見出し画像

アートフェス中止の告知をアートに

  新型コロナウイルスの感染拡大により、あらゆる催しが中止になっています。アートに関するイベントも例外ではありません。苫小牧市で7月25日(土)、26日(日)に開催予定だった「苫小牧アートフェスティバル2020」の中止も決定しました。感染予防のためには致し方ありません。ただ、フェスの運営に関わる私たちNPO法人樽前artyプラスは、実行委員会と話し合い、アートフェスの中止告知を作品化するプロジェクトを企画しました。中止を発表するだけではなくアートとして表現した、その思いを綴ります。

出光カルチャーパーク

                                        出光カルチャーパーク

 苫小牧アートフェスは、苫小牧市中心部の図書館や美術博物館がある「出光カルチャーパーク」が会場で、今年11回目を迎えるはずだったイベントです。エゾリスやアカゲラが姿を見せることもある緑豊かな公園で、文化活動に熱心に取り組む市民が音楽やダンスを披露したり、アーティストがワークショップを開いたりして、家族連れが夏の1日をゆっくりと公園で過ごしながら文化芸術に触れる催しです。

 樽前artyプラスは、苫小牧の西端の樽前地区を拠点に、アートを通して地域や社会との関わりを深めていく活動をしています。苫小牧アートフェスでも毎年、ワークショップを出展してきました。

アートフェス19鉄たたけます

    2019年のアートフェスのワークショップ「鉄たたけます」

 今年も大人から子どもまで楽しめる企画を考えていたのですが、新型コロナの影響で残念なお知らせが届きました。苫小牧市教育委員会が中心となった実行委が、開催を断念したのです。緊急事態宣言が続いていた最中でした。感染につながる「3密」を防ぎながら、多くの人が集うイベントを開催することは容易ではないでしょう。中止はやむをえないとも思います。ただ、少し立ち止まって思考を巡らせてみました。

 「外出を控えなければいけない状況でも、文化的インパクトを作れないだろうか」

 樽前artyプラスのディレクターで彫刻家の藤沢レオは考えました。開催か中止かの2択ではなく、中止するとしても市民の暮らしを彩る文化芸術活動につなげていくことができないだろうか。社会が一つの方向に流れている時、違う視点で問いかけることがアートの大切な役割でもあります。

 考えついたのは、アートフェスの中止を告知する作品を制作し、文化芸術のニュースとして発信することでした。市教委の担当の方にも相談し、美術博物館のエントランスのガラスに作品を展示することになりました。制作を依頼したアーティストは、森迫暁夫さん。シルクスクリーンなどの版画によるイラストレーションで表現するアーティストです。

 6月7日、初夏のすがすがしい青空の下、作品の設営作業が行われました。美術博物館の入り口付近の縦2・4メートル、横1・8メートルの窓ガラス4枚分がキャンバス。アートフェスの中止を告知するポスターも掲示しました。森迫さんは牛乳パックやお菓子の袋などで鳥やクマなどの動物、キノコや花などの植物の型紙を作り、サポートするスタッフと一緒に約30色のスプレーを吹きつけてガラスに描きました。

森迫さん

    型紙にスプレーを吹きかけてガラスに絵を描く森迫さん

 6時間以上掛けて完成した大作。カラフルな森がガラスいっぱいに表現されました。森迫さんは、この作品のタイトルを「だってわるくない」としました。「コロナ禍で(人の活動が抑制され)自然が快復したことを感じます。人類には不幸なことですが、人類以外には幸福なこともあったのかもしれません」と問いかけていました。私たちは自然の摂理の中で生きています。そんなことを改めて感じさせる作品なのです。

だってわるくない

 作品の設営に参加した藤沢も「作る喜び、発表する喜び、アートの存在を確かめられる喜びがありました。私たちも回復させられたのかも」と語っています。

 作品の設置は、苫小牧市のホームページやSNSで発信されました。「中止を発表する作品」というインパクトから、複数の地元の新聞でも大きく取り上げてもらえました。森迫さんの表現の力で、ネガティブなはずのアートフェス中止というニュースが、楽しさに満ちた印象に変わりました。

 美術博物館のガラス面の展示は、7月26日まで。感染予防をしっかりして、密にならないようにしながら鑑賞してください!

画像5

 ところで、森迫さんが型紙に牛乳パックなどを選んだのには理由があります。誰でも手に入れられる材料だからです。そして、動物や植物の型紙の作り方動画を近く樽前artyプラスのホームページで配信します!

https://tarumae.com/

 コロナ禍で考えさせられたことの一つが、「場」を失うことの影響の大きさです。どこかに集うことは難しく、人と人との距離が遠のいてしまう不安を多くの方が感じているでしょう。だからこそ、アートを通して人と人との関係、地域、社会との関わりを考えるきっかけを提供することが大切だと感じました。

 型紙の作り方動画を配信することで、外出を控えなければいけない状況であっても、誰もがアーティストが手掛ける作品を制作し、鑑賞することができます。映像作家の佐竹真紀さんが制作した動画も物作りの楽しさが伝わる内容です。

 誰もがアーティストになれる、このプロジェクトを「落書きアート」と名付けました。企業やお店にも参加を呼び掛けます。苫小牧や苫小牧以外の街を楽しく彩れたらいいなと思っています。

落書きアート見本②

           落書きアートの見本

 暮らしの中で何かと制約が多い状況ですが、アートを通した体験の共有が自分自身、地域、社会を見つめ直すきっかけにもなると信じています。

#アート #落書きアート #苫小牧アートフェスティバル #樽前artyプラス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?