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「夏ピリカ応募」 朝のルーティーン

 いつもの朝と同じ、奴と顔を合わせると、いつものように茶化した挨拶。
「つまんない顔というか、今日も時化た面だな」
「何だよ、毎朝人を馬鹿にするけど、お前も似たような顔してるだろう」
「うん、それは否定しないけどさ、お前のことを心配しているから、正直に言ってるんだ。誰にでも言う訳じゃないぞ。それとも、心配しないで、知らんぷりした方がいいのかい」
「いや、そういう訳じゃないけど、時化た面も、老けた面も、お互い様だと思うから、言われっ放しなのは、面白くないぜ」
「全然違う、俺は、自分の人生を楽しんでるから、結構充実しているよ」
「よく言うよ、強がりにしか聞こえないんだけど」

 どちらからともなく、笑みを浮かべる。

 ルーティーンワークのような朝の会話。
 悪気が無い冗談のようなやり取りが、お互いの活力に繋がることを否定できない。
「いいか、俺たちは、大した能力もないのに、ここまで30年、勤め上げてきた。ただ、ひたすらに、ひた向きに進んできた。誰もができることじゃないと思う」
「うん、それは間違いない。いい加減とか、適当とか言われたこともあるけど、ここまで、一歩一歩、歩みを進めてきた」
「だから、時化た面は止めて、シャキッとパーンと景気良く」
「くだらないような毎日でもあるけれど、人生を楽しまないと」
「当然さ、生きてるんだから、楽しもう」

「五月蠅いよー、何を一人でブツブツ言ってるの」
 ノックの音がして、その後を追いかけるように妻が声が聞こえ、俺はビクッとして後ろを向いたから、鏡の中の俺も、鏡の世界の後ろを振り返っていることだろう。

 煩いとかウザイとか、鬱陶しいとか言われても、洗面台にいる自分と、毎朝会話するのが、戸惑いながらたどり着いた俺のストレス解消法だ。
 誰にも知られないようにしていたのに、今日は声に出してしまったのが失敗だ。

 だけど、多分、この話のシンのオチは、誰にも気づかれて、知られていないはず。

 ずっと、しりとりをして遊んでいたのですよ。
(829文字)

#夏ピリカ応募

#何を書いても最後は宣伝






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