平成26年度司法試験憲法

二回試験も終わったのに,ロースクールの後輩のサポートをしている関係で,久々に憲法を復習していました苦笑せっかく復習したので,ここに書きとどめておこうと思います。個人的にはここ10年で相当高レベルな問題なのが,平成26年の憲法だと思います(まぁ,まだあのお方が指揮していた年の問題なのでね…)。注意してほしいのは,この年度の出題趣旨や採点実感を読む際には,A教授の影響が色濃いという点を念頭に読むことです(検証していないので,あくまでも噂レベルですが)。採点方式については,平成28年以降の出題趣旨と採点実感を参考にしましょう。たとえば,「違憲審査基準」や「あてはめ」という用語について厳格に注意されていましたが,近年では出題趣旨・採点実感にも違憲審査基準や中間審査基準などの用語が用いられるようになり,変化を感じます。

第一問

1 導入部分

一般的には,原告・被告型の設問の場合,原告主張部分の冒頭に「…と主張すべきである」などの導入を書くことが多いです。冒頭2,3行で,「誰の,憲法何条に基づく,何の権利が,何によって制約されて違憲なのか」について明示します。
 本件では,「許可基準を定めた本件条例4条1号ないし3号が,自然保護地域においてタクシーを運行しようとするタクシー事業者の事業継続の自由(憲法22条1項)を侵害し,違憲無効であると主張する。」などと記載します。自由の構成は,狭義の職業選択の自由でもいいですが,具体的に書いておいた方が個人的には後の分析がしやすくなるのではないかと思います。が,おそらく一般的ではないと思います。

2保障範囲

    保護範囲では,本件で問題となっている権利が憲法で保障されていることを論述します。「表現の自由」など憲法上の権利そのものが問題となっていれば簡潔な論証になりますが,「メモを取る自由」や「報道の自由」など憲法上の権利として保障されているのか明瞭でない場合には厚い論述が必要になることもたびたびあります。
 本件では,原告側としては,なるべく重要な権利で構成して,審査基準を厳格にもっていきたいところです。なので,職業活動(遂行)の自由,営業の自由ではなく,より重要な狭義の職業選択の自由を主張したほうがいいでしょう。
 「憲法22条1項は,職業選択の自由を保障する。「職業選択」とは,職業の開始,継続,廃止を意味する。したがって,事業継続の自由は、22条1項で保障される。」
 よくあるミスとしては,薬事違法違憲判決が参考になると気づいたので,とりあえず,憲法22条1項は職業活動の自由も保障していることをまで論証してしまうものです。あくまで原告としては,狭義の職業選択の自由によって保障されることを論証すればいいので,職業活動の自由について言及する必然性はないでしょう。

3制約

    法令違憲の場合,どの法令によって,権利が制約されているのかを明示することになる。本件では,条例4条各号によって,制約されていることを論証します。
 ここで,職業活動の自由について言及するのも一つの手です。すなわち,被告の反論として,職業活動の自由であって,狭義の職業選択の自由ではないという反論が考えられるが,あまり大きな争点にならない,他に書くことがたくさんあるなどの理由から,原告でまとめて書いてしまう方法です。その場合には,「本件では,自然保護地域におけるタクシー運行のみが制約されているため,職業の内容,態様が制約されているに過ぎず,職業活動の自由の問題とも思える。しかし,自然保護地域は,毎年500万人を超える観光客が訪れるA県で最大の観光都市であり,A県内のタクシー事業者にとって大きな収入源になっている。また,タクシーの利用客自体が大幅に減少している。そのため,自然保護地域でのタクシー運行ができないことは,タクシー事業者にとっては事業の継続ができなくなる高い蓋然性がある。したがって,条例4条各号による制約は,実質的には,狭義の職業選択の自由に対する制約といえる。」というように,想定反論も踏まえた論述をすることになります。
 

4審査基準定立のための理由づけ

 基本的には,①権利の重要性,②規制態様,③立法裁量の視点で検討することになります。
 この視点のなかでどのような論述をすればいいかについては,2つの思考方法があります。一つは,判例を参考にする方法です。本件は,特にこちらの思考方法が用いられる問題でした。薬事法違憲判決を参考に,①権利の重要性については,職業に関する判示があるので,それを参照し,②規制態様については,職業選択の自由に対する強力な制限であるとの部分を参照し,加えて(③と分類するかはともかく)消極目的と認定した部分を参照することが考えられます。もう一つの思考方法は,学説を参考にする方法です。規制態様に関する客観的条件/主観的条件の整理を用いることが考えられます。また,目的二分論に関する学説を用いて論証することも可能です。
 職業選択の自由は人格的価値とも不可分な重要な権利+強力な規制+消極目的→LRAの基準,厳格な合理性の基準というのが一般的な流れでしょう。

5審査基準の定立

 基本的には,①厳格な基準,②厳格な合理性の基準,③合理性の基準を用いて,分析した結果に従って基準を選択すれば足りると思います。しかし,本問のように参照されるべき判例が明確な問題の場合,できれば判例に沿った表現を用いることができると好印象なのかなとは思います。
 本問の場合,薬事法違憲判決を参考に,LRAの基準(目的が重要かつ手段がより制限的でない他の選びうる手段がない場合に合憲)を用いた方がベターでしょう。ただし,厳格な合理性の基準の基準を用いてもそれほどの減点になるとは考えにくいです。
 LRAの基準と厳格な合理性の基準の差異については,同一のものであるという考え方や異なるという考え方があるようなので,どちらの立場に立つのかは自分なりに考えてみましょう。

