見出し画像

【創作 題名のない物語 最終話】セレーノ

 音楽が止まり、木元のスマホが、軽い音を告げる。
(休日の昼間なのに)
 今も、LINEを送ってくる友人は、一人しかいない。
 スルーしようかと考えたが、スマホを手にとる。
「この家で間違いないですか」
 一行だけ表示されていた、そして写真が1枚、添付されているのは、我が家の写真。




 慌てて階段を飛び降り、玄関のドアを開ける。言葉にならず、空を見上げる

セレーノ!

透き通るような青空、本当の空がそこにあった。

そして夢に見た、夢でしか逢えないはずの西野がいる。
嬉しくて、言葉にできない。
嬉しくて、言葉にできない。
スマホからはSEKAINO OWARI「RPG」が流れている。

「4月から郡山児童相談所への採用が決まり、郡山市に越してきましたので、ご挨拶に参りました。突然ですいません。
児童福祉の分野で働きたくて転職先を探していたら、偶然、木元さんの故郷で採用された。偶然、退職するのが同じ年になったというのも運命的な感じですけど、そうなるように頑張った子がいた。というのもいじらしいと思いませんか」
言い終えて屈託なく笑う。この問いになら、正解が言える。
「生涯、あなたを大事にします」
 西野を抱きしめる。懐かしい香りが心に満ちる。
胸のあたりで声が聞こえる。
「そうですね。大事なことは、これからどうしていくかですかね」

 聞いてよいのか、聞くべきじゃないのかわからないけど、確認しなければならない。
「西野さんが好きだったという人は」
震え声で西野が応える。
「好きな男性は、ずっと木元さんだけです。
こんないい女を東京に置いていく悪い人ですけど」
 とんでもない馬鹿野郎がいたものだ。木元は、もう一度天を見上げた。涙が頬を伝う。
 空は青く澄み渡り、天は二人に微笑むような柔らかな光を降り注ぐ。

 西野との物語は、まだプロローグだったらしい。ここで、ここから、一緒に創ろう。「幸せな家族の物語」
 僕らはもう、一人じゃない。


サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。