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喧騒の中の静寂。空白の時間でボクがしたこと


深夜のコンビニ。店内にはボクひとりだけ。店内から外を見ても人も車もいない。そんな空白の瞬間がある。店内BGMだけが静かに流れている。

世界中の人間がボクひとりを残して消えてしまっていたらどうしよう。

そんな思いにふけっている時、ピーピーピーとかすかに音が聞こえた。どこから鳴っているんだ?音をたてないようにして耳をすませてみる。


鼻?鼻だ。


ボクの鼻から聞こえてくるその音は、ピーピーと息を吸うたびに鳴っている。吐くときには鳴らないのが不思議だ。幸いにも今この世界にはボクはひとり。その間だけはピーピーピー♪と楽しめる。


メロディーを奏でるにはコツがいる。音を鳴らすには息をずっと吸い込み続けることになるからだ。吸う時も吐く時も同じように音がしてくれれば良いのに。そんな、うまい話は無いのだ。そしてスグに誰にでも演奏できるものになど価値はないのだ。


テクニックも上ってきたころ店のドアが開く気配。お客様が来店。ボクは演奏を中断してアーティストから店長の顔へとスウィッチ。カウンターに出された商品をスキャンして袋詰めをしていく。ありがとうございました。お客様を送り出し演奏を再開。


あれ?音が鳴らない。鼻息だけがスースースースー虚しく鳴っている。どうやっても音が鳴らない。しばらく試行錯誤してみたが、スースーやり過ぎて頭がくらくらする。ボクは通常の業務に戻った。世界はもうボクひとりじゃなかった。


恋の始まるチャンスも、ちょっとしたきっかけで失ってしまうことがある。それでも出会いがあれば別れがあり、別れがあるから出会いがあるのだ。




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