファームで修行するというのもアリかなと思います。一方、すでにそのような力があり、かつ経営に携われるチャンスがある方は、コンサルティングファームを経由せず、そのチャンスを掴んだほうがいいと思います。

これを読んでくださっているあなたのキャリアが素晴らしいものになることを心から願っています。ぼくで何かお役に立てそうなことがあれば、ぜひLinkedInからご連絡いただければと思います。

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