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死神の舞う夜

自分を裁くのは自分だ。
他の誰でもない。自分の処分は・・・
自分で決める。


真っ暗だ。
ここは何処なのだろう・・・
何だか心地がいい。
ふんわりと花の様な香り。
胸がキュンとなる。
子供の頃に感じた、
温かさと安心感。
「私は一体・・・」

ボーッと立ちすくんでいた私の視線の先には、ぼんやりと光が見えている。
先程までの心地良さは次第に薄れていった。

光の中からは、大きな人影の様なものが見える。
その影はだんだんとこちらへ向かってくると、ハッキリとその姿をあらわした。

3メートル程はあるだろうか。
ひょろっとした細身の男性。
艶のある高級そうな黒いスーツに、少し大きめで真っ黒なシルクハット。
色白で目が大きめの、整った顔立ち。
そして、やけに眩しく輝く金色の靴。

男性は一礼をし、少しだけ口角をあげ、微笑むような表情で言った。
「こちらへどうぞ」
私は、一体どういう事なのか理解ができないまま、その場を動けないでいた。
すると突然背後から、
「さあ、行きましょうか」と言われ、ビックリして振り返った。
そこには、80代くらいの高齢の
女性。
私が驚いた事に、その女性も驚いていた。
「あ、あの」と私が問いかけると、
おばあさんは、
「あ、驚かせてしまってごめんなさいね。気がついているものだと・・・
さぁ、あの人について行きましょう。」と優しく、落ち着いた声で言った。
おばあさんは、いかにも田舎のおばあさんという雰囲気で、
しかしその装いは、
ちょっと短めで、ヨレヨレの白い着物を着ていた。

ここが何処だか分からないけれど、
とりあえず私は、おばあさんに促されるままに、
金色の靴の男性の後をについて、
目の前にある階段を登り始めた。
足の長い男性は歩くのが早く、
どんどん置いて行かれはしたものの、
あの金色に輝く靴の足跡が、
しっかりと黄金の
道しるべを作ってくれていた。
長い階段を一つ一つ登っていく。
頭の中は空っぽだった。
この現状すら理解できないまま、
ただひたすらに登り続けた。
1時間ほど登っただろうか・・・
時間もよく分からない。
おばあさんは何も話さず、
前だけを向いて登り続けている。

どこまで行くのだろう。
そんなことを思った矢先、
真っ白な霧に包まれ始めた。
すると、
黄金の靴の男性も霧の中に消えていった。

目の前に現れたのは、
とてつもなく大きくて黒く不気味な扉。

「行きましょうか」
おばあさんは、そう言うと先程までは私の横に並んで歩いていたのに
今度は私の前を歩き始めた。


私達が大きな黒い扉に近くと、
その観音開きの扉は、突然こちら側へ開き始めた。
「イタッ!」
近づき過ぎていた私は
扉に少しぶつかり尻もちをついてしまった。
「こっち側に開くなんて・・・」
それを見たおばあさんは、
「あらあら、大丈夫?」と言いながら、手を差し伸べてくれた。
その手に少し捕まりながら立ち上がろうとした時、
おばあさんは、不思議そうな表情を浮かべ、私も大きな違和感を感じた。

中に入って見ると殺風景な部屋の中央に椅子が2つ。
いや、人、女性のようにも見える!?
中腰で椅子のような形を作ってる。
一体何?
人なのか、化け物なのか。
その顔はまるで、恐怖に怯えて、
我を失っているかの様だった。
体は硬直し、生きているとは思えない。
にも関わらず今にも動き出しそうな迫力。

私は、一歩後ろへ下がった。
体の中央から、何かが込み上げてくる。
鼓動は高鳴り全身が震え始めた。

え・・・?

おばあさんは黙ってその椅子に腰をかけた。
するとその椅子の手は、
後ろからおばあさんを抱き込むようにしたかと思うと、メリメリと肋骨を砕く様な音がする。鬼のようなゴツゴツとしたその手は、
おばあさんの体にくい込み始めた。
逃がすまいと、必死に食らいつき、獣のように叫び始めた。
おばあさんは、まるでそれが自然のことの様に受け入れたかと思うと、
次第に先程までとはまるで異なる
鬼の形相へと変貌した。
中腰だった椅子は突然立ち上がり、
鬼へと変わったおばあさんを抱き抱えたまま、スっと姿を消した。

あたりは急に静かになり、
そして、
おばあさんは、椅子になった。

私は体が動かなくなり、
全身の力が入らなくなった。

coming soon
#とさかのらてぴ


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