かっぱ橋道具街婆
中華鍋を買いに行った。
最近は専ら自炊しているのだが、本格的な調理器具で中華料理を作りたくなったのだ。
かの有名なかっぱ橋道具街までは、家から歩いていけない。
自転車は持っていない。
タクシーに乗るのはお金がもったいない。
自宅付近からかっぱ橋に向かうバスはない。
車は持っていない。
電車があって本当に助かった。
かっぱ橋にある店はどこを見ても面白い。
プロの料理人が使う道具がずらりと並び、全て家に揃えたくなってくる。
ふと近くの男に目をやると、ラーメンの湯切りをじっと見つめて「婚約指輪って茹でても大丈夫かな…」と呟いていた。
お目当ての店に着いた。
普通、中華鍋には錆を防止するためのニスが塗られている。そのため、30-40分ほどの空焼きが必要であり、非常に面倒くさい。
だが、このお店ではニスが塗られていない中華鍋が販売されているのだ。
「いらっしゃい、あし…」
ニスを顔に塗りたくったお婆さんに出迎えられた。
少し呆気にとられたが、動揺を悟られないようにすかさず「中華鍋を探しにきたんですが…」と尋ねた。
「足腰は錆びても、私のトークは錆びないよ」
決め台詞の途中で遮ってしまったらしく、申し訳なかった。
気まずくなって帰った。
結局ネットでニスが塗られた中華鍋を買った。
空焼きをしていたら、中華鍋が急にバチンと大きな音を出した。
西の空に星婆※が浮かんでいた。
※「すたーばばあー」と読みます。小林星蘭と谷花音のユニット「すたーふらわー」と同じイントネーションです。
※私は小林星蘭に手を振ってもらったことがあります。
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