神田川とお茶の水周辺、そして東京。

NHKの朝ドラは見るつもりがなくても見てしまう時間に流れる。現在放送されている『虎に翼』は女性裁判官の草分け三淵嘉子をモデルにしているため、彼女が通った明治大学があるお茶の水聖橋の映像をCG加工し、当時を再現した画像がよく流れる。
いまでも本郷台地の底から現れた地下鉄丸の内線が、聖橋の下を通ってJRお茶の水駅の下に潜り、神田の地底に入って行く姿(※1)は、『ザ・ガードマン』のオープニングで流れる赤坂見附首都高速の立体交差映像とともに、起伏に富んだ東京を象徴する映像だ。64年東京オリンピックに向け急遽整備された首都高速は、赤坂台地の地下から紀尾井坂でいきなり顔を現し、外堀を渡って三宅坂の下へ潜って行く。タルコフスキーが未来都市の表現としてロケーションした場所でもある。
丸の内線に限らず、お茶の水という場所も馴染み深い。大学が山手沿線だから、神保町へ本を探しに行くのも岩波ホールへ映画を観に行くのもお茶の水駅から歩いた。画材も「いずみや」や「画翠」へ行けば大抵揃った。通う大学にも出店していた「画翠」が経営する喫茶店「LEMON」も、当時デートの待ち合わせスポットとして最適な店だった。大学院のころには本郷にあるデザイン事務所でバイトしていた時期もあり、お茶の水駅で降りて神田川にかかる橋を渡り医科歯科大学と順天堂病院の間の坂を歩いて通った。その坂を上り切った本郷通りとの交差点の角にある蕎麦屋のそばは美味かった。隣の歯科医院で歯の治療もした。まあ神保町も本郷通りも記憶が詰まっているが、次にしよう。

ところで10年以上前、TBSの『JIN 仁』というドラマがヒットした。原作の漫画は読んでいないが、現代の医師がタイムスリップし、幕末の江戸の動乱に巻き込まれるという発想が面白かった。なにしろぼくは、小学生のころ放送されていたアメリカの『タイムトンネル』というテレビシリーズが大好きで、毎週楽しみにしていた子供だったし。
『JIN 仁』を観ていると、現代の医師である主人公がお茶の水駅対岸の神田川沿いにある高層の病院の医師であることがわかる。医科歯科大学か順天堂大学病院、ドラマのなかの描きかたが国立っぽくないから順天堂をモデルにしているのだろう。もしかすると撮影協力もしているかもしれない。
主人公は病院の高層階から非常階段を転げ落ち、タイムスリップする。そしてドラマの中では(あるいはオープニングやエンディングでも)たびたび本郷の高層ビルから眺めたであろう現代の東京と、150年前の江戸の街がオーバーラップする俯瞰映像が流れる。

このCGがいけなかった。フラットなのだ。東京も江戸も、こんなフラットな街のはずはない(これじゃ大阪かロサンゼルスだ)。東京=江戸は、そこここに山や台地と呼ばれる地域があり坂がある、起伏に富んだ街のはずだ。
『JIN 仁』のクライマックスの舞台は、時代の変わり目になる上野の「お山」だった。神田から上野までこんなに近いかという問題は、まあドラマだから不問に伏す。でも脚本もよく出来ていて出演者も頑張っていただけに、興醒めの一件ではある。

(※1)初期につくられた東京の地下鉄は見事に起伏に富んだ街東京を貫通している。江戸から続く街、浅草と銀座の地下をつないで開通した銀座線は、渋谷まで延伸した際、青山を抜けると突如渋谷の上空に姿を表し山手線の上で終点を迎える。丸の内線に至っては茗荷谷で地上に姿を見せ後楽園駅は上空だ。本郷台地に潜り再びお茶の水駅下の神田川で姿を見せたあと。また神田の地下に潜り赤坂で銀座線と接続し、四谷でまた地上に顔を出す(この数行だけでも山とか谷とか地形を表す地名だらけだ)。


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