フレンチ・ディスパッチ

『グランド・ブタペスト・ホテル』を観て一目惚れしたウェス・アンダーソン監督の最新作を東京国際映画祭で観てきた。結論から言わせて貰えば最高だったのだが、どこがどう「最高」だったのかを書き連ねていきたいと思う。ネタバレには配慮するが、ネタバレが作品の楽しみを損なうタイプではないので恐らく大丈夫だろう。

ウェス・アンダーソンらしい世界観

ウェス・アンダーソンの特筆すべき点といえばやはり「絵本のような世界観」だろう。個人的なこだわりとして「仕掛け絵本」というようにしているが、まあどうでも良い人にはどうでもいい。
『グランド・ブタペスト・ホテル』の淡い色彩はその可愛さもさることながら、作品中に散りばめられたシュールな笑いに貢献している。別世界のような可愛らしい空間から漂う空気感とちょっぴりダークなユーモアには笑いを禁じ得ないだろう。
また、ウェスらしいユニークな映像表現も今作では進化している。途中にアニメーションが挟まれるシーンは驚きとそのアニメーションの可愛さに「こういうところが好きなんだよ!」となって笑ってしまった。

ストーリーが面白くなってる

『グランド・ブダペスト・ホテル』がつまらなかったというつもりはない(ちなみにウェス・アンダーソン監督の過去作はまだ「グランド・ブダペスト・ホテル』しか観てないので安易に監督を分析することはしない。)。だが、今作の方が意欲的かつ挑戦的な創作がされていたように思う。雑誌というコンセプトから、作品はいくつかのチャプターに分かれるのだが、多彩な描かれ方をする一本筋ではないいくつかのストーリーという構成が楽しい。おそらく「お気に入りのチャプター」が各々あるのではないかと思う。それほど、それぞれが独立したストーリーラインでありながら、舞台となる町など根底では繋がっている点でゴダールの「男性・女性」を彷彿とさせる。
全編を通してウェスのエスプリを感じさせる映像なのだが、いくつかの短編を観ているような気分になる本作はなかなか新鮮だと思う。

ヌーヴェルヴァーグを思い起こさせる映像

作中、シャラメの演じるゼフィレッリが主導する学生デモをテーマとしたチャプターが存在する。ほぼモノクロで撮られている点や60年代(多分それくらい)のフランスの若者への関心や議論などヌーヴェルヴァーグを思い起こさせるフランス描写が多かった印象を受ける。
言い訳をさせてもらうと、自分自身ヌーヴェルヴァーグに関しては所謂にわかであって、4、5本しか観ていないので「全然そんなことないじゃないか!」と言われたら理解不足を謝るしかない。
そんな僕でも、ジャン=ピエール・ベルモンドやジャン=ピエール・レオのような役柄を今をときめくシャラメが演じている点はかなり興奮した。モノクロでも存在感を失わない圧倒的カリスマ性と画面に映える美しい顔面に見惚れてしまう。場を制するような空気感や被写体を真ん中に据える構図にもスッと馴染む演技は彼がハリウッド・プリンスである所以がその演技力にあることを思い出させてくれる。多くの観客を陶酔させるその美貌だけではない彼の魅力と才能を大いに引き出していると思う。

総評

プロット、ビジュアル共に独特で事新しい映画だが、その奇抜さだけに頼らない、映画としてのクオリティの高さを感じる作品だった。もちろん、合う合わないが他の映画よりも激しい作品だとは思う。だが、リアリティと非現実が交錯するような、過去の映画への多大なリスペクトを含んだ本作は是非多くの方に観てみてほしい。そして前述したように、「お気に入りのチャプター」が存在するなら教えてほしい。

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