【試し読み】2018.09.22(土):優しい言葉で鋭いことを
おはようございます。
『浅間国際フォトフェスティバル』と題した投稿でもお伝えしたように、長野県北佐久郡御代田町で開催されている「浅間国際フォトフェスティバル」に、ギリギリ滑り込みで行ってきました。
そのレポートは前掲の投稿で簡単にまとめたので、ここでは違ったことを書こうと思います。
会場最寄りのしなの鉄道御代田駅は小さな駅で、駅員さんは1人いるものの自動改札機はありません。そもそも、電車は平均して1時間に1~2本です。
ご一緒するホヅミレイさんよりもひと足早く駅についたので、駅の待合室で本を読んで待つことにします。まさに「待合室」と呼ぶのにぴったりの、味のあるベンチがいくつか並んだ空間です。
ベンチではなく天井の写真ですが。なんだか惹かれるものを感じたのです。
駅で待たずに付近を散策するという選択肢もあったのかもしれませんが、その時の私はなんだか、駅から出て、振り返って駅舎を目にするのも土地の空気を(駅のガラス越しではなく)肌で感じるのも、ホヅミさんと合流したからにしたい、と思ったのです。「新鮮な感動を共有したかった」ということなのかもしれません。
ここで読んだ本は、先日こちらでもご紹介した黒田龍之助さんの『もっとにぎやかな外国語の世界』(どんな場所でどんな本が読みたくなるか分からないので3冊ほど持ってきてはいたのですが、この日は不思議と3冊とも言語学の本でした)。
見知らぬ土地で読む黒田さんの言葉は、いつものように楽しく、優しいものです。
読んだのは「なづける」という章で、各言語における名づけの特徴を教えてくれるものでした。ご自身の名前のことから始まり、モンゴル、アイヌ、ミャンマーでの風習や、地名の名づけ方の話を経由して、最後は黒田さんのメインフィールドであるロシア語のことに。
「カレーニン(Karenin)さん」というロシア人男性がいるが、これは男性用の名字で、女性用は"a"をつけて「カレーニナ(Karenina)さん」になる、つまり『アンナ・カレーニナ』の「カレーニナ」は「カレーニン」の奥さんなんだ、という話には目から鱗でした。
日本の名字の話のところでは、こんなことを書かれていました。
日本でも、ある地域に典型的な名字というのがある。たとえば「島袋さん」といったら、沖縄出身なのかな、という気がする。だがたったそれだけで、その人が沖縄に詳しく、沖縄に親戚がいて、沖縄のことばが話せて、ゴーヤチャンプルが作れると考えるのは、ちょっとオッチョコチョイな発想ではないか。人は出身だけではなく、いろんな要素で形成されている。偏見は困る。(p.112)
「オッチョコチョイ」というマイルドな言葉をチョイスするのが、きっと黒田さんの優しく思慮深いところでしょう。ここに「乱暴」とか「無神経」といった言葉を使っても文は成り立つのですが、「オッチョコチョイ」と言われると、静かに諭されている気持ちになります。でも、ここで書かれていることはとても鋭いことだと思います。
尖った言葉ではなく優しい言葉を使いながらも、それでも人をはっとさせるような鋭いことを述べる…そんな書き方を見習いたいと思いました。
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