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【創作SS】裏口入学

「武田君、今日はどこから構内に入りましたか」
研究室で教授が唐突に問いかけた。
「はい、普通に正門からです。いつもどおりです」
教授は表情を変えずに
「千原君、君は」
「裏門からです、僕のアパートからは裏門の方が近いんで」
「結構。私は2人とも正しい選択をしていると考えます。ゼミ長は2人の選択についてどう考えますか」
(今日はどんな仕掛けがあるのか)
と警戒し、タメ息を一つついてからゼミ長が答える。
「入口から入るという点において、2人とも正しい選択をしていると考えます。しかし門についている「正と裏」という言葉を踏まえた場合、より正しいのは武田君ではないでしょうか」

 教授はカッと、目を開いた。

「素晴らしい。私の「2人とも正しい」という考えに忖度することなく「正と裏」という違いを考え、自分なりの解、価値観を見つけたことを評価します。
 それでは、あらためて武田君に伺います。裏門を使うのは間違いでしょうか」
 迷うことなく武田が答える。
「教授が先ほど『2人とも正しい選択』とおっしゃったとこともありますが、裏門も門である以上、門として利用することに問題はなく、間違いでは無いと考えます。
 ただ、今更ですが、僕が最初に『普通に正門』と答えた『普通に』は誤った表現でした。僕にとっては『普通』でしたが、千原君や教授にすれば『普通』に使う門ではないと考えるからです」
教授は満足そうに頷くと、皆に問いかけた。
「ここまでの話し、皆さんもある程度は同意していただけますか」
全員が頷く。
「それでは高橋君に尋ねます、いわゆる裏口入学という行為は間違いでしょうか」
ゼミ一年目の高橋は、無茶振りに顔を紅潮させながらキッパリと答えた。
「それは不正な行為です、違いではなく誤り、間違いに当たると考えます」
 他のゼミ生はニヤニヤしていた。何か教授の仕掛けがあることを感じていたからである。
「自分の考えを即時に披露できたのはとても良いことです。ただ1点確認させてください。「不正とは何か」ということです」
即座に高橋が答えた。
「正規の入学試験において合格基準を満たしていないまま入学することと考えています」
高橋は胸を張り落ち着いた様子で答えた。
「ありがとう、実に良い答えでした。ただ、私の考える「不正」とは「入学基準を満たしていないこと」になります。
 教立大学に入学するための入学基準には、筆記や推薦、特待生などの試験の概念に加えて「その他 学長が入学を認める場合」とあります。
 つまり「学長が認めた場合には「正規の筆記試験」は必要ないと解釈しています」
「その、恣意的に運用される基準は、所謂「裏口」であり、不正な行為ではないでしょうか」
「高橋君の言うとおり「裏口」という概念に入るでしょう。しかし公式の「基準」としてある以上、恣意的に運用されているとしても、「不正」でも「間違い」でもないというのが、私なりの考えです。「不公平」とは言えるでしょう。
 ソクラテスの言葉として『悪法と言えど法なり』があると言われています。悪法かどうかは立場や視点により変わりますので、定義が難しいものです。
 現実は複雑で残酷で、難解です。
 しかし「法を守る気持ち」は重要です。そして私は皆さんと法を「変える勇気」「破る覚悟」も抱きたいと考えています。

 長々とお話しして恐縮ですが、本日話題にした、裏口入学の是非は主題ではないのです。

 どのような入口から入ったかは「過去」です。過去は否定しても変えることはできません。ですから否定することなく感謝して、現在あるもの、いる場所を受け入れ、未来に向けて「何をしていくか」が大切ではないかと考えています。

 現在、日本で戦闘は行われていませんが、国同士の戦闘、所謂戦争状態にある国家の一方を支援し、一方に制裁をしています。これは戦争に加担していると考えます。
 また、日本は過去に第二次世界大戦を経験しましたが現在、領土を確定する和平条約が締結されていない国もありますし、我が国の広い範囲で異国に占領された土地、基地があり治外法権となり主権が侵害されたままです。
 敗戦は受け入れているが、終戦はしていないと考えています」

 教授は厳しい表情を浮かべた。

「未来に向けて、平和とは何か、そのために何をするか、考え行動し続けること。そして「法」は過去の方々の知見から生まれたものなので、感謝し守る敬意が必要です、しかし現在の価値観と合わない場合「変える勇気」「破る覚悟」も必要だと考えています。ある方の言葉を借りれば

『法のために人がいるのではなく、人のために法がある』

ということになります。そして法も人も目指す未来として
#地には平和を人には愛を
というテーゼを考え続けることが、このゼミの存在意義であり、皆さんと私が共にいる意味と考えています。これからも平和な未来の実現に向け、共に歩みをお願いします」

教立大学は本日も平和。
(本文ここまで)

 久しぶりの「教立大学物語」です。なんのオチもなくてすいません。
「ふざけた、くだらない話」を書きたいと思いつつ、真面目に書いてしまいました。準備不足で申し訳ありません。というのも本日、「はそやmさん」が、このような記事を投稿されました。

 池袋&立教大学が登場しているではありませんか、知る人ぞ知るネタになりますが、池袋にキャンパスがあるという設定の「教立大学」のモチーフは「立教大学」です。
 ということで、唐突に「教立大学物語」を書きたくなりました。
 「教立大学」と「メガネレンジャー」は、たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」関係で登場することが多かったのですが、ちょっと「毎週ショートショートnote」のお題が難しくアクロバティックな展開にすることに疲れてしまい投稿を控えておりましたことから「教立大学」と「メガネレンジャー」も登場する機会が減っていました。

 今後の出番はあるのか「神のみぞ知る」ということになろうかと思います。そして、私の作品で「神」と言えば「宗像三女伸」・「隠津島神社」をモチーフとした
#夢見る木幡山
#何を書いても最後は宣伝

になります。
 ちなみに宣伝効果は薄いです。
 それでも神がかりに読まれる未来を「夢見る太郎」です。




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