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【創作SS】いきいきお母さんセミナー

 公民館事業として、小さなお子さんの子育てをしているお母さんたちの、交流と学びの場を作るために「いきいきお母さんセミナー」という講座を開くことにしました。

 始めての事業なので「参加者は集まるのか」「不足しているモノは無いか」など、不安を抱きながらの準備でした。
 順調に参加の申込みや問い合わせがあり、一安心していた頃、初老の女性の方が募集チラシを手に窓口を訪れ不安気に尋ねてきました。
「これは、まだ、募集してますか」
 僕はカウンターに近づきながら笑顔で応えました。
「大丈夫ですよ。まだ、定員になっていませんから。この申込書に受講される方のお名前とご住所をお願いします」
 次の言葉に笑顔が固まりました。
「私と孫で受講したいのですが、それでも良いでしょうか」
 駄目ではない。と直感的に思いました。受講資格は「未就学の子どもと保護者」としていたはず。だけど「いきいきお母さんセミナー」という講座名のとおり、想定していたのは「お母さん」、これまでの受講希望者も想定していたとおりでした。
 初老の女性の娘さんとお孫さんが受講するものと考えながら窓口に出た僕は、比較的若い女性が多い講座に年代の違う方が参加して、うまく運営できるのかという不安を抱き、館長がいる席の方を振り返りました。

 館長も席を立ち僕たちの方に近づくと、とびきりの笑顔で応えてくれました。
「もちろん、受講してください。大歓迎ですよ。わざわざご足労いただいたのですから中でお茶でもいかがですか」
 女性を事務室に誘いました。狭い事務室なので、館長と女性の話が聞くともなく聴こえてきました。

 娘夫婦と同居することになり、孫の世話をすることになったが、自分の子育ての時代とは環境も違い、娘夫婦との考え方も違い不安なこと。また、昔から「おばぁちゃん子は三文安い」と言われているので、自分のせいで孫が駄目になるのではないかと不安なこと。そんな不安から、ちゃんと勉強したたいと思い、受講資格が無いとは思いながら公民館にきたこと。

 女性を見送った後、館長に尋ねました。
「おばぁちゃん子は三文安い。という諺、僕ら普通に使いますよね。別に使っちゃいけない言葉ではないですよね・・・。あと、お母さんセミナーにおばぁちゃんが加わって、うまく運営できますかね。みんなが受け入れてくれるでしょうか」
「諺そのものは良く知られているけど、普通でもないし根拠もないな。まして、傷つく方がいるのなら使うべきじゃないのだろうな。お互い気をつけよう」
それから僕の方に向き直り、
「講座がうまく運営できるかどうかは、太郎君次第じゃないかな」
笑いながらおっしゃいました。

 しばらくしたある日、ふと館長が口にしました。
「親って何だろうな。子どもができたから親じゃないよな。子どものために、親として何をすべきかを考え、行動するから親じゃないかな」
 誰に言うともない口調でしたし、答えることができませんでした。

 その後「いきいきお母さんセミナー」は盛況で終わりました。おばぁちゃんや、お母さん、そして参加した子どもたちの笑顔が、それを実感させてくれました。
 恥ずかしながら、担当としての力不足を、講師や参加者などたくさんの方たちに支えていただきました。
 これからも共に、友として地域の親として、皆さんと一緒に考え、行動していきたいと考えています。

(本文ここまで)

 若き太郎が、公民館に勤務していたら。という想定でのフィクションです。


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