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創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで~第三回「TARRYTOWNを選ぶまで-聞き比べ編-」

こんにちは!TARRYTOWN翻訳・訳詞・演出の中原和樹です。

第二回の創作ノートに引き続き今回も「TARRYTOWNを選ぶまで」と題しておりますが、今回は「聞き比べ編」ということで、上演候補に挙げた作品のサウンドトラックを聞き比べた結果、どうしてTARRYTOWNに決めたのかを書いていきたいと思います。


まずは、簡単にTARRYTOWN以外の候補作品のご紹介からです。

【Lizard Boy】(キャスト3人)
舞台となる街で20年前に起きたドラゴン襲来事件。そこでドラゴンの返り血を浴びたトレバーという人物は、その結果トカゲのような鱗を持つことになり、人生を生きることが困難になりますが、似た境遇の仲間とドラゴンを倒すというあらすじです。

【Everyday Rapture】(キャスト4人)
"mixed jukebox musical"(ミックスド・ジュークボックスミュージカル)と呼ばれており、
数々の賞を獲得しているミュージカル俳優であり、歌手であり、プロデューサーでもあるシェリー・ルネ・スコットの自伝的なミュージカルです。

【Lizzie】(キャスト4人)
実在したリジー・ボーデンというアメリカの女性に関する、ロックオペラミュージカルです。
この人物は1892年に発生した実父と継母の殺害事件の被疑者となったことで知られ、事件とその後の裁判や過熱報道はアメリカの大衆文化や犯罪学に大きな影響を与えました。

【Murder Ballad】(キャスト4人)
物語の終わりまでに、4 人の登場人物のうちの1 人が殺害されることをナレーターが観客に警告するところから始まる、ロックオペラミュージカル。
2016年に実は日本でも上演されています。


【Next Thing You Know】(キャスト4人)
NYで未来を夢見る若者が直面する問題を描いたミュージカルです。笑い、愛し、酒を飲みながら乗り越える 4 人のニューヨーカーが登場し、結婚、仕事、NYでの生活が、それぞれの人生にどういう意味を持つか、ということが描かれます。

【Now. Here. This.】(キャスト4人)
トニー賞にノミネートされた『title of show』のチームが手掛ける、自然史博物館をツアーする、タイプの異なる4人の男女のサイエンス・ヒューマン・コメディ・ミュージカルです。2020年に日本で上演されています。

【The Mad Ones】(キャスト4人)
サマンサ・ブラウンが人生の選択を迫られ、優柔不断で運転席に座っていると、頭の中に声がして、過去の1年間に戻ります。車の事故で亡くなった親友や、彼氏、そして母親との関係の中で、自分の記憶を辿り、進むべき道を探していくミュージカルです。


作品を選ぶに際して公式HPなどを駆使してあらすじを見てみて、サントラを聞き比べる前に除外する作品があれば除外をします。

今回は、以下の作品をまず除外しました。
ただ、作品と出会ったご縁として、楽曲自体はもちろん聞きます。聞き比べるほどにというわけではないですが・・・。

・Everyday Rapture(ジュークボックスミュージカルであるため。僕自身がジュークボックスミュージカルを嫌っているという意味ではなく、あくまで今回の企画でやりたいと思っていたことと違う、という意味です)
・Lizzie(女性キャスト4人の作品なので)
・Murder Ballad(日本ですでにやられている作品であるため)
・Now. Here. This.(同上)

そして、以下の作品が残りました。

・Lizard Boy
・Next Thing You Know
・The Mad Ones
・TARRYTOWN

どの作品もとても魅力的なのです

この作品たちのサントラを聞き比べていきます。

【Lizard Boy】
・ギター、ピアノ、打楽器小物(グロッケンなど)、チェロといったアコースティックが楽器のみが使用されています。
・上記に関わりますが、言葉が明確で、メロディラインや曲調と登場人物の心情が素直にリンクする楽曲が多かったです。
・スローバラードなどもありますが、全体としてテンポ良く進む楽曲が多いです。
・聞いていてその人物の様子が想像しやすく、登場人物の心の中を素直に覗ける感覚になる、エモーショナルな部分が大きく、かつ全体として陽気なエネルギーに満ちたサントラと感じました。

※実はこのミュージカルの公式HPには、珍しいことが書いてありました。そういった創り方のユニークさもこのミュージカルサントラの面白さかもしれません。
「(このミュージカルには)実は楽譜なんて存在しなかったのです!Seattle Rep での最初のプロダクションでは、私は歌詞を書き留め、時には歌詞の上にコードを書き(中略)、私たちはギターを手に取り、ピアノの前に座ってタンバリンを振り、ガレージバンドのようにその場でアレンジしたりオーケストレーションをしたりしました。」

【Next Thing You Know】
・バンドサウンドがメイン、少人数編成の編曲です。
・現代的な、ライトな楽曲が多い印象です。とっつきやすく、軽口なサントラです。
・口語的、会話的な楽曲が多く、日常に根付いた作品という印象を与えます。 おしゃれな楽曲たちですが、その中にちらっと苦悩や葛藤が見え隠れする、という印象です。


【The Mad Ones】
・楽曲の楽器の入り方と歌との共存の仕方がとても好みでした。編曲による音楽のエネルギーや描写力が大きいような印象です。
・ユーモアがある楽曲が多く、ミュージカルとしての楽曲内の幅が広く、展開が大きい(音域や編曲やテンポの変化、同じ楽曲内での曲調の変化など)
・車、運転と人生が進むことがモチーフである(と思います)ので、それこそ、ドライブでかけたいようなサントラです。


どのサントラも現代的な楽曲たちで、それぞれ個性があり魅力的でした。ただ、私としてはこの中でやはり、TARRYTOWNが一番心に残ったのです。

TARRYTOWNの楽曲を聞いた際の印象は、

・ミステリアス
・楽曲のジャンル、雰囲気の幅がかなり広い
・三人の登場人物の掛け合いが、他にあまり聞いたことがないくらい絡み合いつつ、ポップで面白い
・ライトなナンバーがありつつ、重厚な、歌い手の力量を全面に示せるナンバーがある・全体として楽曲の持つ描写力、想像を喚起する力が大きい

ということでした。

私個人の好みとして、ミュージカルの音楽が物語を運ぶ力と、そして情景をもたらしてくれる力が大きい作品が好きということ、そしてミュージカルのみならず、作品そしてミステリアスな要素や、不条理的な要素、神話的・民族的な要素がある作品が好きということもあり、TARRYTOWNはばっちりそこにはまったのです。

そして何より、日本に紹介するという意味において、終わり方が単なるハッピーエンドではない、かつバッドエンドとも断言出来ない作品であること、民話・伝承が独特の形でモチーフになっていること作品であることなど、今まで日本であまり見たことが無い作品である、ということが一番大きい要素でした。これを日本で初演する意味・意義が必ずある、素敵なユニークな作品であると感じたのです。

こうして、作品探しの旅は一段落し、私の中で「TARRYTOWN」を上演したい!という想いが定まりました。


そして、ここからさらに長い旅路が待っているのです。

次は、海外のミュージカル作品を上演するにあたり(もちろん、日本のミュージカルを上演するでも、演劇作品でも同じですが)必要な、
ライセンス(上演権)の獲得にまつわるエピソードを書いていきたいと思います。

ご覧いただきありがとうございました。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

中原和樹

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