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第63回人間ドック学会(2022@幕張)での議論

質問に対してご返信しました。議論システムに文字数制限があるので、ここに回答を記します。

質問内容
恥ずかしながら、初めてDWIBSによる乳がん検診を知りました。これは拡散強調度の調整により癌の拾い上げを能力を高くした、とのご講演でした。がん発見のためには、DWIBS単独のみで乳腺USの併用は不要とお考えでしょうか。またDWIBSは年々ごとの実施が良いとお考えですか。線維腺腫などはどのように描出されるのでしょうか

ご質問をいただきありがとうございます。高原太郎(演者)です。興味を持って頂ける人が増えることは喜びです。普及のためにはいままでのパラダイム(これが正しい、という考え)を修正する必要もあり、がんばりたいと思っています。
以下は、現時点でのご回答です。将来展望を含めていますので(つまり、過去のエビデンスだけで考えていては改善ができないので)、そのような観点であることを前提に受け取っていただければと思います。

(前提)マンモと共存

なお、繰り返しで恐縮ですが、マンモ検診はとても高い意義があります。なんといっても国が無料でおこなってくれているし、受診した際に、パンフレットなどをもらって乳房への意識を高める(breast awareness)に貢献しているからです。無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)は、「マンモを避けてきた」半数強の女性を救えるという観点で、マンモと共存することを目指しています。

また、造影剤メーカーも「造影剤を使わなくなってしまうのでは」心配しているようですが、これはまったくの杞憂です。この検診はたくさんの乳がんを正しく見つけるので、発見された患者さんに対し、適正に術前検査としての造影MRIに導くことができます(つまり、むしろ検査数は増えます)。この2点を誤解している方が多いので、予めお断りします。

(お知らせ)第32回日本乳癌検診学会(ランチョン)


2022/11/11(金)第一会場(12:00〜)にて、ランチョンセミナーで、今後のコンセプトなども併せ発表します。場所は浜松アクトシティ(新幹線浜松駅から雨に濡れず4分)です。ご来場をお待ちしております。

Q1) DWIBS単独のみでよいか(US併用はしなくてよいか) 

まだ大規模臨床試験の結果は得られていません。以下は個人の感想です。
造影MRIで乳がん検診を行った結果(Dr.Kuhl)では、造影MRIにUSを加えることは不要でした。造影MRIにマンモを加えると、ごく僅かに石灰化のみで描出されるものが増えましたが、low grade DCISでした(つまり過剰診断の原因となり得るものでした)。このことから、造影MRI単独での検診で良いとKuhlらは帰結しています。

非造影MRI(DWIBS法など)では、現時点で、造影MRIに匹敵するほどの成績が得られています。このため、(「US併用は不要」とまでは現時点で言えませんが)USでスクリーニングすることは、その労力を考えるとかなり非効率だと思います(個人の感想です)。

ただし、一口にDWIBS法といっても、精度管理と読影方法に精通しなくてはなりません。DWIBS法のパラメータをコピペして運用しても、たくさん漏れが出ることは必至です。そこがとても重要で、似て非なるものを作りたくないので、

今のところは自分で提携病院にはお伺いをして精度管理を実践しています。これはお題目ではなく、実際に言葉通りです。開始後も画像にはすべて目を通し、画質が悪くなったらフィードバックをしています。これにはMRIそのものに対する深い知識と熱意が必要です(なので後継者を育てています)。

御存知の通りJ-STARTでは、MG+US(単独評価)では5/1000の癌発見率でしたが、現在の無痛MRI乳がん検診*では20/1000です。精度は間違いなく高いだろうと思います。無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)は、いま累計15,000名が受診しましたが、そのなかで要精査となり、second look USで所見が何も無いので否定されたけれど、あとでがんだったとわかることも時々見られます。あるいは、造影MRIを追加施行したところ、指摘箇所に所見があるということも見られます。

この事実は、second look USで「所見がない」結果が得られても、がんを否定できない(かもしれない)ことを示唆しています。従来の考えでは、このようなものは造影MRIを行ってMRIガイド下生検をする根拠にもなっていると思います(このパラダイムもだんだんと変わると思います=無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)による成績が極めて高いので)。

Q2) 1年毎の実施でよいか


適切な検診間隔は、むしろ乳癌の自然史により支配されているものだと思います。

(精度が最も高いとされている)造影MRIによる検討では、「半年ごとでないと、中間期癌* を完全に防ぐことができない」ということになります。つまりどんなに精度が良い方法でスクリーニングしても、半年で急速に増大するものが含まれるということですね。

マンモでもUSでも「1年ごと」というのは、ある程度こういったことに目をつぶっているわけです。

造影MRIを半年ごとに行うのは、すくなくともaverage riskの女性には非現実的ですし、害もありますから、将来に渡って実現することはない、と断言できます。

無痛MRI乳がん検診は、任意型検診ですから2万円かかりますが、無害なので、半年ごとに受けてもまったく大丈夫です。つまり、「HBOCの方」や、「家族性乳癌の方でリスクが高いと思う方」は、半年ごとを選択しようと思えばできるようになった、という意義があります。

繰り返しますが、精度の高い方法でも、完全に中間期癌をゼロにするには、半年間隔であることが必要ということがわかっているので、これ以上長く間隔を取ると、それがどんな方法であれ、中間期癌を生みます。

1年毎にしたときには、それなりに中間期癌は発生するのですが、そのときには精度がものを言います。精度の低い方法では、そこで偽陰性が発生し、患者にしてみたら「見逃し」と誤解するリスクが(病院にとっては)あるということです。

*中間期癌:検診と検診の間に、受診者が自分で気づいて病院に行き、乳癌と診断される場合の癌。いわば「検診の敗北」とされるケースを刺す。受診者には(検診で)「異常なし」という、間違った情報を与えてしまう懸念もあるので、これをゼロにすべく努力が続けられている。

Q3)線維腺腫はどのように写るのか


DWIBSではなるべく「光らないように」調整しています。しかし他の画像で判断がつきます。

検診では、あまり余計なものが写らないほうが診断が早くなり効率があがります。このような設計思想はきわめて重要で、臨床(保険診療)における「なるべく何でも映し出して鑑別する」というスキームとはまったく異なる考え方が重要です。

こういったことを深く考え抜いて初めて検診の設計ができることになりました。


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