平成の一コマ
20年前、母と電車に乗っていたら、隣りにいた男性が何やらこちらをチラチラ見ながら、手元のスケッチブックに鉛筆を走らせ始めた。
何してるのかなぁ…とやや訝りながら体の向きを変えたところ、その男性は初めに描いていたページを捲り、新しいページにまた何かを描いている。
しばらくすると男性はそのページを切り取り、「はい、どうぞ」と、ニコッと笑いながらそれをこちらに差し出してきた。
見ると、電車のシートに座る母と、その前に立つ私の姿が描かれている。母と私、二人して驚き、「あ、ありがとうございます…!」とお礼を述べた後、顔を見合わせて微笑んだ。
残念ながらそれからその男性と会話が弾み…ということはなく、我々か男性、どちらかがすぐに電車を降りてしまったのだが、不思議な感覚とともにその絵は未だに実家にある。
これもまた、平成の思い出。
男性はまだ、お元気でいらっしゃるだろうか。
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