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産まれた時から~乳児の発達における腸内細菌叢の重要性~~腸活ラボマガジンVol.2~

こんにちは、やまだです。普段は、Xにて、最新の研究に基づく、腸活や美容などについて発信しています。今回は、主にヒトが産まれた時から大人になるまでにおける腸内細菌叢の重要性についてお話ししたいと思います。
これは、主に子育てをする方に知っていただきたいなと思っております。理由としては、子供の発達とともに腸内細菌叢も発達し、その発達は免疫や神経系の発達とも密接に関与しており、そこが正しく発達しないと、将来、アレルギーや自己免疫疾患など多くの疾患のリスクが高くなると考えられるからです。では、早速本題に入っていきましょう。


お母さんからの最初のプレゼント

 以前に執筆した「小さな住人」で、ジャイアントパンダは、笹を食べるものの、パンダのゲノムには、笹の葉を分解してそこからエネルギーを取り出す酵素が含まれておらず、その役割を微生物が果たすと書きました。
 オーストラリアに住むコアラも同じです。コアラは、ユーカリの葉を食べますが、ユーカリの葉にも栄養はあまりないどころか、毒素まで含んでいます。ここでユーカリの葉からエネルギーを取り出すのも微生物です。
 が、ここで気づくのが、コアラの赤ちゃんの腸には最初にこうした微生物がいないということです。それはどこから来るのか。答えは、お母さんにあります。赤ちゃんがお母さんの袋からでて乳離れする前の数週間の間、お母さんは、ユーカリの葉を咀嚼したものと微生物がまざった「パップ」というものを出します。それを赤ちゃんが食べることで、赤ちゃんの腸内にユーカリの葉を分解する腸内微生物が生着するのです。

 また、コアラ以外にも他の動物でも同様のことは行われています。例えば、カメムシでは、産卵直後の卵に微生物が入った糞を塗りつけます。卵から孵ったカメムシは、母の糞を食べます。
 このように子供が生きていくのに必要な微生物を母が受け渡すことは多くの種で共通しているのです。では、ヒトではどうでしょうか?
 ヒトの赤ちゃんは、羊水の中では無菌状態ですが、生まれると同時に微生物に覆われます。具体的には、産道を通る時に膣の微生物に覆われます。また、産道から顔を出すときに、コアラと同じような微生物にも覆われます。つまり、母親の腸内微生物を受け取るのです。どういうことかというと、子宮収縮ホルモンと産道を通る赤ちゃんの圧力でほとんどの母親は陣痛や出産時に排便します。赤ちゃんが顔を母親のお尻側に向けて頭から出てきます。母親が陣痛の間に体を休めている時にベストなポジションというわけです。つまり、母親から赤ちゃんへの最初のプレゼントは、膣と腸内の微生物というわけです。
 生まれたばかりの赤ちゃんの腸内細菌叢は、母親の膣内細菌叢によく似ています。具体的には、ラクトバチルス属とプレボテラ属の細菌が多いです。ラクトバチルスは、乳酸菌の一部で、ヨーグルトの酸味にもなっている乳酸を作り出します。これは他の病原菌が増殖しにくい環境を作り出します。さらにラクトバチルスは、バクテリオシンという抗生物質も作り出し、これも病原菌の増殖を防ぎ、結果として赤ちゃんの腸を守るわけです。
 では、赤ちゃんの腸内細菌叢が初期になぜ膣内細菌叢に似ているのでしょうか?似ているべきは、お母さんの腸内細菌叢ではないかと思う方もおられるかもしれません。
 赤ちゃんは、母乳を飲んで、ラクトースをグルコースとガラクトースに分解し、それを小腸から吸収してエネルギーとします。小腸で吸収しきれなかったラクトースは、大腸に到達し、そこで乳酸菌がエネルギーを取り出し、乳酸を作り出します。つまり、乳酸菌は、膣を守る働きもありますが、赤ちゃんが産道で取り入れ、腸内でコロニーを作るために存在しているわけでもあります。
 また、膣内細菌叢も妊娠すると変化します。普段は、腸内にいる細菌もその組成に加わります。
 例えば、普段は、小腸で胆汁を分解する酵素を産生しているラクトバチルスの一種は、非常に攻撃的でバクテリオシンを大量に作ります。それが非常に妊婦の膣内細菌叢に増えることがわかっています。
 また、皮膚などの細菌も同様に母親から受け継がれます。そして、赤ちゃんは、受け継いだ細菌叢を起点に微生物とともに免疫系や神経系を発達させていきます1,2。