6目的審査

 目的(規制により得ようとしている利益)が2~4で検討した侵害される憲法上の権利の大きさよりも大きいかどうかを検討するのが目的手段審査です。目的審査では,目的がどれくらいの大きさなのかを検討します。規制目的は,第一次的には,当該条文から解釈します。その際に,1条の目的規定や立法当時の社会情勢などの立法事実などを参考にして解釈をします。(ここの優劣を勘違いしやすいので注意してください)
 本件では,条例4条各号の目的を解釈します。
 1号柱書は,「電気自動車であること」を要件としていること,1条で自然保護が掲げられていること,社会的事実として自然保護地域の環境汚染が問題となっていることから,自然保護地域の自然保護が目的であると解されます。
 2号は,5年以上B市内に営業所を有している事業者であれば,自然保護地域について比較的知識を有しており慣れがありそうなので,安全性は比較的高いと考えられること,1条で輸送の安全確保,観光客の安全・安心が掲げられていること,社会的事実として自然保護地域で交通事故が起きていることから,自然保護地域での輸送の安全(観光客の安全・安心)が目的であると解されます。
 3号も,2号と同じく自然保護地域での輸送の安全(観光客の安全・安心)が目的であると解されます。
 1号と2号3号で目的が異なるので,それぞれについて目的審査をすることが必要になります。
 輸送の安全に関しては,不特定多数者の生命・身体であり,重要と認めてしまうのも一つの手かもしれません。しかし,自然保護地域におけるタクシー輸送の安全と正確に目的を理解すると,自然保護地域で起きた事故は,自家用車と観光バスであって,タクシーではないので,立法事実としてタクシー輸送の安全を図る必要性が裏付けられていないので,重要な目的とはいえないと主張することも可能でしょう。自然保護地域の自然保護については,環境という抽象的な利益では目的が重要とまではいえないなどは主張できるかもしれません。

7手段審査

 規制手段の適合性・必要性・相当性を判断します。これを一つの基準にしているのが上述した三つの審査基準ですが,たとえば,(厳格な合理性の基準でいう)実質的関連性という基準も,適合性・必要性・相当性で分析することができます。
 適合性→手段が目的に役立つかどうかを判断します。その役立つ度合いによって,実質的関連性か合理的関連性か関連性なしかが判断されます。役立つことが立法事実に裏付けられる場合には実質的関連性が認められ,そうでなく一応想定できるレベルであれば合理的関連性,それすらない場合には関連性なし,適合性なしということになります。
 本問では,2号と3号に対して適合性に関する主張をすることが考えられます。B市内に5年以上継続して営業所があっても,輸送の安全を確保できるとの立法事実が存在しないことなどを指摘することで実質的関連性なしといえると考えられます。
 必要性→LRAの有無の判断をします。当該規制手段よりもより制限的でない他の選びうる手段で目的を十分達成できるか否かを審査します。
 本問では,1号,2号,3号に対して必要性なしと主張することが考えられます。電気自動車よりもハイブリッド車の方がコストも低いし,排気ガスを押さえることもできるので代替手段があるという主張,B市内に営業所があるという限定は過剰規制であり,5年以上継続して営業という手段でも足りるという主張,10年以上というのは過剰規制であり,3年,5年で足りるという主張,などが考えられます。
 相当性(比較衡量)→個別的に比較衡量して,得られる利益の方が大きいと評価できるかを審査します。関連性もあるし,必要性もあるけれども,その規制手段を行使すると,不利益の方が得られる利益よりも大きい場合には相当性を欠くことになります。本問では,LRAの基準を用いているので,あまり主張することはないと思われます。考えられるものとすれば,仮にハイブリッド車では目的達成が無理であるとしても,電気自動車はコストが高すぎ,会社の継続を困難にするため,相当性を欠くという主張や,3号イロハの要件が仮にLRAがなかったとしても,これを満たす営業所はもともとB市内に営業所を構える会社に限定されるためそれ以外の会社にとっては満たすことが不可能なであるから,相当性を欠くなどの主張が考えられます。

第二問

1被告の反論

 被告の反論については「ポイントのみを簡潔に述べ」と問題文で指定さ れている以上,4行以上の長い論述はなるべく避けるのがいいでしょう。長くなる原因としては,事実を拾って主張を構成してしまうものです。主張に理由をしっかりつけたくなる気持ちはわかりますが,どこが争点なのかを明示するだけで反論としては足ります。よくいわれるのは反論は多くて3つが限界で,それ以上ポイントを増やすと内容が薄くなってしまうため,
 本件では「本件条例は職業活動の自由を制約しているにとどまり,狭義の職業選択の自由の制約は認められないとの反論」「本件の規制目的はいずれも重要な利益である」「本件規制にはより制限的でない手段は認められない」などの反論が考えられます。

2私見

 私見の書き方としては,無難な書き方は原告の主張と被告の反論について,問題文の事実を拾って,結論づけるものです。本件でいえば,ハイブリッド車なのか電気自動車かという争点については,「従来のガソリン車より燃費がよく排気ガスの排出量は少ない」という事実があります。この事実はハイブリッド車は自然保護に役立つとの事実なので,そのまま,「ハイブリッド車であっても排気ガスの排出量は抑えることができるので自然保護に役立つため,電気自動車よりも安価なハイブリッド車という同様に目的達成できるより制限的でない手段が存在する」と結論付けるのが無難な論述方法でしょう。ここをより深く掘り下げて,ハイブリッド車では排気ガスが多少なりとも排出されてしまうので,目的達成できないという方向で論述してしまうと,それを裏付ける事実や経験則がないため水掛け論になり,説得的な論述にならなくなってしまいます。ですので,なるべく事実を用いた結論づけを意識するといいでしょう。

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