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膣内フローラとは何か?~腸活ラボマガジンVol.23~

はじめに

こんにちは、やまだです。これまで基本的には腸内細菌叢と皮膚細菌叢について解説してきました。今回は、女性の膣に住んでいる細菌たちについて着目してみたいと思います。

人間の膣内には、特定の微生物が住んでいて、これらの微生物のバランスは女性の健康に大きく関わっています。特に、生殖年齢の女性の膣内には、乳酸菌という種類の微生物が多く存在し、これが女性の健康を守る役割を果たしています。乳酸菌は乳酸を作り出し、それによって膣内の酸度が上がり、病原菌の増殖を抑える働きがあります(ref1)。
しかし、全ての女性に乳酸菌が多いわけではありません。北米の場合、女性の約25%は、膣内に乳酸菌が少なく、その代わりに他の微生物が多く存在しています。これらの女性は、細菌性膣症(BV)という病気になることがよくあります。しかし、BVは必ずしも症状を出すわけではなく、普通の健康診断では問題ないとされることが多いです。一方で、乳酸菌が少ない膣内の状態は、性感染症のリスクを高めたり、早産を引き起こしたりする可能性があります。
今回、これまでにわかっている膣内の微生物の知識をまとめ、これらの微生物が女性の健康にどのように影響を与えているのかについて紹介します。
このレビューでは、主に生殖年齢の女性に焦点を当てていますが、思春期前の少女や閉経後の女性の膣内の微生物についても簡単に触れています。また、トランスジェンダーの女性の膣内の微生物については、まだ十分にはわかっていません。これらの微生物のバランスと健康との関係をより深く理解するためには、これからさらに詳しい研究が必要です。
それでは、早速見ていきましょう!

膣の微生物群落の構成

生物学やDNAの研究が進歩したことで、女性の体内に住んでいる微生物の多様性を理解することができるようになりました。これらの微生物は、特定のパターン(これを「コミュニティステートタイプ」や「CST」と言います)に従って集まっています。これらのパターンは5つあり、そのうちの4つは特定の乳酸菌によって主導されています(ref2)。5つ目のパターンは、さまざまな種類の微生物が均等に分布しています。

図1 膣内フローラのタイプ https://www.regener.co.jp/post/cst%E5%88%86%E9%A1%9E%E3%81%A8%E8%85%9F%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%EF%BC%9A%E8%87%AA%E8%BA%AB%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%85%8B%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%8A%E6%94%B9%E5%96%84%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%AA%E3%81%92%E3%82%88%E3%81%86

これらの微生物のパターンは、女性の年齢や地域、生活環境などによって変化します。例えば、月経が始まったり、避妊せずに性交渉を行ったりした後には微生物の構成が変わることがあります。また、体の中の微生物のバランスは、体の機能や他の微生物との関係、さらには外部環境の影響も受けます。
個々の女性の体内の微生物のパターンは、数ヶ月間安定していることが分かっています(ref3)。しかし、この安定性が微生物の性質によるものなのか、体の機能によるものなのか、またはその両方によるものなのかはまだよくわかっていません。これらの微生物のパターンが時間とともにどのように変化するかを理解することは、私たちの健康を管理する上で重要です。

膣の微生物環境

女性の体内にある膣は、さまざまな層からなる壁で覆われています。この壁は、体を外部から守る役割を果たしています。さらに、体の免疫システムもこの壁に関与しています。例えば、体が炎症を起こすと、この壁には免疫システムの一部であるT細胞や抗原提示細胞が増えます。マクロファージという細胞は、子宮内膜細胞を食べて恒常性を保っています。

図2 膣内の免疫細胞 https://www.mre-lab.com/health-related/archives/5

膣の壁は、女性のホルモンの変動によって、その状態が変化します。例えば、排卵時には膣の壁にある免疫物質が増え、月経時には減少します。また、膣の壁は子宮から分泌される粘液によって覆われています。この粘液は、水や脂質、タンパク質などから成り立っており、膣の壁を保護する役割を果たしています。
この粘液の中に含まれる成分の一つに、ムチンという物質があります。ムチンは、膣の壁を保護するだけでなく、膣内の微生物の栄養源としても機能していると考えられています(ref4)。ムチンの量は、女性のホルモンの変動によって変化します。
また、膣の壁が作る糖分も、膣内の微生物の栄養源となります。これらの糖分の量も、女性のホルモンの変動によって変化します。
閉経によって女性のホルモンが変化すると、膣の状態も変わります。例えば、膣の壁の細胞の種類が変わったり、粘液の生成量が減ったりします。さらに、膣の中のpH(酸性度)が上がることが、閉経の一つの目安とされています。
これらの変化は、膣内の微生物の環境を変え、それが健康に影響を与えることがあります。例えば、閉経による膣内の微生物の変化が、閉経後の健康問題の一因となることがあります。そのため、ホルモン補充療法などを行う際には、これらの影響も考慮する必要があります。

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