噴水の文法 川柳八十句

床に手をついてはじまるバラエティ
 
被写体のよく動く夏だと思う
 
足どりの上に足どりここは海
 
死にたくて自販機で水買ったこと
 
ポスターの瞳に画鋲やわらかく
 
その国の喧騒に澄む金魚鉢
 
間に合わない靴を履いているからだ
 
シースルーエレベーターに手を合わす
 
星々にむせる背中をさすられる
 
会話って半透明の帯みたい
 
その駱駝では買えない孤独
 
安心がほどかれてゆく喫煙所
 
坩堝だねここに品川置いとくね
 
雨漏りの先が見たくて止めた息
 
恋をする翡翠(ひすい)と翡翠(かわせみ)の違い
 
でたらめな噴水の文法講座
 
つねるとき顔そのものが光かと
 
フルートの音色に足を引っ掛ける
 
鳩をかきまぜる いっかいやってごらん
 
梅の実のスピン誰もが目をそむけ
 
「木を抱く」と詩にあり僕は信じない
 
幽霊はエンターキーを押したがる
 
広告の華やぎにいて喉の赤
 
公式がずっとみょうがで困ってる
 
いただいた桃が臭ってしかたない
 
指に蜜すくってアイムダイイング
 
アラビックヤマト 信心は霧
 
木魚から銀河へつづく道かしら
 
人生のそとがわに待つおまんじゅう
 
跳び箱を跳ぶ次次に稲光
 
O・ヘンリ短編集に非常口
 
炭酸を飲み干して山火事を知る
 
どうしたらいいの生姜によりかかる
 
そういえば月に入れ知恵したでしょう
 
どら焼きにしっぽが生えて食べづらい
 
雄叫びと二階から降る赤い羽根
 
みなさんは現代詩文庫の匂い
 
待ち人の袖が黄葉してしまう
 
擦れてるエレベーターの開ボタン
 
テーブルは全身で占拠しましょう
 
シャッターを切るたびに崩れるケーキ
 
てのひらは美術館だと思い出す
 
花屋ごと棺桶とする火事かしら
 
青年の窓尖りつつ窓の雪
 
消火器をサランラップに詠んでみた
 
目をそらす星にくびれができるまで
 
あやとりに酒池肉林を見せつける
 
光年を張り紙された居ない犬
 
翡翠か翡翠かまだ軋む椅子
 
スカーフのように巻いても元号か
 
暗算のヘミングウェイに貼るカイロ
 
餅ですか。 いいえ搗くのは聡です。
 
建前で蕎麦湯を飲んでいる時間
 
今回は爆竹ということにする
 
スリッパで行くスリッパを信じ込む
 
パッキンが地面に落ちている 春ね
 
眼科医の判断はいまみずなです
 
誰よりも欠伸している韮自身
 
殺到 恋人達 耳へ
 
手を離すふつうの雲にふつうの木
 
いちめんを「行けたら行く」の花言葉
 
草原へおし倒したら窓だった
 
なにかもうどうでもいいと啜る花
 
木苺を潰す指さき近未来
 
青いそら流れる蜜を引き返す
 
頬ばってハンバーガーの自転ごと
 
不都合な海辺に箱を運ぶ日々
 
境界があやういみんな港町
 
擦り傷がそうでなくなるまで擦る
 
俺である。豆腐の四隅くずしつつ。
 
影に影かさねて浜辺へと向かう
 
邦題のように泳いでしまったの
 
つきまとう瞼のうすさどこまでも
 
会う為の海の鳶の旋回の
 
うぬぼれの水族館に降る指紋
 
今だって授業抜け出さないさかな
 
かなしくて浮かぶくらげの鉛色
 
何度でも模型の夏を間違える
 
隕石の降らない大半の日々よ
 
水槽のエイのやわらかさに握る 
 
 
(令和六年九月九日)

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