帝王切開について

 経膣出産の話をすると、問題になるのが帝王切開についてかと思います。日本では、2020年では、帝王切開の割合は、21.6%と約5人に1人が帝王切開で生まれていることになります。
 また、アメリカでは、全体の32%つまり、3人に1人が帝王切開です。ヨーロッパは、28%(2018年)。ラテンアメリカとカリブ諸国では、4割以上が帝王切開となっており、中には経膣出産よりも帝王切開の方が多い国もあります。
 元々帝王切開は、母親が死にかけている時に子供だけでも助けるための措置でしたが、麻酔と外科手術の発展で母親も救える手法となり、難産などの際にも用いられるようになりました。1940年代以降抗生物質が広まると、母親の感染症リスクが下がるのでさらに広まりました。
 また、現在でも陣痛時間が長くなったり、赤ちゃんの頭が大きい、逆さまに降りてきたりして分娩が困難になると、帝王切開に切り替える場合が多いです。ですが、帝王切開にも当然リスクもあります。感染症や出血多量、血栓症など、開腹手術に関するリスクが発生します。
 WHOでは、母子のリスクを下げつつ不必要な手術を減らすためにも、全出産のうち帝王切開を10~15%にすることを指針として掲げていますが、ここの数値の判断基準は難しいと思います。また、帝王切開による子供への長期的な影響は依然評価されていないように思います。具体的には、どのようなリスクがあるでしょうか?
 1つ目は、感染症へのかかりやすさがあります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に感染した新生児の8割は帝王切開で生まれています。また、呼吸器感染症へのかかりやすさも増加します3。
 2つ目は、アレルギーになりやすいことです。母親が何らかのアレルギーがある子供が帝王切開で生まれた場合、そうじゃない子供よりも7倍アレルギーになりやすいです。
 そのほかにも1型糖尿病や肥満、自閉症などもなりやすいという報告があります。これらはどれも21世紀に入ってから急増している疾患ばかりです。
 このような違いが生まれる理由が何か、これまでの記事を読んでいただいていた方ならわかると思います。そうです。受け取る微生物叢の違いですね。経膣分娩であれば、赤ちゃんの腸内微生物叢は、母の膣内微生物叢と同じになります。しかし、帝王切開で赤ちゃんが最初にもらう微生物叢は、母親や父親、医療スタッフの手の微生物叢です。ミルクに含まれるラクトースを分解するラクトバチルス属やプレボテラ属の代わりに皮膚にいるコリネバクテリウム属やプロピオバクテリウム属がいるわけです。この微生物叢の違いによる影響は、徐々に明らかになってきています。
 ですが、帝王切開で生まれた赤ちゃんに膣内細菌叢を塗るという手法で膣内細菌叢を回復させるという研究も進んでいます。具体的には、分娩の一時間前に無菌ガーゼを膣内に入れ、誕生後2分以内に口、顔、体の順でその膣内微生物が含まれたガーゼをこすりつけるというやり方です。これによって、生後30日間の間に観測された範囲では、部分的に膣内細菌叢を回復できることがアメリカの研究グループによって明らかになりました4。似たような研究は、中国の研究からも明らかになっています5。
 しかし、帝王切開で生まれた場合も、人間の体はうまくできていて、膣内微生物叢の割合は減るものの、母乳中の微生物叢の定着が増えるなど、必要な微生物叢を受け渡す経路が補いあうことも報告されています6。

母乳に含まれる成分

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