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知の巨人たちの言葉から学ぶべきこと

知の逆転』(NHK出版新書)は現代最高の知の巨人6名のインタビュー集である。読みやすくて非常にお手軽な本だが、内容は”すごい人達の功績を3時間で学びましょう”的な安易さは全くなく、巨人達が質問にひとつひとつ丁寧に答えていく濃密なものになっている。

彼らの言葉から学ぶべきは、個々の賢者たちの功績である学説や発見などではない(もちろんそれも素晴らしい)。本当に重要なのは、彼らが事実や真理とどのように向き合い挑戦してきたかという姿勢であり、その視座の高さ・視野の広さ、そしてその見通しの深さである。

チョムスキーの引用として紹介される、バートランド・ラッセルの言葉が象徴している。

偏ったイデオロギーをくり返すかわりに、それを解体して真実を探し、真実を語りなさい

巨人たちの言葉はどれも厳しい。権力に、知識人に、そして自分に厳しい。

福音書の中で、何度か偽善者というものを「他の人に当てる物差しを自分にも当てることを拒否する者」と定義しています。(ノーム・チョムスキー)
問題は民主主義の限界ということです。人類にとって、核の脅威や環境崩壊よりも大きな問題かもしれません。(ノーム・チョムスキー)

DNAの二重らせん構造の発見者は、Eメールを使わない理由をこのように説明する。

押し寄せてくるさまざまなチャレンジにただ対応することに時間を費やすのではなく、自分自身のチャレンジに対応することで1日を送りたい。(ジェームズ・ワトソン)

他にもいろいろ拾いたい言葉がたくさんあったが、至言の連続で抜粋しきれない。本書自体は読みやすいインタビュー形式なのでさらさらと読めてしまうが、人類全体を一歩前進させるほどのチャレンジをしてきた人の言葉は重い。

6人の賢者たちの話で興味深いのは、教育に対する彼らの見解だ。

チョムスキーは、

理想とする教育とは、子供たちが持っている創造性(creativity)と創作力(inventiveness)をのばし、自由社会で機能する市民となって、仕事や人生においても創造的で創作的であり、独立した存在になるように手助けすることです。

と語っているが、本書に登場する6人の誰もこれに反対しないだろう。

教育は消極的であってはならない。もっと積極的に好奇心や想像力、心の自立ということを刺激するべきだと思います。

とオリバー・サックスも語っている。

科学と社会と、そして自分自身に向き合う姿勢を正すきっかけとなる良書


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